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世界最強ヒーラー、サービス終了したゲーム知識で現実ダンジョンを攻略する ~伝説のギルド《Aegis》復活~  作者: PeterP4n
第八章 新たな攻略

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第102話 精霊契約の変化

# 第102話 精霊契約の変化


 滝の音が、足元の石まで震わせていた。


 二十五階層へ向かうはずだった一行は、その場で足を止めている。


 Novaが少し待って、と言ったからだ。


 普段なら、彼女が無駄に時間を使うことはない。


 だからこそ、誰も急かさなかった。


 Novaは自分の手を見つめていた。


 指先に、薄い風がまとわりついている。


 目に見えるほど強くはない。


 けれど、髪の先が不自然に揺れ、袖口がふわりと浮いていた。


 肩には風精霊。


 その隣にはサラマンダー。


 火と風の小さな精霊が、互いを気にしながらも大人しく並んでいる。


 どうしたの、とRainが少しだけ首を傾げる。


 Novaはすぐには答えない。


 濡れた岩の上で、ゆっくり一歩だけ横へ動いた。


 足音が軽い。


 いつもの彼女の動きより、わずかに速かった。


 本人もそれに気付いたのか、もう一度だけ同じ動きを試す。


 今度は、風精霊が肩の上で小さく羽を震わせた。


 Novaの身体が、ふわりと滑る。


 Rainの目が丸くなった。


「今、ちょっと速くなかった?」


 身体が軽い、とNovaは足元を見たまま頷く。


 短い言葉だった。


 だが、そこに驚きが混じっている。


 Arcはその動きを見ていた。


 ゲーム知識で言えば、風精霊契約には移動補助があった。


 敏捷性の上昇。


 風属性魔法の強化。


 それ自体は珍しい情報ではない。


 だが、現実の身体でそれが起きているとなると話は別だった。


「契約時の常時効果か」


 たぶん、とNovaはゆっくり頷いた。


 風精霊が肩の上で羽を鳴らす。


 そのたび、Novaの足元に薄い風が絡んだ。


 ただ、反応はArcの記憶よりも強い。


 ゲーム時代の風精霊契約は、移動を少し滑らかにする程度だった。


 今のNovaは、踏み込む前から風に押されている。


 この階層そのものが、風精霊の力を後押ししているのだ。


 足音も軽くなってる、とSiaは草原側へ視線を向ける。


 分かるの、と聞いたRainへ、Siaは足元の濡れた石を指した。


「水を踏む音が薄い」


 Crowが小さく息を吐いた。


「便利だが、慣れないうちは危ないな」


 動きすぎる、とNovaも同じことを考えていたのか、少しだけ足を引いた。


「制御できるまでは戦闘で無理に使うな」


 Arcの判断に、Novaは頷く。


 頷いた彼女の肩で、風精霊が嬉しそうに揺れた。


 その反応を見て、Rainが小さく笑う。


「なんか、褒められてると思ってそう」


 たぶん、とNovaは風精霊を見た。


 その小さな顔がどこか弾んで見えて、嬉しそう、と続ける声も自然に柔らかくなった。


 そこへ、サラマンダーが小さく火を吐いた。


 火は風に流される。


 だが、さっきまでのように散らされるだけではなかった。


 風精霊が羽を震わせると、流された火が細くまとまり、Novaの前で小さな輪を作る。


 Novaの目が変わった。


「……火が消えない」


 サラマンダーがもう一度火を吐く。


 今度は風がそれを押し広げるのではなく、形を支えた。


 小さな炎の輪が、ふわりと空中で揺れる。


 Novaはその輪へ指を伸ばし、すぐに引いた。


 熱はある。


 けれど、不安定ではない。


「相性が上がってる」


 Cainが斧槌を肩に担いだまま、火と風って相性いいのか悪いのか分かんねぇな、と顔を上げる。


 どっちも、とNovaは短く答えた。


「風が強すぎると火は消える。でも、合えば火は伸びる」


 サラマンダーは満足げに胸を張る。


 風精霊はその隣で、くるりと宙を回った。


 二体の精霊の間を、細い魔力の線が一瞬だけ走る。


 Lunaがいれば目を輝かせていたに違いない。


 今の見えた、とRainが思わず声を上げる。


 Garmは静かに頷き、Crowは何か繋がったな、と眉を寄せた。


 Novaはサラマンダーを見た。


 次に、Cainの斧槌を見る。


 前にサラマンダーが興味を示した、新しい武器。


 その記憶が、彼女の中で繋がった。


 NovaがCainの名を呼ぶと、彼は自分を指差した。


「俺か?」


 Novaは頷き、サラマンダーへ視線を落とした。


 少しだけ試す、とNovaが言いかけたところで、Crowが危険は、と口を挟む。


 低い、とNovaは答えた。


