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世界最強ヒーラー、サービス終了したゲーム知識で現実ダンジョンを攻略する ~伝説のギルド《Aegis》復活~  作者: PeterP4n
第八章 新たな攻略

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第99話 装備更新の相談

#第99話 装備更新の相談


古い書庫を調べることが決まると、レオニスとの話はそこで一区切りになった。


転移魔法陣の答えは、今日この場で出るものではない。


シルヴァリアに残る記録を探し、イグニシアから持ち帰った資料と照らし合わせる。


やるべきことは見えた。


だからこそ、今は焦る必要がなかった。


レオニスは石段の上で足を止め、風に揺れる外套を押さえた。


「書庫はこちらで開けておく」


「助かる」


と短く返したArcに、レオニスは静かに首を振る。


「礼を言うのはこちらだ。イグニシアの記録は、我らにとっても大きい」


Lunaは端末を抱え直した。


その指先に、少しだけ力が入っている。


通信塔。


転移魔法陣。


安全階層の都市。


考え始めれば、いくらでも先へ進めてしまう。


だが、Arcはそこで視線を切った。


今は全員を休ませる時間だった。


「今日は解散する」


その一言で、Rainが小さく肩を回した。


Mistもほっと息を吐く。


火山地帯を抜け、イグニシアを調べ、シルヴァリアへ戻ってきた。


派手な戦闘がなくても、疲労は身体の奥に残っている。


Aegisはレオニスと別れ、風の都の拠点へ戻った。


ギルドホームは、まだ完全には整っていない。


壁際には工具箱、薬品ケース、折り畳んだ布、書類の束が仮置きされている。


それでも、窓を抜ける風は地上のギルドホームとは違っていた。


古い石壁が昼の光を薄く返し、火山地帯の熱を少しずつ身体から抜いていく。


Dwalfは部屋へ入るなり、工具袋を床に下ろした。


金属の留め具が、重い音を立てる。


その音を聞いたCainが、背中の二本の戦斧を机へ置いた。


「ついでに見てくれ」


「ついでで済む顔をしてから言え」


Dwalfは刃を見る前から眉を寄せていた。


Rainが横から覗き込む。


「見る前から嫌そう」


「見なくても分かる」


そう言いながら、Dwalfは戦斧の刃へ指を沿わせた。


深く欠けてはいない。


だが、細かな傷がいくつも走っている。


硬い外殻を叩き、高熱にさらされ、何度も無理を通してきた痕跡だった。


「折れるほどじゃない」


Dwalfは刃を光へかざす。


「ただ、研ぎ直しだけじゃそろそろきつい」


Cainの口元から笑みが少し消えた。


「そんなにか」


「お前の振り方も荒い」


「武器は振るもんだろ」


「壊すもんじゃねぇ」


Rainが小さく笑った。


その横でGarmが盾を下ろす。


盾の表面には、火山地帯の魔物から受けた傷が何本も残っていた。


Dwalfはそちらを見て、さらに短く息を吐く。


「こっちはもっと正直だな」


Garmが盾を見下ろす。


「まだ受けられる」


「受けられる。だが、余裕は減ってる」


Crowが壁に背を預けたまま、低く言う。


「次で割れる盾は盾じゃない」


「耳が痛いな」


Garmは苦笑し、盾を机の横へ立てかけた。


Rainも自分の軽装防具の留め具を見た。


革の端が少し焼け、細い金具が歪んでいる。


「私も新しい防具ほしいかも。動きやすいやつ」


「注文が雑だ」


「動きにくいと死ぬから大事」


「それはそうだな」


Dwalfはあっさり頷いた。


そのやり取りで、部屋の空気が少しだけ柔らかくなる。


だが、机の上に並んだ装備は笑って済ませられる状態ではなかった。


戦斧。


盾。


軽装防具。


杖の留め具。


弓の弦。


それぞれに、これまでの攻略の跡が残っている。


Dwalfは工具を並べながら、ようやく口を開いた。


「装備もだいぶ傷んできたな」


風が窓を鳴らした。


誰もすぐには返さない。


次へ進むなら、避けて通れない話だった。


「素材があれば作れる」


Dwalfは戦斧と盾を見比べる。


「延命じゃなくて更新だ。次の階層に合わせる」


Arcは机の傷だらけの装備を見渡した。


その光景に、ゲーム時代の記憶が重なる。


二十五階層。


攻略組なら誰もが通った場所だ。


Arcは静かに口を開いた。


「だったら、二十五階層だ」


Cainが顔を上げる。


「二十五?」


Arcは頷くだけだった。


そのわずかな間に、Dwalfの手が止まる。


「メタルリザードか」


鍛冶師の目が変わった。


「白銀輝鉱が出る」


Rainがそれを見逃さない。


「Dwalf、楽しそう」


「鍛冶師だからな」


「硬い奴なんだろ?」


Cainが口を挟むと、Dwalfは当然のように頷いた。


