10(両想編) リアン~side~
リアン~side~
ルキがミリオン嬢に婚約を願い出た。唇から血の味がする。
この気持ちすら伝えられなかった自分に腹が立つ。
俺は臆病だ。ずっと好きだったと伝えて、嫌われでもしたら、生きていける自信がなかった。あの笑顔を見れるなら、俺は幸せだった。ただただ、終わるのが怖かった。
ルパルト伯爵は、上位貴族の申出を断るだろうか。侯爵、ましてやルキは学友なのだ。断る理由があるか?ルキは良い奴だし、容姿端麗で、近衛騎士としても侯爵家を盛り立てるだろう。
ミリオン嬢は泣いていた。大きなダイヤモンドの指輪。嬉し涙だろう。女性なら誰もが感動するに違いない。
卒業したら2人は婚約する、そんな絶望的な未来が近づいてきている。
卒業式は、国王をはじめ要人達が参列される。俺は第一騎士団の騎士服で、ミリオン嬢は真新しい文官のローブを着ている。送辞、答辞、授与式から国王の挨拶まで長時間の式だ。
今日、ミリオン嬢の体調が思わしくない。俺は、答辞を読むため登壇しており、ミリオン嬢の近くにいられない。壇上から遠目に見てはいるが、いつもは桃色の頬も青白く、式が早く終われと願うばかりだ。
式の終盤にさしかかり、国王の挨拶で、卒業生への労いや激励があった。次の最終学年に在学しているシシリーナ王女の話に触れ、春から2年間の隣国へ留学されると伝えられる。
「最後に、私から良い知らせがある。ルキ・イブスタイン、王女シシリーナの隣国留学に付き従い、支え、護衛騎士としてしっかり励むように。」
これは、ルキがシシリーナ王女の婚約者として内定したということを意味する。突然の発表に、ホールはざわめいている。
無表情のルキが首を垂れ、シシリーナ王女が笑う。
俺には何が起こったか、分からなかった。
ミリオン嬢を見ると、青い顔がさらに青くなっている。
式が終わり、国王とルキにエスコートされたシシリーナ王女が退出したので、ミリオン嬢の元に急ぐ。
「大丈夫か?体調はどう?」
「大丈夫です。でも、びっくりしました。」
「俺も。…王命が降ったか。」
「そうでしょう。お父様がイブスタイン伯爵へ婚約の回答をされる前で良かったです。」
「でも、君は大丈夫じゃないだろう?その…ルキとの婚約が無くなってしまったわけだから。」
「いえ……私も良かったんです。ルパルト伯爵家のためには、イブスタイン侯爵家からの申出は絶対断らない方が良いって、諦めてたから。」
「…え?ミリオン嬢は、ルキとの結婚は望んでなかったの…?」
「だって…叶うなら、好きな人と結婚したいもの。」
「…す、好きな人?」
「神様がもう一度チャンスをくれたんだわ。」
ミリオン嬢は、くすっと微笑む。
「…?」
「リアン様です。私の好きな人。」
ミリオン嬢が、俺を見つめる。
「…リ、アン…?」
「そう、リアン様です。私が結婚したい人は。」
「…俺っ!?」
「ふふ、そうです!気持ちが伝えられて良かった!」
「…っ!」
ミリオン嬢は朗らかに笑うと、くるっと踵を返して寮に入っていってしまった。
俺は本当に救いようがない大馬鹿者だと思う。
夜通し馬を駆け、早朝に自領に着き、寝ている父親を叩き起こす。
「父上、おはようございます。早く起きて、俺の話を聞いてください。」
「…へ?リ、リアン!?どうした?」
「結婚したい人がいます。ルパルト伯爵家の長女のミリオン嬢です。俺の初恋で、5年間、片思いだと想っておりましたが、昨日、ミリオン嬢と両思いだったことが分かりました。私と結婚しても良いと言ってくれたので、一刻も早く婚約したいんです。なので、今すぐここに押印してください。」
早く早くと急かす。目を擦っている父上に、伯爵印を押してもらう。
「父上、ありがとうございました。では、また。」
来た時とは違う早馬で、飛び出していく。父上と母上が「リアン、がんばれーっ」と叫んでる声が遠くなる。俺は急ぎルパルト領へ向かった。
着いたのは、薄暗くなってからだった。先触れを出してたので、すぐ外に従者が出てきて馬を預かってくれる。
ルパルト伯爵と夫人、ミリオン嬢が出迎えてくれ、客間に通される。
私は跪き、首を垂れる。
「ルパルト伯爵、私はコール伯爵嫡男のリアンと申します。いきなりのご無礼をお許しください。ミリオン嬢と結婚させていただきたく、急ぎ参じました。どうかお許しいただけませんか。」
「許すもなにも。私は嬉しく思っている。父としては、ミリオンの意思を尊重したいところだが、ミリオンはどうしたい?」
「えぇ、私、喜んでお受けしますわ!」
ミリオンが満面の笑みを浮かべる。彼女の美しいバイオレットの瞳に映った私を見て、幸福感が押し寄せる。
俺は、彼女の笑顔がどうしようもなく好きだ。この笑顔を守りたいと心底思う。どんな困難な状況でも、俺のすべてで、ミリオン嬢を慈しみ、愛すると心に刻む。
「そうかそうか。ミリオンを幸せにしてやってほしい。私からもお願いする。」
「私の命にかえても、ミリオン嬢を愛し抜き、生涯、大切にすると誓います!」
「ははっ。そうかそうか。ルパルト伯爵家が得た良縁に感謝する。」
ルパルト伯爵が、俺の肩を持ち「立ちなさい」と言ってくれ、俺は騎士式の最敬礼をする。
「さぁさぁ、リアン君もお疲れでしょうから、今日からは泊まっていってくださいな。まずは、晩餐にしましょう。」
ルパルト伯爵夫人が労い、ミリオン嬢も「そうして?」と目配せしてくれる。
「ありがたいのですが、明日の朝、国王に謁見を申出たいのです。この婚姻宣誓書を早急に受理していただきたくて。」
「あらあら。」
「分かった分かった。今、処理してくるから待っていてくれ。」
伯爵と夫人は執務室へ出て行った。
「ミリオン嬢、急ですまなかった。体調はどうだ?」
「ふふふ、私は大丈夫です。それよりリアン様が昨日からずっと駆け回っているのでは?お疲れでしょうし、もう暗いから心配だわ。」
「俺は体力あるし、夜目を利くから。昨日より頬に桃色が戻っているけど、ミリオン嬢こそ、ちゃんと食べて寝てくれ。すぐ出立するが、また報告に戻ってくる。それまで待っていてほしい。」
「えぇ、待ってますわ。リアン様…お慕いしております。」
「…っ!?俺も、あ、あ……あい…」
ガチャ。
「お待たせしました。ん?」
真っ赤になっている俺。ニコニコしてるミリオン嬢。不思議そうな伯爵と夫人。
俺のヘタレ度が上がってないか?




