22.海に咲く花(4)
幼いザックは、一人になるため深い深い森にある光も通さない暗い牢屋で、暮らすことにした。食べ物も飲み物も困らなかったその森に日中だけ行動し月が出る夜には、閉じ籠った。
何年も何年もザックは、誰とも会わず一人で暮らした。寂しいが、誰かに会うことが怖かったザックは、これで満足だった。
ある日の朝。牢屋の外で声が聞こえた。
「誰かいるか?」
ザックは、目が覚め目を擦り扉をみた。自分と同じぐらいの年齢の少年が怯えながらあたりを見ていた。
「誰だ?」
「わあ!ビックリした…」
ザックは、ランタンに火をつけ石で隠していた小さな窓から光を入れた。すると少年のお腹が鳴る音が聞こえた。
「…そこにリンゴと木の実があるから食べてここから出て行ってくれ」
「外は、雨なんだよ。雨宿りさせてくれよ」
「…解った。でも、暗くなる前だぞ」
そう言って、ザックは、寝転んだ。すると、少年は、首をかしげた。何故なら体が大きい割には、リンゴ1個と木の実は、木苺など五種類あるがそれぞれ5個しかない。体が大きい割には、少量だと思った。そして、明らかに朝御飯としての物を誰かも知らない自分にくれたことに驚きもあった。
「どしたん?果物が嫌いなん?」
「そんなことない。君のは?」
「近くにリンゴの木があるけん。大丈夫じゃから食べろ」
少年は、言われるままリンゴを食べあたりを見た。明らかに生活感がある。此所で暮らしているのだろうか?と不思議思いザックを見た。
「鬼族なの?」
「…そうじゃ」
「此所で住んでるの?」
「…そうじゃ」
「…寂しくないの?」
自分と同じぐらいの年齢だろうと思った少年は、そう質問した。ザックは、目をそらしこう言った。
「…別に」
「君の名前は?」
「お前は、質問ばかりじゃな」
「ボクは、トバーズ・プライ。君は?」
全く人の話を聞かない人だと思いながら深いため息をはいた。
「ザック」
「ファミリーネームは?」
「忘れた」
忘れた。嘘ではない。家族の顔も思い出せない。居たことは、解る。母親と父親、姉がいることは、解っている。でも、解らない。どんな人か解らない。
「忘れたって…なら、ボクが考えてあげるよ」
「何故そうなるんだよ」
「えーとなら“フォルス”は?」
全く話を聞かないトバーズにつて行けず目をそらした。
「うん。良いな。ザック・フォルス。良い響きだ。ついでにフォルスって意味は…ーーーー」
*+*+*+
フォルスの意味は、何だったけ?そう思いながらザックは、深く息を吸った。
「俺は、俺を閉じこめて、ずっと俺に怯えていた。そうだろ?」
「そうじゃな。ワシは、ずっと影が怖かった。じゃけど、生きることを教えてくれたのは、トバーズじゃった。ソフィアじゃった。じゃからワシは、生きるんじゃ」
生きる。守るたに生きる。誰かのためにじゃあない。自分の為に生きる。
ザックは、刀を振り攻撃をしたが、ディランは、あっさり交わしザックを見た。
元々勝ち目がない。攻撃をすれば親友の体を傷付ける。ザックは、考えた。
ふと、ディランの影を見ると影は、ディランの格好も背丈も違う物になっていた。
「そうか…お前は、此処にいたんじゃなっ!」
そう言って、ディランの影に向け地面を刺した。
すると影は、刀に絡むように被い抜くことが出来なくなった。
「俺は、お前だ。お前の痛みは、俺のもでありお前のものだ。心も体も。俺を捨ても、俺を閉じこめても俺は、お前が生き続ける限り俺も生き続けるんだ」
逃れない運命。解っている。殺人鬼であるこの影も自分だ。自分の影だ。解っている。解っている。
「お前は、本当の気持ちを知らない。本当の記憶を偽っている。だから、俺が生まれたんだ。お前の中のもう一人の俺が、生まれたんだ」
「ワシの本当の気持ち?本当の記憶?」
首をかしげた。本当の記憶。本当の気持ち。
ザックは、考えた。記憶を辿った。過去を思い出そうとした。
「お前は、本当に肉を食べたのか?お前は、どうして家族を殺さなかった?どうして、あの時母親だけいたんだ?父親は?姉は?」
思い出そうとした。過去を思い出そうとした。でも、やっぱり解らない。村の人たちを殺したのは、俺だ。俺だ。確かにそうだった。でも、それは、これまでの話だ。
忘れていた。いや、忘れようとした。
「…ワシは、肉を食べてない」
「そうだ」
「…村の人たちを食べて、殺したのは…ーー」
目をそらしていた。目を閉じて知らない顔をした。全部、自分のせいにした。自分のせいにすれば、平和になると思っていた。解決すると思っていた。
でも、それはやっぱり違っていた。
「母さんと父さん…じゃ…」
村の人を食べている母親と父親を見た。ザックは、恐怖で声が出なかった。しかし、物音を立ててしまったことによりザックは、無理矢理肉を食べさそうとした父親をザックは、殺した。
この手で、父親を殺したのだ。
「ワシは、父さんを殺した…殺したんだ…っ!自分を守るために殺したんだ!」
怖かったんだ。思い出すのが。父親を殺したこと。母親が嘘を言ったこと。自分を騙すことで、楽になろうとした。それで良いと考えた。
「そうだ。あの頃の記憶は、偽りだ。偽りを偽っていた。そうすれば、楽になれると思っていた。だけどお前の親は、それを利用して、全て俺のせいにした」
自分を苦しめた。あの血は、村の人たちを殺した訳ではない。目の前で殺されついたのだ。口の回りの血は、無理矢理食べさそうとして、ついた血だ。手も爪も偶然に付いた血だ。
食べなかった。村の人たちは、殺さなかった。
「そんな親を守ろうと愛そうとしたんだ俺は」
ただ、優しい両親の豹変に恐ろしいと思ったザックは、忘れようとした。
刀が重い。心が重い。苦しい。
「確かに俺は、呪われている。あんなことが無かったら俺は、生まれなかった。絶望しなかったら存在しなかった。弱い俺をこうして影に閉じ込めなかった…
俺が死ねば、お前も死ぬ。お前が死ねば、俺も死ぬ…そうやってお前は、逃げてきただろ?」
真実からも現実からも逃げてきた。もう、疲れるほど逃げてきた。
「…………お前は…ワシしか殺せん…」
意味が解った。いや、気づいていた。でも、知らない顔で、目をそらしていた。
「自分を殺せではない。自分を受け入れろって訳なんじゃな」
その言葉を聞いて、ディランは、微笑んだ。