「硬いから価値がある」


「また硬い奴かよ」


「お前は斧を振れる。俺は素材を叩ける。役割分担だ」


Cainは少し考え、納得したように頷いた。


「まあ、分かりやすいな」


Crowが目だけを向ける。


「まず倒せるかだ」


軽くなりかけた空気が、そこで締まった。


Arcは頷く。


「ゲームでも素材目当てで周回された」


「雑に突っ込む相手じゃない、か」


Cainが先に言う。


Crowは満足そうに目を細めた。


「分かっているならいい」


Lunaが端末を操作する。


「記録は少ない」


Dwalfは机の端に指で簡単な線を引く。


Garmの盾。


Rainの軽装防具。


Cainの戦斧。


Siaの弓の補強。


どこから手を入れるか、もう考え始めていた。


「全部は無理だな」


「量次第か」


Arcの問いに、Dwalfは頷く。


「取れた分で優先順位を決める」


装備更新の話がまとまりかけたところで、Mistがそっと薬品ケースを開いた。


空いた瓶が、机の上で小さく鳴る。


Mistは小さな紙を握ったまま、少しだけ視線を迷わせた。


Rainが首を傾げる。


「どうしたの?」


「お願いがある」


Mistは少し困ったように笑い、小さな紙を机へ置いた。


青風草。


水晶花。


Arcは紙を見る。


「薬の材料か」


Mistは頷いた。


「耐熱薬も回復薬も、だいぶ減ったから」


イグニシアの熱。


Ariaの救助。


連続した遠征。


薬品の瓶が空いている理由は、誰もが分かっている。


Rainが採取袋を手に取る。


「じゃあ二十四階層で薬草集め、二十五階層で硬い奴」


「硬い奴って呼ぶな」


Dwalfが即座に言い、Cainが笑った。


「今回は素材集め遠征だな」


Arcは地図を広げた。


指先が地図の上を滑る。


「まず二十四階層。青風草と水晶花を採る」


Mistが頷く。


「風が溜まる場所を探して」


「次に二十五階層。メタルリザードを討伐して、白銀輝鉱を狙う」


Siaが地図を覗き込む。


「採取中は索敵を厚めにする」


Novaも杖の先端を見た。


「風属性が混じるなら、火精霊の調整も変える」


Crowが腕を組む。


「素材採取中が一番油断しやすい。戦闘より面倒な場合もある」


「分かってる」


Arcは地図から顔を上げた。


「装備を整えるのも攻略だ」


設計図の上を鉛筆が走る。


空き瓶が机に並ぶ。


通信塔の図面と転移魔法陣の記録が、端末の中で重なっていく。


Novaの手元では、小さな炎が風に揺れた。


武器を振るうだけが攻略ではなかった。


その夜、ギルドホームには久しぶりに日常の音が戻っていた。


紙を走る鉛筆の音。


瓶が触れ合う軽い音。


革紐を引き締める音。


窓の外を抜ける風。


CainはDwalfの設計図を横から覗き込む。


「俺の戦斧、もっと重くしてもいいぞ」


「却下だ」


「早いな」


「重くして喜ぶのはお前だけだ。修理する俺の身にもなれ」


Rainが採取袋を畳みながら笑う。


「Cain専用、持ち主以外に優しくない武器」


「格好いいじゃねぇか」


「扱う人が困る」


「俺は困らねぇ」


「周りが困る」


Crowの一言で、Cainは黙った。


MistはRainに薬草の見分け方を教えていた。


青風草は葉の裏を見る。


水晶花は根元から摘む。


細かな説明をしすぎないように、Mistは実物の絵を描いて見せる。


Rainは意外なほど真剣に聞いていた。


「間違えたら?」


「似た草だと、たぶんすごく苦い」


「それだけ?」


Mistは少し考える。


「ものによっては、お腹も壊す」


Rainは採取袋をそっと置いた。


「絶対間違えない」


その横でLunaが小さく呟く。


「苦味成分も記録したい」


「飲まないからね」


Mistの即答に、Novaが小さく笑った。


Garmは盾を磨き、Siaは弓の弦を張り替える。


Crowは予備の革紐を一本ずつ確かめていた。


Arcはその様子を見ていた。


戦闘の作戦会議ではない。


それでも、確かに攻略の準備だった。


仲間がいて、道具があり、戻る場所がある。


その全部が、次の一歩を支えている。


翌朝。


シルヴァリアの風は、前日よりも少し冷たかった。


街の外れに集まったAegisは、いつもの隊列を組む。


Mistは採取道具を持ち、Lunaは端末を抱え、Dwalfは工具袋を背負っていた。


戦闘職だけの遠征ではない。


だからこそ、今日の攻略には意味がある。


Arcは二十四階層へ続く道を見た。


「まずは二十四階層」


全員が歩き出す。


風が、シルヴァリアの石畳を抜けていった。


次の攻略が始まる。

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