27.精霊の母(4)
「手をお出し」
言われるままラルクは、手を出した。すると白色の球体をラルクの掌の上に置いた。
「龍王の欠片…これは、何処で手に入れたんだ?」
「龍王が欠片になった日にアークルから授かったのです。
生まれたばかりの私の初めての仕事がこの欠片を生まれ変わったそなたが現れるまで守り続ける事ですの」
間違わないように、もう二度と同じことを繰り返さないように、ビオラの為に守り続ける。
「だからこれは、そなたの物ですわ。だから、返しましょう」
キラリと輝く龍王の欠片。ラルクは、それを見て悲しい顔をした。
「ずっと守っていたんだな」
「はい。全ては龍王…そなたのためですから」
涙が出そうになった。自分のため。何年何百年何千年たっても変わらない。嫌われても、恨まれても、憎まれても彼女は、信じ守っていた。
「…でも、俺は…」
「………私たちは、そなたを守ろうとしたあの子を殺そうとしました。精霊の剣でヘルとあの子を殺そうと…これは、私たちのせめての償いですわ。だから受け取って下さい」
ラルクは、龍王の欠片を見た。そこで、初めてイフティナとアークルがずっと苦しんでいた事を知った。恨んでは、いなかったと言ったら嘘になる。でも、ヘルを殺すとなれば必然的にあの子も死ぬ。
永遠の命を手に入れたあの子が死ぬ。それは、あの子にとって幸せな事なのだろうか?嬉しい事なのだろうか?
「しかし、今は、取り込むことは、出来ませんわ。神子がいませんので…」
「ミウが神子に戻る方法は、あるのか?」
「ありますわ。人魚の子が、過去を取り戻したら…本当の名を受け入れたら本物の神子になるでしょう」
本当の名を受け入れる。それは、ミウではなくジュランと言う名を受け入れる事だ。何故ジュランは、ミウと名乗っているのだろ?
ミウ。海に愛された者。海。大いなる海。アークルは、海に住む神様。海を差すのは、きっとアークルの事だろう。ミウが何時記憶を取り戻すかは、解らない。きっかけが解らないからだ。しかし、早い方が良い。
「じゃあ、あいつの弟…フォンエッドは、助けれないってことなのか?」
「それは、大丈夫ですわ」
「どうしてだ?」
「…これから言うことは、フィンには、言わないで下さい」
目をそらした悲しい顔で、イフティナは、空を見た。
「この世界で何故か今まであり得なかった者が生まれています。心を持った人形。生きた屍。まるで本当に生きているかのように、本当に心を持っているかのように感情を持ち動き廻るのです。
そしてフォンは、その中の一人なのです。フォンは、この世に存在しては、ならない生き物。彼は、既にもう死んでいるのです」
ラルクは、言葉を失った。そして、心当たりが有った。それは、ビーナスで出会ったコンバットと言う一人の少年と言うか妖精。彼は、不思議な力を持っていた。その力は、神様と引き換えに手に入れたと言っていた。
フォンは、既に死んでいる。ヨモギにその真実を知られたら絶望するだろ。しかし、何時か解る真実。それが遅いか早いかの違い。
「フォンが生きているのは、龍王の欠片の魔力のお陰なのです。私は、フォンとフィンを救いたい。でも、欠片を全て集めそなたの本当の力を手に入れなければ、エント・ジュサークにしてもヘルにしても戦いに勝つことは、出来ません。どちらかを選べば、どちらかの願いが叶わない…」
「…イフティナ。ヨモギには、言った方が良い。隠していても解ってしまう真実なんだ。それが、早かろうと遅かろうと同じ事なんだ。
それから、選択を選べば良い。これからどうすれば考えれば良いんだ。答えは、1つではないだから…」
その言葉を聞いて、イフティナは、驚いた。昔とは、違うからだ。それは、当たり前の事だ。ラルクは、ザルクルフの生まれ変わりだが、ザルクルフではない。同じ心ではない。同じ思いではない。記憶が同じでも存在が違うイフティナと同じだ。
イフティナは、少しだけ不安もあった。選択を間違ってしまえば、この世界は、どうなるだろうか?
「そうですわね…私が勝手に人の良し悪しを決めるようなことは、あっては、ならないこと…また、同じ過ちをしようとしていましたわ…」
「でも、イフティナは、必死に世界を守ろうとしているんだろ?なら、それで良いんだ。
龍王が死んだから…アストが死んだから…アークルが忘却の海の奥深くに閉じ籠ってしまったから…
必死に守ろうとしているやつを否定する奴なんて居ない。俺もあいつもあいつもあいつも…否定しない」
「アークルの居場所をどうやって知っていたのですか?」
アークルの居場所を聞いて、イフティナは、再び驚いた。何故ならアークルが籠ったのは、ザルクルフが欠片になった後の話の出来事で、欠片をイフティナに渡した後の話。いくらザルクルフの生まれ変わりでも知らないことなのだ。
するとラルクは、頷きイフティナを見た。
「忘却の海に行ったことがあるんだ。その時、膨大な力を感じたんだ」
「………
………………
そろそろ戻りましょう。きっと皆さんが心配していますわ」
「?そうだな」
ラルクは、イフティナが何故、躊躇ったのか不思議に思った。そして、アークルの居場所を聞いといて、触れもしなかった。
不思議で不信で、不審だ。何かを隠している。しかし、確定でもなく解らない事だ。これ以上なにも言えない。なにも言わない。何も聞かない。ラルクは、無言のままルリラナがいる場所へと戻ることにした。




