26.精霊の母(3)
目を覚ますと心配そうに見つめるラルク達が立っていた。ビオラは、考え思い出した。
「えっと…おはよう…?」
「大丈夫か?」
「うん」
そう言って微笑み立ち上がった。すると目の前にいるイフティナを見てにっこり微笑んだ。
「ビオラ。私は、確かにイフティナですわ。ですがそなたが知っている私では、無いことを解っていますか?」
「うん。解ってる。でもね、君に会えて嬉しいよ」
解ってる。解ってる。知っている。自分が置かした罪の大きさぐらい解ってる。
「…皆が無事で、良かった。精霊の森が無事で良かった…」
ビオラは、立ち上がり本題へと話を向けた。本題。それは、精霊の剣の話だ。
「イフティナ」
「解っていますわ。精霊の剣ですね。確かにそなたが持っていた精霊の剣は、折れました。その理由を解っていますか?」
「…解っている。アストを殺したこと」
救いの女神アストを殺した。それは、死の女神ヘルの企みだ。でも、殺したのには、変わりない。
「…違いますわ」
「え?」
「確かにそなたは、アストを殺しましたわ。でもそれは、ヘルの企みです。ヘルの幻術によるもので、騙し操った。それは、間違っていません」
アストを殺した事以外にあの日、あの時起きたデキゴトヲ思い出す。 ビオラは、記憶を辿った。自分を疑い思い出そうとした。
「解りませんか?」
「……」
「精霊の剣が折れた理由を…」
折れた理由。解っている。どんなにもがいてもヘルを殺すことが出来なかった。ヘルが強いからではない。
「心が折れた…から…?」
「そうです。ヘルに利用されたそなたは、自分を責めた。アストとそなたが愛した精霊を殺した事、エントを殺した事、龍王が死んだ事、セレナーデが死んだ事、マリカが死んだ事。全て自分のせいだと責めた」
「………」
心が折れた。ビオラは、考えた。確かに心は、あの日、あの時折れたと言うより壊れた。アストを殺した事とによりすべてを知ったビオラは、嫌いになった。元々自分が嫌いだった。憎かった。苦しかった。後悔をした。やっと現実が解ったような気がした。
そう思った瞬間、精霊の剣が折れた。
「でも、ビオラは、ボクたちを救うためにこの時代に来ました。後悔を後悔で終わらさない為にボクたちの未来のために…」
「そうだな。ビオラ。精霊の剣は、もう二度と折れない。お前の心は、俺たちが守るぜ」
そう言ってラルクは、微笑んだ。それを見たイフティナは、少しだけ考えた。
「強き心は、勇気となり剣となる。優しき心は、癒しとなり魔法となる。それがそなたの力です。
友を持つことは、そなたの力となります」
イフティナは、ビオラの頭を撫で、微笑み岩に座った。
「教えましょう。精霊の剣の秘密を…
精霊の剣と同じように心の力を形とする“ほうき星”“エンジェルリング”“スノーホワイト”“鬼神”“雷光”“不知火”六つの神器と仕組みは、同じですわ」
「神器?」
「水、風、地、火、光、闇の特殊な武器のことです。ボクが持っている武器であるほうき星は、水の神器。ヨモギが持っているエンジェルリングは、風。アディーのスノーホワイトは、地です」
「はい。よく知っていますわね」
そう言ってイフティナは、微笑んだ。ふと自問に思った。アディーが使っている魔法は、氷。地ですらない。
「アディーは、氷だぞ」
「はい。神器は、その者の心を写す武器。持つ人によって変型する武器とも言われる物です。ボクのほうき星の正体は、この耳飾りの石なんですよ」
そう言って、ラルクたちに水色の石が付いた綺麗な耳飾りを見せた。
「心を写す武器…」
「はい。ボクのほうき星は、耳飾りの水色の石。アディーのスノーホワイトは、ベルトの白くて冷たい石。ヨモギのエンジェルリングは、腕輪の翡翠色の石。それぞれ形も石の色も違うアクセサリーとなっています」
ふとビオラは、ネックレスを取りだした。いろんな色に輝く七色の石。昔ある人から貰ったネックレス。
「これがあたしの精霊の剣の正体…!」
「やっと解ったのですね。バルキニー」
ずっと持っていた。ずっと側にあった。ビオラは、微笑みネックレスを握りしめた。
「大丈夫ですわ。そなたは、心から泣くとこができたのです。だから、もう二度と折れない本当の精霊の剣を手に入れるのです」
