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11(両想編)

 卒業式の出来事は、私の人生を180度変えた。


 驚きに血の気が引いたが、次の瞬間、イブスタイン侯爵家からの婚約の申出は白紙となる、そんな希望が見えた。


 ルキとシシリーナ王女が寄り添っているのを見て、あぁ、これで良かったのだと思った。見目麗しく、優秀な2人が、隣国で共に助け合い、この国の未来を担っていくのだろう。


 リアンが心配して駆けつけくれたけど、私は清々しい気持ちだった。今度は、絶対に後悔したくない。


 私の大切な恋心。芽生えたのはいつだったのだろう。私の学園生活はいつもリアンがいた。あたたかくって、優しいリアン。好きな人に、好きだと伝えたい。ただそれだけなの。



 寮に戻ると、目紛しい日々の疲労がどっと押し寄せたけど、リアンに気持ちを伝えられたことが何より嬉しかった。明日は、お父様に婚約が白紙になったことを、報告しに行かないといけない。眠れない日々が続いていたこともあり、早々に私は意識を手放した。



 昼過ぎに領地に着くと、お父様からイブスタイン侯爵から謝罪の手紙が届いたと聞かされた。


 やはりシシリーナ王女の希望で王命が降ったとのことで、丁重な謝罪と領地間の商業取引で過分な申入があったそうだ。


「お父様、申し訳ありませんでした。私がもっと早く決断していたら、ルパルト領の益になる婚姻が結べたかもしれなかったのに。」


「結婚は損得だけではない。前も言ったが、ミリオンの気持ちが大切だよ。」


「はい…お父様は気付いていたと思いますが、確かに私には迷いがありました。お恥ずかしいですが、好きな方がおり、その方と結ばれたいと心では願ってたのです。」


「うんうん。気持ちに嘘はつけない。恋とは素晴らしいものだよ。私はいつだって、ミリオンの幸せを願っている…それだけは忘れないでくれ。」

 お父様は、私の肩を優しくたたいてくれた。


 午後はお母様とゆっくり過ごし、日々の疲れが癒えていく。でも、急に早馬が入ってきて、邸が慌ただしくなった。先触れでは、ルパルト領にコール伯爵子息が向かっているとのこと。


「ミリオン、コール伯爵子息が婚約の申出に来られるそうだ。」


「お父様、本当ですか?リアン様が?」


「名門コール伯爵家の嫡男…リアン君か。ミリオンには心当たりがありそうだな?」


「はいっ、私の大切な方です!」


「はははっ。なるほど。そういうことか。」



 夕暮れ、邸に着いたリアンは、昨日の騎士服のままで、息がかなりあがっていた。王都からコール伯爵邸まで行き、コール伯爵邸からルパルト伯爵邸まで来る道のりを思うと、彼が休み無く駆けてきてくれたことが分かる。


 リアン様がお父様の許しを得て、明日の朝、婚姻宣誓書を提出してくださると聞いて、飛び上がるくらい嬉しかった。思わず「…お慕いしております。」と言うと、リアンは真っ赤になって、何か言いたそうにしていた。早くリアンの婚約者になりたいって、明日が待ち遠しかった。


 リアンを送り出し、背中が見えなくなるまで、蹄の音が聞こえなくなるまで、私は暗闇を見つめた。




 次の日、私は朝からそわそわして、何も手につかない。ようやく夕方、リアンが邸に着き、無事に受理していただけたとお父様に報告があったとき、私は嬉しくて泣いてしまった。


「ミリオン嬢、待たせたね。慌ただしく婚約させてしまって、すまなかった。」

 リアンは、優しく頬の涙を拭ってくれる。


「リアン様…違うんです。私、嬉しくて。」


「俺も嬉しいよ。」

 私はリアン様にぎゅっと抱きつき、力の限り抱きしめる。リアンもきつく抱きしめ返してくれた。


「リアン様、好き。」


「俺も。…す、すき。」


「ふふふ。私の方がいっぱい好きよ。」


「…っ!?」

 真っ赤なリアンを見て、幸せだなって思うの。


 遠慮するリアンを無理矢理に引き留めて、明日の朝にコール伯爵領に出立してもらうことになった。


 ルパルト領の特産ばかりが並ぶ晩餐。久しぶりのリアンとの会話が楽しくて、お父様お母様そっちのけで、私がたくさん話してた。リアンは、いつもみたいに優しく相槌して、いつもみたいにニコニコしながら聞いてくれる。お父様とお母様が、私達の会話を面白そうに見ていたことには、その時は全然気づかなくて…後からお母様に「ずいぶん仲良しなのね。ミリオンがあんなに喋る子だったなんて、知らなかったわ。」と言われ、恥ずかしくて巻き戻したい。


 リアンを客室に案内すると、疲れたから湯浴みして、すぐ寝ると言うので、寝る前にもう一度来てもいいかと聞くと、待ってると言ってくれた。


 私もせっせと湯浴みをし、身繕いし、客室に向かう。


 コンコン…。

「ミリオン嬢?どうぞ入って。」


「おやすみを言いに来たわ。」

 リアンを見ると、いつもは束ねてる赤毛を下ろしていた。


「ひゃぁ。リアン様が髪を下ろしてるわ。」


「それは、こっちのセリフだよ。ミリオン嬢が昔の髪型に戻ってる。」



 リアンは私の髪をひと束すくうと、口付けした。

「…!」


「ずっと見れないものだと思ってたけど。ミリオン嬢…綺麗だ。」


 また私の髪に、リアンが口付けをする。顔が熱い。


「ん…!もう。婚約したのだから、ミリオン嬢って呼ばないで?」


「じゃぁ…ミリィって呼んでもいい?俺のことも、敬称なしにしてほしい。」


「ええ、いいわ。リアン?」


「うん。ミリィ?」


 2人でくすくすっと笑う。おやすみを言うと、リアンは額にキスしてくれた。




 次の日、皆んなで朝食を食べ、リアンを送り出す。


「ルパルト伯爵、私と父で再度、訪問させていただきます。滞在させて頂き、ありがとうございました。」


「分かりました。よろしくお願いします。また来てください。」


「ミリィ、王都で。文官の寮に入れるはずだった荷物は、コール伯爵家のタウンハウスに運ぶので、そちらに向かってくれ。気をつけて。」


「えぇ。リアンも気をつけてね。」


 リアンが、私の頬を撫でてくれる。すぐに王都で会えるのに、さみしくって仕方がない。


 私は、リアンの婚約者として、あと第一事務官として、王都で再び頑張りたいと強く思った。

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