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世界最強ヒーラー、サービス終了したゲーム知識で現実ダンジョンを攻略する ~伝説のギルド《Aegis》復活~  作者: PeterP4n
第八章 新たな攻略

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第104話 白銀の外殻

# 第104話 白銀の外殻


 金属が擦れるような低い唸りが、空洞いっぱいに広がった。


 巨体が、ゆっくりと身体を起こす。


 岩を積み重ねたような外殻が洞窟の淡い光を鈍く返し、床へ散らばった鉱石の欠片が重みに押されて小さく跳ねた。


 Garmが半歩前へ出る。


 盾の縁が湿った床を擦り、低い音を立てた。


 その背中から、白い光が静かに広がる。


「《ホーリーオーラ》」


 Garmの声は低い。


 光は鎧の継ぎ目をなぞるように広がり、Rainの肩、Siaの腕、Cainの斧槌へ淡く移っていった。


 巨体が低く唸る。


 白い光を嫌がるように、太い爪が床の鉱石片を押し潰した。


 ArcはGarmの背へ杖を向ける。


「《リジェネ》」


 淡い光がGarmの鎧へ染み込み、胸元でゆっくり脈打つ。


 その光が消え切る前に、Arcは盾へ焦点を移した。


「《プロテクション》」


 白い光がGarmの肩から盾へ流れ、重い金属の表面に薄い膜を張る。


 前脚が湿った床を掻く。


 動く。


 Rainへは、一拍遅れて光が走る。


「《ヘイスト》」


 淡い光がRainの足元を駆け抜ける。


 湿った石の上に立っているのに、彼女の重心だけがふっと軽くなった。


 Rainはつま先で床を一度叩き、口元だけで笑う。


「足元、悪いのに助かる」


 Arcは前を見たまま、短く指示を置いた。


「Garmが正面。Siaは脚。Rainは側面」


 返事はなかった。


 必要なかった。


 Garmが盾を構え、Siaの矢が弦を離れ、Rainはすでに巨体の横へ流れている。


「《Break Shot》」


 矢は前脚の関節を狙って一直線に飛んだ。


 洞窟の中で、甲高い音が跳ねる。


 矢は鱗を浅く削り、火花だけを残して弾かれた。


 それでも、鱗の表面に細い傷が一本残る。


 Siaの目が細くなる。


「浅い」


 Rainの視線が、その細い傷を拾った。


 その一言が消えるより早く、Rainが側面へ入る。


 《ヘイスト》を受けた身体は、滑るように低く走る。


 太い尾が床を擦った。


 次の瞬間、空洞の空気ごと薙ぎ払われる。


 Rainは《Quick Step》で地を蹴った。


 風圧が頬を叩き、髪が一瞬遅れて揺れる。


 尾の先がかすめた床には、白い筋が残っていた。


「笑えない速さなんだけど」


 軽口を残しながら、Rainは短剣を外殻へ滑らせる。


 狙いは、Siaが残した細い傷だった。


 返ってきたのは、肉を裂く感触ではない。


 金属を叩いたような硬い震えだった。


 Rainの手首が弾かれる。


 傷は広がらない。


 それでもRainは足を引かない。


 もう一度、同じ傷へ刃を入れようと身体を沈める。


 その瞬間、尾が逆方向へ戻る。


 Rainの身体が一瞬ぶれた。


 そこに残ったのは、彼女の姿ではなく薄い残像だけだった。


 《残影》。


 尾は空を薙ぎ、Rainはすでに一歩外へ逃げている。


 Cainが斧槌を握り直した。


「硬ぇな」


 指先に力が入っている。


 踏み込みたい。


 だが、まだだ。


 Arcの合図を待つ。


 補助契約の赤い線も、斧槌には走っていなかった。


 巨体が前脚を振り上げる。


 その大きさに似合わない速さだった。


 Garmが盾を正面へ突き出す。


 衝撃。


 洞窟の壁から水滴が散り、白い光が盾の表面で砕けるように揺れた。


