24.精霊の母(1)
その頃ラルクたちは、森を歩いていた。精霊の森。夜ではないのに薄暗く光の玉と蛍が飛び回る。それは、とても美しくミウは、辺りを見た。
「幻想的ですね。あの光の玉は、妖精ですか?」
「ああ。この近くにいるはずだけど…」
ヨモギは、辺りを見て耳を済ませた。ふと、何かが通りすぎる影みえたのを確認して、エンジェルリングを前に向けた。
「オイラだよ。フィンドット。だから出ておいで」
その言葉に反応して木の影から小さな羽根が生えた女の子が飛んでいた。
「本当にフィンなの?わたしの名前が解る?」
「シルフでしょ?」
「あたり!」
そう言ってヨモギがいるところへ飛んでいたにっこり微笑んだ。
「サラマンダーとか…後の3人は?」
「…ウンディーネは、イフティナ様がいる湖で、水浴びをしているけれど後の二人は、フォンに連れていかれたわ」
そう言って、悲しげな顔で、言った。ふと、シルフは、ビオラを見て驚いた顔で、こう言った。
「バルキニー様!」
「バルキニー?」
シルフは、慌ててビオラの所へ向かいぐったりとしているのを見てくるくると回って焦っている。それを見たヨモギは、首をかしげた。
「あわわ…バルキニー様が大変なことになっているわっ!し・か・も魔力が勝手に減ってるっ!急いで、イフティナ様の所へ行かないと…!わたし、イフティナ様にしらせてくるー!」
そう言って、飛んでいった。ミウは、今のは、何だったのだろうと不思議そうに首をかしげヨモギを見た。
「あれは?」
「四大精霊の風の精シルフだ。他にも地の精ノーム、水の精ウンディーネ、火の精サラマンダー…ここの番人であり精霊のトップクラスなんだ」
「では、ビオラよりすごい精霊ってことですよね?なのに、あのシルフはバルキニー“様”って言っていましたよね?ビオラが勇気の精霊バルキニーと言うこては、知っています。しかし、どうして様を着けるんですか?」
ヨモギは、目をそらし近くの花を摘んだ。
「精霊の母イフティナにとって勇気の精霊バルキニーは、大切な存在なんだ。だって、自分の代わりに幾度の時を越え、苦しみを越え、幸せを忘れた彼女は、諦めず他人の幸せを祈ってきた。
バルキニーは、最も残酷な運命を背負った精霊なんだ。だから、精霊と妖精たちは、バルキニーを愛し従っているんだ」
「詳しいですね」
ミウは、微笑んだ。するとヨモギは、目をそらし考えた。
「子ども頃からずっと聞かされていたんだ。おとぎ話として、ずっと」
「名の無い花…ですか?」
「……ああ。龍王の欠片と一緒に寝る前に必ず…な」
ラルクは、目をそらした。過去を忘れてしまっていた方が楽だったかもしれない。でも結局は、どの選択にしても自分を嫌い。自分を苦しめ。独りぼっちを選ぶ。
「ラルク・ヴェルク。お前さんは、龍王の欠片の持ち主か?」
「…ああ。心臓だ。あとお前の弟の目もだ」
「……バルキニーを助けてやるが条件がある」
ヨモギは、振り向きラルクを見た。迷い無い瞳で、こう言った。
「フォンの目とお前の目を変えてくれ」
目を変える。元々ラルクは、龍王ザルクルフだから問題ない。しかし、フォンは、強く負の感情を持っている。憎んで、恨んで、悲しんでいる心を持ったフォンの目にある
「!!…解った」
ラルクは、目をそらさず言った。するとミウは、慌てた顔で、ラルクの肩を持ち、悲しい顔をした。
「ダメですっ!負の感情を強く持った欠片を取り込むって事は、もしかしたら力が暴走して、ラルクがラルクでなくなってしまうかもしれません!例え、そんなことにならないだとしても、ラルクの心は、何れ負の感情に蝕まれる可能性もありますっ!」
「大丈夫だ。ミウ」
そう言って頭を撫で、歩き始めた。その背中は、空しく悲しく感じたルリラナは、目をそらした。
「ラルク!ラルクは、どうして、そんなにも自分を犠牲にするんですか!?」
「……」
ラルクは、立ち止まり少しだけ考えた。
どうして?そんなの解っている。自分がザルクルフだから。単なる元に戻るだけだから。だから自己犠牲なんかしていない。
「犠牲にしていない。俺は、龍王の欠片の持ち主で、しかも心臓だ。
俺が死んで、世界が平和になるなら…誰かが幸せになるなら……トラードやルリラナ…皆の未来のためなら…俺は、喜んで死んでやる。
そう言う運命だからこそ死を選んでいるだけで俺は、自分を犠牲にしていない」
返す言葉がなかった。何故ならラルクの言葉は、迷いがないからだ。ミウもルリラナもトラードもヨモギも何も言えなかった。
死ぬことを怖れない事は、難しい。死ぬ直前になって恐怖に見回され体が震えるのだ。しかしラルクは、何度も生きたいと願い。何度も死を選んだ。
世界に絶望して死ぬではなく、誰かの幸せのために死ぬことを選ぶ彼を止めることは、出来ない。自分の幸せよりも誰かの幸せを願うラルクを止めることは、出来ない。そう思ったミウは、目をそらした。
「ラルクは、逃げないですね…どんな運命だとしても迷わないですね……ボクは…ーーーー」
ミウは、誰も聞こえない程の小さな声で呟いた。自分は、迷ったからだ。死ぬことを恐れ過去の出来事を恐れ逃げた。そして、忘れることで、向き合うのを止めた。
ザックとは、違う。ラルクとは、違う。アディーとは、違う。トラードとは、違う。
少しずつ思い出そうとしているのは、解っているのに拒絶しているのも解っている。怖いからだ。思い出すことが怖い。死ぬのが怖い。
これが普通の人の答えであり普通の思いだ。当たり前だ。
「行くぞ」
そう言って、ヨモギとラルクは、歩き出した。俯くミウを見て、トラードは、手を差忍ばし微笑んだ。しかしミウは、目をそらした。
「もし、ラルクが負の感情に飲み込まれたらボクは、ラルクを殺さないとダメです。でも、ボクは、出来ません。神子の力を失ったボクには、ラルクを殺すことも、守ることも出来ない…」
「……ミウさん。神子の力が無くても出来ることは、いっぱいありますよ」
トラードは、ルリラナの手を握りミウの手を握った。
「勇気と希望を忘れないこと。悲しくても寂しくても空元気でも、いいから笑うこと。側に居ること。何事にも諦めないこと…」
「信じること…」
「ほらね?他にもいっぱい、いっぱいありますよ」
ラルクを信じること。仲間を信じること。ミウは、強く強くトラードの手を握った。
「………
よーし!解りました!ルリラナ、トラード!3人で、ラルクを守りましょう!友情パワーで、負の感情を吹っ飛ばしましょうっ!」
旅に出てから弱気になっている。神子の力を失ってから弱気になっている。約束を忘れたわけでは、ない。心で決めたことを忘れたわけでは、ない。世界を守るために大切な人を守るために旅に出た。帰る場所を守るために旅に出た。
「あんたに言われなくとも私は、ラルクを守るわよ。だって、ラルクがラルクじゃあ無くなったら嫌だから」
「そうですね。僕だって二人と同じですよ。だから、進みましょう。はぐれないように、見失いように進みましょう」
3人は、頷き歩き始めた。