ビオラは、頷き静に願った。皆を守りたい。皆を救いたい。希望がある未来のために、信じる世界のために強くなりたいと願った。
しかし、願いは、届かず形にすらからない。ビオラは、少しだけ不安になった。
「…まだ今のあたしじゃあ力不足なの?」
「大丈夫よ。ビオラなら出来るわ」
ルリラナは、ビオラの肩を持ち微笑んだ。するとミウとトラードは、微笑んだ。
「急がなくても良いですよ」
「そうですね。神器と言うのは、そう簡単に使えるようになるものでは、無いですしね」
「そうじゃな。特に精霊の剣って名前がつく物じゃけん余計に難しいじゃろうな」
「それに俺らもまだ欠片を全然集めてないしな!」
そう言ってラルクは、笑った。
「ありがとう…みんな」
ビオラは、少しだけ勇気がわいた。みんながいれば大丈夫。強くなれる。勘違いではない。本当の勇気。自分だけの力ではない。皆から貰った力。
すると少しだけ石が光った。
「!!」
「な、なに!?」
しかし、何事もなかったように光は、一瞬にして消えた。何が起きたのか解らず皆は、固まった。
「バルキニー。一度光輝く涙を流しましたか?」
「うん。あと血の涙もね」
するとイフティナは、少しだけ考えた。
「そなたと二人だけ話がしたいですわ。少しだけ良いですか?」
「ああ」
そう言って二人は、深い森の奥へと向かった。イフティナは、誰もいない事を確認してからラルクの手を握る。
「なんだ?イフティナ」
「やはりそなたは、ザルクルフの生まれ変わりですわね」
「ああ」
イフティナは、微笑みラルクの胸に手を当て目を閉じた。
「そなたにだけ伝えたい事があります」
「伝えたい事?何だ?」
「バルキニーの事ですわ」
ビオラのこと。別にみんなの前でも良いのでは?と思いながらラルクは、イフティナの言葉に耳を傾けた。
「バルキニーの黄色い瞳には、ヘルの一部を封印しているのです」
「ヘルの一部を?でもヘルは、女神だぞ。そんなことが出来るのか?」
ラルクの質問にイフティナは、頷いた。
「出来ますわ。あの瞳は、元々アスト様の義眼です。アストを殺す前に一度だけバルキニーは、絶望したことがあるのです。
その隙を狙ってヘルは、バルキニーの中に入ったのです。しかし、ヘルの思惑に気が付いたバルキニーは、自分の力で、ヘルをアストの力を使って封印し死のうとしたのですが、失敗して、一部だけしか出来なかったというわけですわ」
イフティナは、空を見て悲しい顔をした。そして目を閉じ風を感じる。
「きっとヘルは、バルキニーが精霊としての力を使おうとするとヘルの力へと変わるようにしているのでしょう。血の涙を流したということが証拠です…」
「と言うことは、ビオラが精霊になろうとすればするほどヘル化になるってことなのか?」
「はい。だからと言って、精霊の力を使うなと言うわではないのですわ。
わたくしたちにとっては、あの子が勇気の精霊バルキニーとしてでは、無くビオラ・ハピナと言う一人の人として生きて欲しいのです」
人として生きて欲しい。精霊の力なんて頼らず普通の何処にもいる女の子でいて欲しい。それがイフティナの願い。
ラルクは、微笑みイフティナの頭を撫でた。
「生まれ変わっても俺とお前は、変わらないな…イフティナ、俺とビオラを信じてくれ」
「え?」
「俺は、ちゃんとあいつの約束を果たすし…ビオラもヘルには、ならない」
大丈夫。大丈夫。もう、卑屈を言わない。弱音をはかない。もう、逃げたりしない。出来る。出来る。何でもやる。何でもやってやる。諦めない。
その気持ちは、きっとビオラも同じだ。
「昔に比べて寿命も短いけど人になって俺は、良かったって思っているんだ。
ちょっと前の俺は、卑屈だったけどな。いろんな事があっても俺が必要だと言ってくれる仲間が出来たんだ。だからその事をあいつに教えたい。俺が死んで絶望して、永遠の眠りについたあいつに…幸せってそんなことなんだってな」
「まだあの子を大切に思っているのですね」
悲しい目でイフティナは、言った。ラルクは、頷き空を見た。
「ああ」
「ヘルを殺せば、バルキニーもあの子も死ぬのですよ」
「解っている」
「……解りましたわ…そなたに力をあげましょう」