 Novaは斧槌から少し距離を取り、でも全力は駄目、と付け加える。


 そういうのは最初に言え、とCainは少しだけ笑い、斧槌を両手で握った。


 サラマンダーが草の上を跳ねる。


 朝露に触れるたび、白い湯気が細く上がった。


 小さな炎の精霊はCainの足元まで来ると、斧槌のハンマー側へ前足を置く。


 風精霊がNovaの肩で羽を震わせた。


 その瞬間、火が散らなかった。


 斧槌の金属へ、細い赤い線が走る。


 前に見えた一瞬の光より、少しだけはっきりしていた。


 Cainの表情が変わる。


「熱い、ってほどじゃねぇ」


 彼は柄を握り直す。


「けど、力が乗ってる感じはある」


 Novaは息を整えた。


「補助契約」


 初めて、その言葉を口にした。


「私の契約を通して、サラマンダーが少しだけ力を貸してる」


 つまり、と目を輝かせたRainへ、NovaはCainの火力が上がる、と短く返した。


 Cainの口元が一気に上がった。


 いいじゃねぇか、と笑いかけたところで、Crowが先に制限があるんだろ、と釘を刺す。


 Novaは頷く。


「私のMPが枯渇したら契約が切れる。あとサラマンダーが嫌がっても切れる」


 サラマンダーが、小さく火を吐いた。


 それは、嫌ならやらない、と言っているようにも見えた。


 分かった、無理はさせねぇ、とCainは斧槌を見下ろし、少しだけ真面目な顔になる。


 その返事に、サラマンダーは満足げに尾を振った。


 試すには、ちょうどいい相手がすぐに現れた。


 草むらの奥で、風が不自然に揺れる。


 Siaが弓を上げ、前方に二、と短く告げる。


 ウィンドウルフだった。


 先ほどの群れより少ない。


 だが、二匹はすぐに風上へ回ろうとする。


 草の匂いが薄く流れ、灰色の影が左右へ割れた。


 Garmは盾を前へ出し、受ける、と短く告げて一匹目の進路を塞ぐ。


 Siaの矢が草を裂き、もう一匹の足を止めた。


 試すなら今だよ、とRainはすでに横へ回っている。


 Cainは斧槌を構えた。


 ハンマー側に、細い赤い線がまだ残っている。


 サラマンダーがNovaの足元で小さく火を揺らし、風精霊がその火を崩さないように支える。


 Novaは息を止めない。


 力を込めすぎず、流れを保つ。


 それが大事だった。


 ウィンドウルフが風刃を放つ。


 Garmの盾がそれを受け、音が薄く裂ける。


 その隙に、Cainが踏み込んだ。


 いつものように大きく振りかぶらない。


 短く、重く。


「せいっ!」


 斧槌がウィンドウルフの胴へ入る。


 鈍い打撃音に、火が一瞬だけ重なった。


 爆発ではない。


 殴った場所へ、熱が押し込まれるような一撃だった。


 ウィンドウルフの身体が草の上を転がる。


 朝露が弾け、焦げた草の匂いが一瞬だけ混じった。


 Cainは目を見開く。


 それ、絶対楽しいやつ、とRainが背後から二匹目を仕留めながら笑う。


 楽しい、と即答しかけたCainは、サラマンダーを見てから言葉を足した。


「……けど、無理はしねぇ」


 Crowが珍しく口元だけで笑う。


「学習したな」


 戦闘はすぐに終わった。


 Novaは肩で息をするほどではない。


 だが、額に少しだけ汗が浮かんでいる。


 Arcはそれを見逃さず、負荷は、と短く確認する。


 少しある、とNovaはサラマンダーと風精霊を順に見た。


 風精霊が肩で羽を畳む。


 サラマンダーも、いつもより火が小さい。


 連発は無理、とNovaが続ける。


 十分だ、とArcは即座に判断した。


 今の一撃だけで分かった。


 補助契約は使える。


 だが、切り札として扱うべきだ。


 常時使うものではない。


「メタルリザード戦で使うなら、一回か二回」


 そのくらい、とNovaは頷く。


 Cainは斧槌を肩へ担ぎ直す。


 さっきまでより、ほんの少しだけ扱いが丁寧になっていた。


 ここぞって時だな、と低く笑うCainへ、サラマンダーが小さく尾を振る。


 Arcは二十五階層へ続く道を見る。


 薬草は採った。


 風精霊との契約も成立した。


 サラマンダーの補助契約も、まだ不安定ながら使える可能性が見えた。


 予定外の収穫としては十分すぎる。


 だが、目的はまだ終わっていない。


「二十五階層へ向かう」


 今度こそ、全員が歩き出した。


 風の草原を抜ける道の先に、次の階層へ続く入口が見えている。


 Cainの斧槌には、もう赤い線は残っていない。


 それでも、サラマンダーは時折その武器を見ていた。


 Novaの肩では、風精霊が小さく羽を震わせている。


 火と風。


 二つの精霊が加わったAegisは、二十五階層へ向かって進んでいった。


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