16.優しい嘘(5)
この世界は、かつて三つの国に別れていた。人間が制する国、エルフが制する国、そしてもう既に滅んでしまった亜人の国。人間たちは、神アークルを奉り、エルフたちは、精霊イフティナ。亜人たちは、ザルクルフを奉っていた。
しかし、ある日の事“世界が滅ぶと言う予言”をされ、三人のみこが一ヶ所に集まった。
それが始まりだとも知らずに
「ニャムが知っている、おとぎ話や歴史の話と全然違うニャ」
「それは、そうよ。私たち以外誰も真実を知らないからよ。
だってこの世界に女神がいると知っている人もほとんど居ないわ。まして二人いると言うのも、ね」
死の女神ヘル。救いの女神アスト。確かに知っている人は、ほとんどいない。記憶を思い出すまで、解らなかった。思い出せなかった。
ラルクは、あることをほんの少しだけ思い出した。
「卑怯だよな。俺が俺でる記憶も俺がザルクルだった頃の記憶も此処にいれば嫌なほど思い出す」
「…そうね」
そう言ってアディーは、歩き出した。忘れたい記憶。それが彼を苦しめてきた。苦しいほど悲しいほどに痛めつけてきた。
知っている。この世界があまりにも不公平で、あまりにも彼のラルクの背負ってきたものが、大きすぎることをアディーは、初めから知っていた。
「ヘルを殺せるの?」
「…解らない。でも殺るしかないんだよな…」
「ええ。怖い?」
「大丈夫だ」
そう言ってラルクは、微笑んだ。無理な笑顔だと一瞬で解ったナムは、腕を強く握った。
「大丈夫!ニャムがいるから大丈夫っ!幸運の猫の王が此処にいるからニャんでも出来るんだ!だから心配いらニャいー!」
「ウフフ、良かったわねラルク。心強い可愛い友達が出来て」
ラルクは、ナムを見て、にっこり微笑み
「そうだな。頼りにしてるぞ」
「ジュランの友達は、ニャムの友達だからニャ。だから、ちゃんとニャムたちは、ジュランの所へ生きて、帰るんだぞ」
そう言ってナムは、微笑んだ。生きて帰ろう。もう悲しませたくない。もう忘れさせたくない。コンバットが死んだあのときのように、あの子の心を壊したくない。
ナムは、強く願った。気になることを口にすることをせずにナムは、彼らと一緒に帰ることを優先した。
そして、ようやく古びたお城にたどり着いたラルクたちは、深呼吸をした。
「…此処にヘルがいるのか?」
「いいや。多分いない」
ナムは、ラルクの答えに首をかしげた。ナムは、妖精だが魔力は、感じる。優しい魔力と悲しい魔力と威圧的な魔力。3つの内どれがルリラナの魔力で、どれがヘルの魔力か解らない。
しかし、ラルクは、此処にいないと答えた。
何故なのだろうか?と疑問に思いながら二人を見た。
「私でも解るわ。この感じは、私の宿敵と言っても良い存在ね」
「準備は、良いか?」
ナムは、息をのみラルクが扉を開けるのを見ていた。そこにいるのは、小さな若葉色の髪をした女の子とルリラナ、そして、ザンロッタがいた。
「やっぱりね。ザンロッタ…あんたがいると思っていたわ」
そう言って、鎌を構えた。ラルクは、違和感を感じ辺りを見た。玉座の近くには、フェニックスが居た筈だ。しかし、そこには、居ない。変わりに見ずも知らない女の子が寝ている。知らない女の子。しかし懐かしさも感じた。
「やっと、やっと我らの夢が叶う。やっと、やっとあの人も喜んでくれる…」
ザンロッタは、目をつむり悲しい声で優しい声で呟いた。アディーは、目をそらし強く鎌を握った。
「させないわ。まだ解らないの?あんたは、騙されているのよ」
「……」
ザンロッタは、目をあけアディーをみた。そして、涙を流した。
「君は、姉さんであって姉さんではない。姉さんは、そんなこと言わない。僕を否定しない。僕に武器を向けないんだよ。姉さんの真似をする君を許さない」
「……」
アディーは、鎌を下ろしザンロッタを見た。そして、深呼吸をしてこう言った。
「エント…私たち亜人は、もう既に滅び私たちも既に死んでいます。私の記憶が、セレナーデだと言っていても私は、アディネスなのです。貴方の本当の名前が解るでしょ?」
いつもと違う口調で、何時もと違う優しい声で言った。すると、ザンロッタは、頭を抱え踞った。
「我は…僕は…誰?君は…お前は…何者なんだ?」
「…ザンロッタ。あんたは、自分の家族を殺し妹を残して消えた。エントの記憶に捕らわれた悲しい兄さんなのよ」
そして、アディーも同じセレナーデの記憶に捕らわれた悲しい人。唯一無二の兄妹。しかし彼らは、殺し会わないとダメなんだ。ザンロッタは、立ち上がり剣をアディーに向けた。
「違う、違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違うっ!違うんだ!皆が僕を殺したんだ。私を殺して痛めつけて、存在を否定したっ!何度も我は、生まれ変わった。何度も生きようとした。お前のせいだっ!君のせいだ!姉さんもザルクルフも皆が僕を否定するんだっ!」
ザンロッタは、涙を流しながら言った。口調がバラバラで、顔つきも目付きも全てがバラバラだが彼は、心からの訴え、心から思っている言葉をアディーに投げつけた。その言葉は、アディーに痛いほど解っている。
「それが、エント・ジュサークが犯したの罪だからよ」
セレナーデの生まれ変わりだらこそやるべき事。それは、エント・ジュサークの生まれ変わりであるザンロッタを殺すこと。すると、アディーの目から涙が流れ落ちた。
「これで終わりにしましょう」
そう言うとアディーの持っている鎌は、細い剣へと姿が変わった。




