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《世界崩壊カウントダウン》通信断絶、物流停止――その日、日常は静かに死んだ  作者: リン・モ


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第4話 夜の気配

暗闇には、すぐには慣れなかった。


数秒の沈黙のあと、部屋の輪郭がゆっくりと浮かび上がる。

窓の外では、灰色の雨がわずかな光を返していた。


「……懐中電灯、ある?」


リ・ジーシーの声は小さい。


「ある」


ユ・モーランは引き出しを開け、中を探る。

指先が金属に触れ、それを取り出してスイッチを押した。


細い光が、暗闇を切り裂く。


弱いが――十分だった。


シャオユイがすぐに近づいてくる。

何も言わず、彼の袖を強く掴んだ。


「大丈夫だ」


短く告げる。

返事はない。


――ゴン。


音がした。


全員の動きが止まる。


天井からだ。何かを引きずるような、鈍く重い音。


ゴン。


もう一度、ゆっくりと響く。


ユ・モーランは視線を上げた。


「……上の階?」


「分からない」


音は続く。擦るように動き、ふいに止まり、またわずかに動く。


規則性はない。

人の気配にも似ているが――どこか違う。


重すぎる。


「家具……動かしてる?」


「こんな時間に?」


言葉は途中で途切れた。


説明がつかない。


やがて音は止み、静寂が戻る。

だが、その静けさは先ほどよりも重かった。


ユ・モーランは懐中電灯を消す。


光は目立つ。暗闇のほうが、安全だ。


「窓、閉めろ」


リ・ジーシーが静かに動く。

カーテンを引き、隙間を手で押さえた。


外から見えないように。


雨音だけが、部屋に残る。


しばらくして――別の音がした。


今度は横。壁の向こうからだ。


低い声。複数いる。

内容は聞き取れないが、会話しているのは分かる。


一人ではない。


「……隣?」


「違う。廊下だ」


ユ・モーランは小さく首を振った。


足音が近づいてくる。


そして、止まる。


ドアの前。


息を潜める。


ノックはない。


代わりに――金属音。


カチャ。


鍵を試している。


別の部屋だ。


一つ。

また一つ。


順番に。


リ・ジーシーが息を呑む。

シャオユイの手がわずかに震えた。


ユ・モーランは動かない。音だけを追う。


隣のドア。


カチャ。


開かない。


次。


カチャ。


また次。


ゆっくりと、こちらへ近づいてくる。


距離が縮まる。


自分たちの部屋まで、あとわずか。


足音が止まった。


沈黙。


心臓の音だけがやけに大きい。


――カチャ。


ドアノブが回される。


一度。

止まる。


もう一度、今度は少し強く回る。


だが、開かない。


靴箱が内側から押さえている。


完全ではない。

それでも、時間は稼げる。


外の気配が止まる。


見られているような感覚。


誰も声を出さない。


数秒が、やけに長い。


やがて――足音が離れていく。


次のドアへ。


カチャ。


同じことを繰り返す。


「……入ってくるつもりだった」


リ・ジーシーの声はかすれていた。


ユ・モーランは答えない。


分かっている。


これは“確認”だ。


鍵のかかっていない部屋。

人のいない部屋。

弱い場所。


それを探している。


音は少しずつ遠ざかり、やがて消えた。


完全に消えるまで、誰も動かなかった。


どれくらい時間が経ったのか分からない。


「……水、止まるかもしれない」


ユ・モーランが低く言う。


「今のうちに溜める」


リ・ジーシーはうなずき、キッチンへ向かった。


蛇口をひねる。


細いが、水はまだ出ている。


鍋、ペットボトル、ボウル。

手当たり次第に並べていく。


水音が、小さく響く。


その音さえも、大きく感じた。


シャオユイが、小さな声で言う。


「パパ……怖い人、いる?」


ユ・モーランは一瞬だけ考え――嘘を選んだ。


「いない」


短く言う。


「もう行った」


完全な嘘だった。


外には、いる。


しかも――増えている。


水が容器に落ちていく。


ぽた、ぽた、と規則的な音。


そのとき――遠くで叫び声が上がった。


一瞬だけ。


すぐに途切れる。


何が起きたのかは分からない。

だが、想像はできた。


誰も言葉にしない。


ユ・モーランは窓のほうを見る。


暗い。


何も見えない。


だが――


ドアの向こうで、音が止まった。


完全に。


気配だけが残る。


誰かが、いる。


すぐ外に。


動かない。


待っている。


息を潜めて。


そして――


――カチャ。


もう一度、ドアノブが回された。


今度は、さっきよりもゆっくりと。


確かめるように。


内側を――知っているかのように。

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