28.精霊の母(5)
ルリラナは、不安だった。何故ならラルクは、よく嘘をつくからだ。ザルクルフの心臓の欠片が自分の中にあることも相談なしに勝手に一人で何処かへ行ったのも、ラルクは、何も言わない。
何時もなら卑屈を言って、卑怯な事を言う。人を憎むことも恨むことも無いラルクを好きで愛したルリラナは、ラルクの帰りを待っていた。
「ラルク…」
遠くに行かないで、何処にも行かないで。ルリラナは、強く願った。するとイフティナとラルクが歩いてくる姿が見えた。
「イフティナから欠片を貰った」
そう言って、ミウに見せた。ミウは、目を閉じ考えた。
「これは、ザルクルフの声ですね…」
「ああ。これを取り込んだら俺は、俺でじゃあなくなるかもしれない。でも、ヘルを倒す為には、この力が必要なんだ」
「……ラルク…」
ミウは、目をそらした。もう神子ではない。神子の力を失ったミウは、何も出来ない。
どうしたら良いのだろうか?どうしたら正解なのだろうか?ミウは、考えた。
「忘却の海に…マーキュリーに行きましょう。そうすれば、神子に戻る方法もヨモギの弟を救える方法が解るかも知れません」
「良いんか?ミウ」
ザックが聞いた意味を何となく解った。ミウは、マーキュリーに戻るのは、全て終わってからにするつもりだった。じゃないと、ダメだと思ったからだ。
ミウは、頷きザックの手を握った。
「ボクは、大丈夫です。ザックこそ大丈夫ですか?」
「…わ、ワシは、大丈夫じゃけど…な!う、うん。嫁さんが激怒じゃあ無かったら帰っても問題ない…ワシ、生きていられるじゃろうか?」
ザックの体から冷や汗が溢れるように出て体を震わせた。それを見たルリラナは、首を傾げた。
「奥さん怖い人なのかしら?」
「普段は、でぇれー優しい人なんよ!優しすぎて、本気で怒ると天地がひっくり返るほど、鬼より怖くて泣く子も黙るほど、怖いんよ…ワシ…帰りたくない…」
本当は、会いたい。あの人が怒った後は、謎の甘えがある。“離れたくない”とか、“側に居て欲しい”とか“何処にも行かないで”とか言われたらころりと気持ちがユダいてしまう。
今は、ダメだ。ミウから離れたらダメだ。もう二度と離したらダメだ。
「それなら大丈夫ですわよ。人魚の子と鬼の子よ」
「どうしてですか?」
「神子になるには、人魚の子の記憶を取り戻す事が鍵なのです。大丈夫ですわよ。そなたは、マリカではないですけれど、マリカの血族。アークルに愛され愛している者ですので、本当の神子になれますわ。何故、神子としての力を失ったかを言いますけれど、それは、仮初めの力。偽物の力なのです。だから簡単に消え限界が来たのですわ」
記憶を取り戻す。ミウは、目を閉じた。少しずつ思い出してきているのは、解っていた。記憶の中の男の子。寂しげな古びた教会。一匹の猫。寒い牢屋。
思い出したくない記憶。思い出したら立ち直れなくなるような記憶。
「本当の神子になる方法は、マリカになるのではなく、捨てた記憶と向き合いそなたは、そなたらしく強く優しく生きると言うのが、アークルの願いなのです」
ミウは、考えた。向き合う覚悟があるのか。怖いから目をそらしていたのだろうか?どうな記憶だろうか。
心は、大丈夫だろうか。
「ミウは、記憶を取り戻さん方が良い…」
「??ミウさんの過去に何かあったんですか?」
「……」
ザックは、トラードの質問にたいして目をそらした。
「あった。じゃからワシは、ミウの手を二度と離したく無いんじゃ…」
「何があったのか知らねぇけど…決めるのは、ミウだ」
すると皆の目がミウを見た。ミウは、目をとじ更に考えた。深く考えた。
「…………ヨモギ。マーキュリーの近くにある教会の場所は、解りますか?」
「!!」
「ワープだな」
「はい」
するとミウは、ザックの手を握り微笑んだ。綺麗な笑顔で。明るい笑顔で。微笑んだ。
「ボクは、ザックの手を離しませんよ。
ボクにとって、ザックやエルナたちは、お母さんでありお父さんでありお兄さんでありお姉さんであり…どんな時だって側にいてくれた大切な大切な家族なんですよ。それが過去と今と違っても、記憶を失ったボクへの同情だと、償いだとしても…」
「ミウ…ワシは…ーーー」
ミウの父親と母親を殺した。全て嫌になって逃げた。ミウを1度は、見捨てた。
何年も何年も引きこもって目をそらして、ミウを独りにして、神子になったからと聞いて、都合よく現れた。
そんな奴を普通許せるだろうか?普通の人なら恨むだろう。憎むだろう。でも、彼女は、憎むどころか恨むどころか歓迎をした。しかも笑いながら。
そんなミウに甘えている自分が嫌いだ。
ふとザックは、影を見た。そして、考えた。
「……ワシは、同情でも償いでもない。お前を守りたくて此処にいる。お前を助けたくて、此処にいるんよ。じゃからもう離さんけい。独りにせんけんな。じゃからワシの手を離さんといてな」
「はい!ザックこそ離さないで下さいね」
そう言って再びミウは、微笑んだ。ヨモギは、目をそらして考えた。此処にいる人達は、本当に強い。こんか奇妙な集団なのに一人も同じ種族が居ないの信頼をしている。
これが目指していた国。これが目指していた世界。これが思い描いていた未来。
簡単に出来なかった。心を開くことも出来ず疑って、勝手に決め付け、差別をする。それは、心が醜いからだと思った。
「………オイラの魔法は、オイラが行ったことある場所しか行けないから…ルティス王国に行ったことがあるって言えば、ネールなんだ。だから、ネールでも良いか?」
ヨモギの質問にミウは、少しだけ考えた。
「ネールからマーキュリーは、どのぐらい離れているのでしょうか?ボクは、ネールに行ったこと無いので」
「歩く早さで変わるけど確か3日ぐらいよ」
3日かかる。今すぐ助けたいが、先ずは、ミウが神子にならないと話が進まない。
「自業自得だな…」
「何か言いましたか?」
「何でもない」
ヨモギは、エンジェルリングを取りだしワープ魔法を使い皆は、その場を後にした。
「行ってらっしゃい。愛しい、愛しい白き龍よ。そなたの夢が叶う事を私は、願いますわ」
イフティナそう呟いて、目をとじた。




