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空白  作者: 伊原亜紀
8/18

空白-8

 大学のテスト期間が終わった。今までの単位が取れるか否かの緊張感はなかった。真面目に授業を聞き、勉強をして臨んだ大学の試験は、拍子抜けするほど簡単だった。ほとんどの科目でA評価を取ることができるだろう。

 これから長い春休みに入る。試験期間中にあまりできなかったTOEICの勉強をして、インターンに参加する。筋トレをし、マッチングアプリで女に会う。脱毛に通い、ホワイトニングもやる。東北に一人旅にも行く。やることは多い。

 懸垂は20回、TOEICは800点、月に3人以上とのセックス、可愛い彼女、早期内定、一人旅。アパートの部屋の壁に貼られた目標は更新され、その数も増やした。達成した目標を壁から剥がす時、新しい目標を壁に貼る時、僕は言いようのない達成感と高揚感を覚える。十五回の懸垂を初めて成し終え目標を剥がす時、勢い余って壁紙に傷をつけてしまった。

 日々自分の成長を感じる。鏡に映る身体、TOEICの点数、女への対応。自分の成したこと、体験したことが客観的に蓄積されることは、快感だ。

 タイマーの音が鳴り、僕は目を開ける。瞑想の終了だ。一ヶ月前に取り入れた時は五分間しかできなかった瞑想も、十五分間に時間を伸ばした。今日は途中から考え事をしてしまった。瞑想は難しい。しかし、情報に疲れた脳を休めるということはできている。それにこうやって考え事に集中して心を整理することも良いことだと、本には書いてあった。なので今日の瞑想も、十分にその役割を果たしたと言えよう。

 冷たいシャワーを浴び、朝食を食べる。目玉焼き、納豆、味噌汁、白米。今日は個別指導塾のバイトがある。居酒屋のバイトは、飲みの数が多くなってしまうのと、夜が遅くなってしまうのが嫌で辞めた。頻繁に酒を飲むことは、肉体だけでなく脳にも精神にも影響を及ぼす。

 個別指導塾のバイトは性に合っていた。中学生が七割ほどで、高校生と小学生が少しずついる。塾に来る子の中に、頭の良い子はほとんどいなかった。大抵が、学校や集団塾の授業についてこれないのが理由で来ている子だった。当人たちにやる気があるわけでもない。そんな子たちには、教材に書いてある内容をわかりやすく伝えるだけで良いので、楽な仕事だ。そんな子たちから来る質問で困らされることはなかった。何人か相対的に頭の良い子がいたが、僕の中学時代より頭の良い子は一人しかいなかった。その子は頭抜けて優秀なため、問題を間違えることはほとんどなかったし、間違えた問題も解説を読んで自己解決してしまう手のかからない子だった。今日はおそらく、彼の授業があるだろう。

 僕は納豆をかき混ぜてご飯にかけた。壁に貼られた目標に目をやりながら、僕は納豆をかき込んだ。

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