2.希望の心(2)
男は、ナイフを抜きふらつきながら後ずさりをした。
「俺のせいじゃあない。アイツが悪いんだっ!」
血が滲む。ビオラは、慌ててラルクの所へ向かい治癒魔法を使った。それを見た男は、混乱しザック、ミウ、トラード、ヨモギ、ルリラナ、ラルクを見た。
「人間なのに魔法を使えるのかよ!?なんだよ!?お前ら…化け物だっ!」
そう言って、走って立ち去った。ザックは、うつ向き自分の影をみた。化け物。それは、ザックにとって聞き慣れた言葉。懐かしい言葉。嫌いだった頃の自分。
「傷は、浅いから大丈夫だよ。ルリちゃん」
「……私…ラルクに守られぱなしは、もう嫌…」
強くなりたい。そう思って、弓の練習も魔法の練習もしてきた。早口で、呪文を唱えるように練習もしてきた。
「だから私を守らないでよっ!」
ラルクを守るために強くなりたいのに。守られぱなしは、嫌だ。嫌だ。弱い自分が嫌だ。
「断る。俺は、ルリや皆が怪我をしたら俺じゃあ無くなりそうで嫌なんだ。どうして、そんなことを思うのか解らないけど…ビオラがあんなことになった時、胸が苦しく感じたんだ」
「ラルク…まだ師範のことを後悔しているの?」
「え?」
ラルクは、首をかしげた。それを見たルリラナは、驚いた顔をして口を塞ぎ目をそらした。
「…私たちを守るのは、勝手だけど、無理しないでよね?良い」
「解ったよ。
ありがとうな。ビオラ」
ラルクは、立ち上がり辺りを見た。以前来たときの活気があまりない。サンが言ったことは、本当なのだろ。ラルクは、考えた。
「ビーナスは、どうなるんだ?」
「彼処をまとめている貴族が、何とかしているらしい」
「きっと私のパパね。なら大丈夫よ」
ラルクは、頷き少しだけ考えた。そして、ビオラを見ると顔色が少しだけ悪い。ビオラがやって来たこと。それは、世界を守ること。未来や過去に存在し世界を正すようにする。
戦争を止めることは、彼女の役目である。しかし、そうすれば誰かを傷つけて不幸にしまう。
「ビオラさん。大丈夫ですか?」
「…うん。大丈夫、だよ」
そう言って微笑んだ。それは、嘘で無理な笑顔。最近は、無かったが、戦争と聞くと思い出す。
「戦争を避けているけれどミコト様にも限界がある。それに誰もミコト様の声を聞く人もいないしな…」
「ハーフだからか?」
「ああ」
サンは、頷き自分の手を見た。ミコトを守りたい。強くて、弱いく脆い心を持つ彼女が好きだ。一人にしたくない。そう思って、側に居続けていた。けれど、その思いは、虚しくミコトの心は、違う人を求めている。その人の代わりになれない。その虚しさが時々此処が痛くなる。
「アルルクがいたらこんなことにならないだろうな」
「アルルク?」
「ミコト様を守る兵士でありミコト様の大切な恋人。
アルルクは、ある任務に行ったきり行方不明になって帰ってこなくなってしまったんだ。ミコト様は、必ず帰ってくると信じて、待ち続けている」
解っている。自分では、無理だと。でも、それでも好きだった。愛していた。彼女の為なら何でも出来た。。しかし、ミコトが求めているのは、サンではなくアルルクだった。死んでいるのか生きているのか解らないアルルクをミコトは、待ち続けている。何年も待ち続けている。
「でも俺は、アルルクを許さない。生きていても死んでいても許さない…だって俺は、ミコト様が好きなんだ。ミコト様を悲しませるあいつを許すわけがない」
「……」
ミウは、好きで、好きでたまらないのに思うだけで胸が苦しくて、はち切れそうなのに傷つけて見捨てたような気がした。
なんとなくアルルクの気持ちが解るような気がした。
「ん?もうすぐ3時だ。悪いが、ラルク、俺を城に連れていってくらないか?」
「たく…解ったよ」
そう言って、ラルクたちは、その場を後にした。城へと向かった向かったラルクは、ふとあることを思い出した。
「ずっと気になっていたんだけど、どうやって水の魔法道具の剣を手に入れたんだろうな。誰に剣を貰ったかとか、何かのきっかけで、買ったのか覚えてないんだ」
「お前もか?」
「?何かあったのですか?」
サンは、少しだけ考え歩きながらこう言った。
「あの事件の事を正確に覚えている人が居ないんだ。まるで、20年前の両方の王が殺された時のように記憶があやふやなんだ」
「アークル様のせいじゃあないかしら?だってアークル様は、守り神と言われているけれど忘却の神とも言われている神なのだから」
「アークルじゃあないよ」
ビオラは、目をそらしながら言った。心が痛い。苦しい。サンは、ビオラを見て考えた。オレンジ色の髪。人間なのに治癒魔法が使える。何故か引っ掛かる。
「お前、何者なんだ?」
「あたしは……ビオラ・ハピナだよ。よろしくね」
そう言って微笑んだ。指を鳴らした瞬間に花が舞う。それを見たサンは、驚き考えた。
「手品師か?」
「違うよ。ん~…簡単に言うとあたしは、伝説の勇者って言う分類の種族だよ」
「ん?意味が解らないけど…伝説の勇者?の種族ってなんだ?」
サンは、考えた。伝説の勇者。体が細くか弱そうな女性が勇者?意味がわからず更に考えた。それを見たラルクは、耐えきれず笑った。
「なに笑うんだっ!?バカで悪いっ!」
「悪くない!それよりも、さっきら甘い匂いがする…お腹すいたし菓子ないか?」
「マイペースだなお前はっ!」
そう言ってサンは、ポケットから雪だるまの飴を取り出しラルクに渡した。
「ありがとうございますっ!」
「たく、何で飴をあげないとダメなんだよ…」
ため息をはきとぼとぼ歩いているサンを見てトラードは、サンの隣へ行きにっこり微笑んだ。
「何だよ」
「サンさんとラルクさん仲が良いなって思っただけです」
トラードは、空を見て鳥を見た。そして、少しだけ始めて出会った時の事を思い出した。
「ラルクさんは、始めて出会った時からずっと弱さを見せず強さだけを僕やルリラナさんに見せていました。自分のことよりも、自分の幸せよりも僕らの事をずっと考えて自分を犠牲にしてきたんです」
今でも何か隠しているのは、解っている。知っている。でも、それでもあえて問い詰めても誤魔化されるから口にしない。
「でも旅に出てラルクさんは、変わりましたよ。笑ったり泣いたり、怒ったりするようになったんです。だから、サンさんにも感謝しているんですよ」
「別にたいしたことしてない。俺は、全てミコト様の為に動いているだけだ」
そう言って顔をそらした。歩き続けるとやっと城へ続く橋にたどり着いた。ラルクたちは、サンを見送り手を降りその場を後にした。サンは、見えなくなるまで手を降りため息をはき空を見た。
「あいつもミコト様と同じなんだな…」
目を閉じ深呼吸をして、城の中へと入って行った。




