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世界最強ヒーラー、サービス終了したゲーム知識で現実ダンジョンを攻略する ~伝説のギルド《Aegis》復活~  作者: PeterP4n
第八章 新たな攻略

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第106話 白銀を砕く者

# 第106話 白銀を砕く者


 巨大な影が、Cainを覆った。


 亀裂へ噛み込んだ斧槌は、まだ抜けない。


 メタルリザードの前脚が振り上がる。


 床に落ちた影が、Cainの足元まで伸びた。


 Arcの声が、考えるより先に飛ぶ。


「Garm!」


 Garmはもう動いていた。


 盾を構えたまま、Cainの前へ身体を滑り込ませる。


「《カバー》」


 白い光がGarmの鎧を走り、Cainへ向かって落ちる前脚の軌道を引き受けた。


 次の瞬間。


 轟音。


 盾が沈む。


 湿った床が割れ、Garmの膝が初めて大きく落ちた。


 《ホーリーオーラ》の光が揺れる。


 《プロテクション》の膜が砕けるように白く散った。


 それでも、Garmは倒れない。


 盾の裏で、歯を食いしばる音がした。


「……まだ、行ける」


 その声に、Arcは杖を向ける。


「《リジェネ》」


 淡い光がGarmの肩へ染み込み、鎧の隙間から滲んだ血を押し戻す。


 Garmの膝が、ほんのわずかに戻る。


 盾はまだ沈んでいる。


 それでも、巨体はその先へ進めなかった。


 Cainは斧槌を引く。


 抜けない。


 亀裂の奥で噛み込んだ打面が、外殻に食われている。


「チッ……!」


 Cainの腕に力が入る。


 メタルリザードがもう一度前脚を引いた。


 Garmの盾だけでは、次を受け切れない。


 横から黒い鎖が走る。


「《ブラックチェイン》」


 Crowの声は低かった。


 影から伸びた鎖が、メタルリザードの前脚へ絡む。


 さっきよりも細い。


 本数も少ない。


 それでも、黒い鎖は前脚の動きを一瞬だけ鈍らせた。


 Crowのブーツが床を削る。


「一秒だ」


 十分だった。


 Cainが斧槌を捻る。


 ガギ、と嫌な音がして、打面が亀裂から抜けた。


 腕へ反動が戻る。


 Cainは一歩下がり、息を吐いた。


 その一秒で、Siaが動いていた。


 彼女の指は、すでに次の矢へ触れている。


 赤い印はまだ残っていた。


 その中心。


 蜘蛛の巣のように走った亀裂の奥。


「そこ」


 Siaの声は小さい。


 だが、迷いはなかった。


「《ペネトレイトアロー》」


 矢が放たれる。


 空気を裂く音は細い。


 けれど、矢尻は真っ直ぐ赤い印へ吸い込まれた。


 外殻の表面では止まらない。


 亀裂の奥へ、深く刺さる。


 ギン、ではなかった。


 ミシ。


 内側から軋む音がした。


 亀裂が、ほんの少し広がる。


 Siaが息を呑んだ。


「入った」


 その声に、メタルリザードが反応する。


 割れた場所を守るように、巨体が捻れた。


 亀裂がCainの正面から外れる。


 このままでは、次の一撃が届かない。


 Rainが笑った。


「なら、戻せばいいよね」


 彼女の足元に残っていた《ヘイスト》の光が揺れる。


 湿った床を蹴る。


 《Quick Step》。


 Rainの身体が、尾の影を潜るように横へ抜けた。


 今度は避けるためではない。


 位置を作るためだった。


 亀裂の反対側へ回り込み、二本の短剣を交差させる。


「《Cross Edge》」


 十字に走った斬撃が、割れた外殻の縁を叩いた。


 深くは入らない。


 だが、痛みはある。


 メタルリザードの首がRainへ向く。


 巨体がわずかに戻る。


 その動きで、亀裂が再びCainの正面へ晒された。


 Rainは尾の外側へ跳びながら、短く笑う。


「はい、どうぞ!」


 Cainの口元が上がった。


 Novaの肩で、シルフが震えていた。


 サラマンダーの火も、いつもより細い。


 補助契約は続いている。


 だが、長くはもたない。


 Novaの呼吸が浅い。


 肩がわずかに上下した。


 Arcは今度こそ迷わなかった。


「《マナヒール》」


 淡い光がNovaへ届く。


 Novaの指先に戻った力を、シルフが先に拾った。


 小さな羽が広がる。


 風が火を支える。


 サラマンダーがCainの斧槌へ跳ねた。


 赤い火が、打面へ集まっていく。


 爆発ではない。


 熱が、一点へ収束していく。


 Cainは斧槌を構え直した。


 腕は痺れている。


 握力も戻りきっていない。


 それでも、踏み込む足だけは止まらない。


 盾は動かない。


 鎖は離れない。


 矢は亀裂を逃さない。


 Rainが戻した位置に、赤い印が晒される。


 風は火を支える。


