14.優しい嘘(3)
ミウは、ラルクを思った。この先このままラルクがザルクルフだと言うことを隠しきれないと言うことを。しかし、それをミウやビオラが言うべきではない事を解っている。しかし、いずれにしても彼が龍王だと解ってしまう。それが彼の運命で、彼の結末だからだ。
「う、う~ん…」
トラードは、頭を抱えて辺りを見た。ミウは、湖の近くで立っていた。何を考えついるのは、解らない。しかし、一つがだけ解ったのは、ラルクとルリラナがいないことだ。
「ミウさん…」
「ルリラナが浚われました。ラルクは、ルリラナを助けに行くと言って、別行動をすることにしました」
「じゃあ僕たちもっ!」
ミウは、悲しい顔で首をふりトラードを見た。
「ボクたちは、戦争を止めたくては、なりません」
「戦争?」
トラードが後ろを振り向くとヨモギだ。気が付くと他の皆も起きていた。ビオラは、考えた。そしてビオラは、ヘルの策略を理解した。
「……戦争…ね…そうか…そう言う事…」
ビオラは、ふらつきながら頭を抱えた。それを見たザックは、心配そうにビオラを支えた。
「…どうしたん?ビオラちゃん」
「フフ…ヘルは、どうしてもあたしたちの邪魔をしたいみたいだね。そうだよね。精霊の剣を手に入れたら殺されるものね…」
嫌がらせ。ビオラは、深呼吸をして心を落ち着かした。戦争を止める方法。ラルクの居場所が解らない今、何をすべきか、を考えた。
「取り敢えず、あたしたちは、ミコトちゃんの所へ行こう」
「戦争が始まるんならエルフであるオイラは、無理だ」
「サンから貰ったローブを着ればいいじゃろ?」
「あ…」
ビオラは、少しだけ考えた。この先やるべき事を。そして、言うべきことを考えた。そして、チラリとトラードを見て、口を食い縛った。
「…ヨモギくん良く聞いてね。君の弟は、もう死んでいるの」
「!!?」
「龍王の欠片を身に付けるには、生きた人間にとっては、耐えられないほどの苦痛と膨大な負の感情、そして、押さえきれないほどの魔力が流れ込む。
だから心無き人形や死体に与え禁止魔法で、生きた人間のようにしているの」
ヨモギは、その言葉に理解できなかった。弟は、既に死んでいる。死んでいる。あれは、生きた死体となる。じゃあラルクは?
「ビオラさん、では…ラルクさんは、どうなるかのですか?」
トラードは、知っている。一緒に成長してきた。ラルクは、人形でも死体でもない。生きている。生きている。でも、ビオラの言葉が本当ならば、ラルクは、何なのか?何者なのか?
でも、そんなことが関係ない。
「ラルクさんは、天才で、クールぶっていてあまり自分の事を喋ったりしないけど本当は、心が弱い人なんです。寂しい時に寂しいって、苦しい時に苦しいって言えない人なんです。人の悩みまで全部抱えてしまう優しい人なんです。そんな人が死体だなんて、まして人形だなんて思えない。ラルクは、生きています…っ!」
トラードは、嫌な予感がよぎった。ラルクの事を知っているつもりでも、本当の彼を知らない。本当のラルク・ヴェルクを知らない。彼に出会う前の彼を知らない。
ふと思い出した。
「クク・エルメル・ルース…」
ラルクが、ヘルのことをそう言っていた。彼女の事は、有名だ。ザックと同等に有名な人物。人間側が“月読みのザック”ならエルフ側では、“魔女”と言われた人物。しかし彼女は、既に死んでいると言われている。
「彼女が関係しているのですか?」
ヘルがククならばあり得る。そう思ったトラードは、ビオラに聞いた。ビオラは、少しだけ考えた。
嘘をついても本当の事を言っても彼らを傷付けてしまう。そう思った瞬間に言葉が見当たらない。考え込んでいるビオラを見て、変わりに口を開いたのは、ミウだ。ミウは、トラードの目を見ながら
「トラード、そんなにラルクの事を知りたかったら本人に聞いたらどうですか?」
「!!」
「今、ボクたちがすることは、戦争を止めることです。止めるには、どうすれば良いのか考えている途中です。ラルクが何者かは、関係ないです」
そう言っていたトラードの手を握った。トラードは、ミウの真剣な目を見て落ち着いたのか、握り返した。
「それにラルクの事は、君がよく知っているのではないですか?」
「……そうですね…」
そうでありたい。そうでいたい。彼を信じる事は、慣れている。もう、間違った行動は、しない。
「ヨモギさん。取り乱してごめんなさい」
「いや、お前さんじゃなくてもおいらが同じことを言っていたかもしれないから構わない」
そう言ういって、ヨモギは、気持ちを落ち着かせ考えた。トラードがラルクを思う気持ちと同じだ。同じだからこそ言いたかった事を言ってくれたこそ冷静になれた。
ヨモギは、今までのフォンの行動を考えた。そして、結論から考えると解ったことは、一つだけしかない。
「そうか…やっぱり…あの時おいらの変わりに…」
ヨモギは、悲しい顔で誰も聞こえない声で、呟いた。もう既に彼は、死んでいる。悲しみも苦しみも感じれないまま何故かほっとしている自分もいた。
ヨモギがどんなに苦しい思いになったのかは、彼しか解らない。だからビオラは、優しい言葉では、無く厳しい言葉で彼に言った。
「戦争を止めるには、動く死体になった弟を本当の意味で殺して、ヨモギくんがホル帝国の王になるしかないの。出来る?」
「ビオラちゃん、いくらなんでも…」
「ザックくん。他の誰かじゃあダメなの。権力を奪うことが出来る方法は、血族者とか信頼や、財力って言う理由ではなく今の権力を殺すことで、その権力者を殺すのは、次に王となる者になるとなる。王になるのは、ヨモギくんしかいないんだよ」
殺す。弟を殺す。それは、どんなに苦しいのかどんなに重いのかビオラは、知っていた。昔、父親を救ったつもりが彼を苦しめるしめ自殺に追い込んだ彼女だからこそ解っている。
だからこそ優しさだけで、甘さだけでこの世界は、救えない。守れない。
「………解った」
「ヨモギさん…」
「オイラは、大丈夫だ」
ヨモギは、微笑みビオラを見た。バルキニーである彼女は、多くの人を救って、きたのだろう。多くの命を奪ってきたのだろう。勇者と言われる存在がいるならば彼女にピッタリな言葉だ。けれど心が折れた彼女は、何時も人のばかり考えている。自分を知らないのだ。
「…話し合いは終わったか?」
「ん?あ…えっとアルくんだったけ?君は、どうしたいの?」
「…ララたちを探す」
そう言ってその場を後にした。アルルク。ミコトの恋人だった人。彼が何を考えているのか解らない。同じ人間であるトラードから見るアルルクは、ただ寂しげで、苦しそうに見えた。助けを求めるように見えたのだ。
「トラード」
「解っています」
今やるべき事は、違う。彼を救うことではない。
「じゃあ、ネールへ飛んで、跳ねてレッツゴー!と言いたい所ですが、ほんの少しだけ待ってください。やりたいことがあるので」
「解った」
ビオラは、頷きそれを見たミウは、走ってその場を後にした。ミウがやりたいこと。それは、ビオラもザックは、解っていた。
「ザックくんも行ってらっしゃい」
「…そうじゃな…その方がワシもあいつも報われるじゃろう」
そう言って、ミウの後を追うようにその場を後にした。




