42(婚約編) リアン〜side〜
1話ずつ毎日21時頃の更新予定です。
「見てみろよ。ビアンカ嬢とミリオン嬢が連れ立って来てるぜ。」
「お…眼福。お前、どっち派だっけ?」
「ビアンカ嬢派。俺は、金髪碧眼で強めな美人に、優しくご指導頂きたいわけ。」
「俺は、絶対にミリオン嬢派だな。透き通る純真無垢な彼女に、心も身体も差し出されてみろ?誰だって溺れるぜ。」
俺は、深緑の騎士服の男達に殺意を向ける。開会式の最中に、ミリィとフロイト公爵令嬢が来ていると他の男達もざわついている。早く終わらせる…目標はそれだけ。
閉会式で表彰を受け、着替えて急いで帰ろうとすると、サントモルド侯爵子息に声をかけられた。
「リアン君、強くなったね。決勝では、君の間合いでやられてしまった。」
「近衛騎士団長、お疲れさまでした。」
「また手合わせ願いたい。今度、コール伯爵家に伺ってもいいかな?」
「…はい、分かりました。」
「次は、私が勝つよ。では、失礼。」
不敵に笑うサントモルド侯爵子息が俺の肩を叩く。自尊心を取り戻すために挑んでくるのだろう…面倒だが、今度は時間をかけて徹底的に叩き切ってやる。
武道場の出ると、笑顔のミリィが俺を労う。
「リアン!優勝おめでとう!!」
「応援ありがとう。暑くなかった?待たせたね、早く帰ろう。」
フロイト公爵令嬢にもお礼を言い、ミリィと手を繋いで、歩き出す。
「暑くなかったわ。リアンこそ、お疲れさま!すごかったわ!」
「ミリィが応援に来てくれたら、すごく頑張るって言っただろ?」
「とても感動したわ。今日は見に来れて良かった…わがまま聞いてくれてありがとう!ねぇ、優勝のお祝いに、私もリアンの望みを叶えたいわ。私にできることある?」
「ミリィにして欲しいこと?」
「えぇ、何でもいいわ。考えておいてね!」
ミリィは嬉しそうに、何度もすごいすごいと言ってくれる。この言葉だけで報われているけれど…。目の前に降ってきた、この褒美をどうしようか。俺は、夢中になって考え始めた。
ガチャ…。
「…リアン?」
ベッドの上のミリィが、本から顔をあげて微笑む。ベッドの端に座って、頬を撫でると、おれの手に擦り寄ってきて可愛い。
「お願い事、考えたよ。」
「本当?ふふっ…何でもいいわ。」
「…ええと…今日、一緒に眠りたい。」
「えっ?…それは、結婚するまで駄目って聞いたわ。」
「眠るだけだよ。朝方、自分のベッドに戻るから大丈夫。」
「でも…。」
「ミリィが何でもいいって言ってた。」
いじわるに笑いながら、ミリィの横に寝転がった。ミリィが座ったまま、困った顔で大きく瞬きしている。ミリィの手を引き、横に寝かせて、強く抱きしめる。夏の夜着が薄く、ミリィの身体が柔らかい。
「リアンの顔が近いわ。眠れるかしら?」
「近いかな?いつもキスしてるのに…?」
触れ合うようなキスをする。どこか諦めたような表情をするミリィが愛しくて、何度も優しく口付けする。「はぁ…。」と息継ぎするミリィの唇の隙間に舌を捻り込み、今度は深く深く味わっていく。「愛してるよ。」と言うと、息も絶え絶え「私も…。」と答えてくれる。結婚まであと少しと逸る気持ちを抑え、汗ばむ身体を必死に絡ませ合う。
腕の中で寝息を立てている無防備なミリィを見ながら、奴の言葉を思い出す。
『透き通る純真無垢な彼女に、心も身体も差し出されてみろ?誰だって溺れるぜ。』
学園では目の前にいてくれさえすれば満足だったのに、彼女の温もりを知ってしまった今、俺は独占欲の塊だった。一層、大切に仕舞い込めれば楽だろうに…。
いつだって彼女の前では『敗者』だ。弱く、臆病で、剣でも弓でも太刀打ちできない。溺れても、手も足も出せずにいる完敗の俺には、萎れた赤薔薇が似合ってる。