 Arcの支援光が、それらを一本に束ねていた。


 Arcは杖を握ったまま、短く告げた。


「終わらせろ」


 短い命令だった。


 Cainは一度だけ息を吸う。


 吐く。


 斧槌を握り直した。


 洞窟の中で、白い鉱石の欠片が小さく震える。


 メタルリザードが亀裂を守ろうと身体を捻る。


 だが、遅い。


 Cainの足が床を踏み抜いた。


「《重閃》」


 斧槌が、落ちた。


 重い。


 先ほどの《破断》よりも、さらに重い。


 肩が軋む。


 腰が沈む。


 靴底が湿った床を滑りかけ、Cainは歯を食いしばって踏み止まった。


 打面に集まった火が、亀裂へ押し込まれる。


 シルフの風が、その熱を逃がさない。


 衝撃が一点へ沈む。


 ガン、という音ではなかった。


 洞窟そのものが、低く鳴った。


 亀裂が、奥で一度止まる。


 白銀の外殻だけが震えた。


 メタルリザードが耐えた。


 太い前脚が床を掻き、爪が石を削る。


 まだ倒れない。


 砕けた鉱石へ顎を伸ばそうとする。


 だが、届かない。


 Siaの矢が脚元を縫い、Rainが視界の端を走る。


 Garmの盾が正面を押し返し、Crowの鎖が前脚を縛り続ける。


 Novaの肩で、シルフが悲鳴のように羽を震わせた。


 サラマンダーの火が、もう一段奥へ沈む。


 掌が痺れる。


 指先の感覚が消える。


 柄を握っているのかさえ曖昧になる。


 それでも、斧槌を捻じ込む。


 歯を食いしばる。


 叫ばない。


 ただ、踏み込む。


 ミシ。


 亀裂の奥で、細い音が鳴った。


 その手応えを、Cainだけが拾う。


 痺れた腕の奥で、確かに何かが抜けた。


「通った……!」


 一瞬。


 洞窟が静かになる。


 水滴が落ちる。


 ぽたり。


 その直後。


 バキィッ。


 一本だった亀裂が、一瞬で全身へ走る。


 白銀の外殻が内側から持ち上がった。


 弾ける。


 破片が雨のように舞い、洞窟の淡い光をばらばらに散らした。


 メタルリザードが咆哮する。


 だが、その声は途中で途切れた。


 支えを失った巨体が揺れる。


 前脚が床を掻く。


 最後まで、鉱石を探すように顎が動いた。


 けれど、もう届かない。


 尾が一度だけ大きく跳ねた。


 そして。


 崩れた。


 ドォォォン……。


 重い音が洞窟を揺らし、天井から細かな石粉が落ちる。


 誰も、すぐには動かなかった。


 Cainは斧槌を下ろせないまま、肩で息をした。


 Garmは盾を構えた姿勢のまま、ゆっくりと膝を戻した。


 Crowの黒い鎖は、床の上で煙のようにほどけて消えていく。


 Rainは短剣を下ろし、ようやく息を吐いた。


 Novaの肩では、シルフが力を抜くように羽を畳む。


 サラマンダーも小さく火を揺らしただけだった。


 Arcの視線が、ゆっくりと動く。


 肩で息をするNova。


 盾から手を離せないGarm。


 斧槌へ身体を預けるCain。


 尾の外側で座り込んだRain。


 ほどけていく鎖を見下ろすCrow。


 次の矢をつがえたまま止まっているSia。


 誰も倒れていない。


 それを確認してから、Arcはようやく杖を下ろした。


 床に、硬い音がした。


 砕けた外殻の奥から、白銀の鉱石がいくつも零れていた。


 Arcがゆっくり近づく。


 膝をつき、破片の一つを拾い上げた。


 洞窟の淡い光を受けて、鉱石の内部が白く輝く。


 掌の上で転がす。


 見た目よりも、ずっと重い。


 次に、割れた断面へ目を近づけた。


 白い光が、層の奥で細く揺れている。


 Arcはしばらく断面を見つめていた。


 ゲームの記憶にある色と、よく似ている。


 だが、断定はしない。


 加工できるかどうかは、現場の自分よりも詳しい者がいる。


「白銀輝鉱のはずだ」


 その一言に、Cainが疲れた顔で笑う。


「じゃあ、持ち帰れば俺の武器も強くなるか?」


 Arcは破片をマジックバッグへ入れながら答えた。


「そこはDwalfに聞け」


「じゃあ、腕が痺れた甲斐はあったな」


 Rainが肩をすくめる。


「もうあの尻尾は見たくないかな」


 Crowが煙の消えた床を見下ろす。


「次はもっと軽い素材にしろ」


 Arcは床へ散った白銀の鉱石へ視線を落とす。


 砕けた外殻の奥には、まだいくつもの欠片が残っていた。


「回収する。大きい破片は優先だ」


 その言葉に、全員がゆっくり動き出した。


 空洞の張り詰めた空気が、ようやく緩む。


 Arcは倒れたメタルリザードを見る。


 それから、もう一度仲間たちを見る。


 誰の姿も欠けていない。


 そこで、初めて小さく息を吐いた。


 砕けた外殻の破片が、静かに床へ転がっている。


 その奥で、白い鉱石だけがまだ淡く光っていた。



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