 《プロテクション》が受け止めている。


 それでもGarmの靴底は、湿った床へ半歩分押し込まれた。


 盾を握る手の甲に細かな擦り傷が走り、すぐに《リジェネ》の光がそこへ滲んだ。


「……重い」


 短い一言だけで、十分だった。


 Arcの視線が止まる。


 記憶とは違う。


 巨体はRainを追わなかった。


 黄色い瞳が、床へ落ちる。


 戦闘の衝撃で砕けた白銀輝鉱の欠片。


 その一つへ、巨大な顎が近づいた。


 ――ゴリ。


 乾いた音が鳴る。


 欠片が噛み砕かれ、白銀の粉が牙の隙間からこぼれた。


 Rainが思わず足を止めかける。


「あいつ、戦いながら飯食ってる!」


 Dwalfは答えない。


 目だけが、外殻を追っている。


 砕かれた鉱石が喉の奥へ消えた瞬間、巨大な背がほんのわずかに光った。


 見間違いでもおかしくない。


 だが、鍛冶師の目はそれを逃さなかった。


 鈍い光が外殻を走る。


 さっきまで見えていた細い傷が、ゆっくりと鈍い銀へ埋もれていった。


 Dwalfの眉間に深い皺が寄る。


「傷が消えてる」


 小さく息を吐き、Dwalfは巨大な背中を睨む。


「鉱石を食うたび、締まってる」


 Crowが舌打ちする。


「最悪だな」


 Siaの二射目が走った。


 今度は鱗の隙間。


 矢はわずかに皮膚を裂いたが、奥までは届かない。


 魔物は痛みよりも先に、別の欠片へ顔を向ける。


 Arcの視線が、空洞の床を走った。


 入口の食痕が、目の前の音へ重なる。


 ゴリ。


 また一つ、外殻が鈍く光る。


「食わせるな」


 Arcの声は短かった。


 だが、その一言でNovaが動く。


 肩のシルフが羽を広げた。


 洞窟の中には、草原ほどの風はない。


 それでも細い風が床を這い、転がっていた白銀輝鉱の欠片を少しずつ押し流す。


 巨大な顎が、空を噛んだ。


 初めて、動きが止まる。


 黄色い瞳がゆっくりとNovaへ向いた。


 太い尾が、床を削りながらNovaの方へ振られる。


 Crowが一歩動く。


 だが、尾の方が早い。


 Arcの杖が一瞬早く動いた。


「《バリア》」


 透明な壁がNovaの前に生まれる。


 尾がぶつかった瞬間、壁は細かく砕けた。


 それでも、衝撃の芯だけは逸れる。


 Novaの足元で小さな石片が跳ねた。


 シルフは肩の上で小さく身を震わせながらも、羽を畳まない。


 細い風が、床の欠片をさらに遠ざけていく。


 Novaの呼吸が一つ深くなった。


 Arcの視線がNovaへ流れる。


 シルフの風は止まらない。


 だが、Novaの呼吸は少し浅い。


 杖を握る指へ、自然と力が入った。


 《マナヒール》。


 ……まだだ。


 サラマンダーがシルフの隣で、小さな火を揺らす。


 Cainの斧槌が、わずかに赤く反応しかけた。


 けれどCainは握るだけで、踏み込まない。


「ここじゃねぇな」


 Arcが何も言う前に、Cainはそう呟いた。


 巨体が低く唸った。


 床の鉱石片が風に押され、顎の届かない場所へ転がっていく。


 そのたびに、黄色い瞳が細くなる。


 全員、まだ崩れていない。


 問題は時間だった。


 床の鉱石が残る限り、外殻はさらに締まっていく。


 長引けば、こちらの刃が届かなくなる。


 Garmの盾が正面で軋む。


 Siaの矢が脚元を縫う。


 Rainが側面で呼吸を合わせる。


 Novaの肩では、シルフが震えながら風を保っていた。


 それでも、床に散った全ての欠片までは遠ざけられない。


 ゴリ。


 砕かれた白銀輝鉱が、喉の奥へ消える。


 その音が、洞窟の奥でいつまでも残った。

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