21.海に咲く花(3)
ザックは、子供の頃を思い出した。父親がいて、母親がいて、姉もいるまだ幼い何も知らなかった頃を思い出した。
鬼族は、人間から見て恐ろしい存在だった。体が大きく角も生え目付きが悪い。何もしていないのに悪者扱いをされ差別されていた。
だから鬼族は、進化をした。善ある心を持つ者は、角が生えなくなったのだ。
しかし、全てが上手くいくわけではなかった。
鬼族は、一人の魔術師により永遠に解けぬ呪いをかけられたのだ。それは、赤月の呪い。月の呪い。影の呪い。その呪いは、鬼族だけ呪われ、何十年に1回しかない赤い月の日に生まれた赤子のみ呪われる。しかし、呪われても条件を満たさないと発動は、しない。
「生き物の肉?」
「そう、こうやって焼くと旨いんだぜ」
何も知らなかったザックは、村の人たちと初めてキャンプと言うイベントに参加を隠れてして、初めてのバーベキューを目の当たりにした。
お肉に野菜が串に刺さっている事に驚いたが、ザックにとって、驚いたのは、それだけてはない。肉と言う食べ物だ。
農家であるザックの家に当然、野菜もある米もある。魚を食べたことあるが肉は、初めてだった。
「ザックの家は、金持ちなのに肉も知らないのか?」
「んなっ!肉は、知らなくても美味しい魚は、知っとる!」
肉の方が高いのか魚の方が高いのかわからないザックは、ふくれた顔で、言った。
肉が焼けるにおい。お腹も空いてきた。
「ほら、焼けたぜ」
「あ、ありがとう」
ザックは、一口お肉を食べた。柔らかく肉汁が口の中で、あふれでる。噛めば噛むほど旨い。魚は、さっぱりこれは、これで美味しいが、肉も美味しい。
「旨いっ!」
「だろ?」
しかし、違和感が感じる。ザックは、突然の目眩で、倒れた。
*+*+*+
何時間たったのだろうか、ザックは、目を覚ましあたりを見た。誰もいない。人の気配がない。
「おーい。みんなー」
ザックは、歩きひとりの女の子が倒れていたのを見つけた。
「おい!大丈夫か!?」
そう言って、走って向かうとあたり一面血だらけだ。どんな顔だったのか解らないほどぐちゃぐちゃになっている。
ザックは、慌てて近くにある家に入るがそこも既に皆、死んでいる。
落ち着いてあたりを見るとあちらこちらに村の人たちは、倒れ息もない。既に死んでいる。
誰も生きている人は、いない。
「誰が…こんな…」
ふと、両親が心配になったザックは、家に向かった。
「母さん!父さん!姉さん!」
返事は、ない。ザックは、一つ一つ部屋を探した。しかし、誰も居ない。最後にお風呂場にむかった。
「皆…死んだ…?いったい誰が…?」
ザックは、気持ちを落ち着かそうと顔を洗おうと洗面所へ向かいふと鏡を見た。
「!!!」
ザックは、言葉を失った。何故ならザックの口の回りは、血だらけだからだ。手も爪も着ていた服も全て血だらけ。血まみれ。ザックは、慌てて水で流すが落ちない。手も口の回りも服も落ちない。落ちない。
「あああぁぁあああああぁああぁああああああっ!」
どうして気づかなかったのか。いや、気づかないふりをした。手も口も服も見ないふりをした。村の人たちが死んでいる事を解らないふりをした。
誰が殺したのか解らないふりをした。
ザックは、涙を流した。震える体とともに座り込んだ。
「そうだ…俺が…皆を殺したんだ…皆を…この手で…殺したんだ…」
皆を殺したんだ。首をへし折り、腕を磨ぎ取り、食べたり、殴ったりした。
「俺は…俺は…っ!うわああああ!!!」
自分が怖い。記憶が無いようであるようで曖昧なのが、さらに怖い。怖い。怖い。ザックは、叫び泣いた。声が枯れるほど泣いた。
「ザック…なの?本当にあの優しいザックなの?」
声が僅かに聞こえザックは、気持ちを落ち着かそうと深呼吸をしてあたりを見ると押し入れから顔を覗かせこっちを見ている母親がいた。
「母さん…」
「ザック…肉を食べたの?」
「………」
記憶が曖昧で、自信もって言えなかった。ザックは、黙り混み考えた。
「母さん…俺は…赤月生まれなん?」
赤月の呪いの発動条件。それは、肉を食べること。それを知っているザックは、母親の答えを待つことが出来なかった。
「教えてくれよ…母さん…俺は…赤月の呪いに呪われて産まれたん?肉を食べたことで、俺は…もう…死ぬまで誰かを殺すん?」
「ザック…」
母親は、幼いザックを抱き締め大粒の涙を流した。そして、何度も何度もごめんなさいと呟き頭を撫でた。
「母さん…俺を殺してよ…誰も傷つけたくない…殺したくない…」
誰も傷つけたくない。殺したくない。でも、本当は、死にたくない。そんな矛盾めいた感情で、ザックは、言った。しかし母親は、首を振りこう言った。
「出来ない…殺すなんて…私には、出来ない…
ごめんなさい、ザック。私に心が無かったら貴方の願いを叶えてあげれるわ。でも、私は、心があって、貴方の母親なの。お腹を痛めて、産んでこうして成長した貴方を殺すことなんて、出来ないわ…」
「……母さん…」
こんなにも母親が思っているなんて知らなかった。姉がいて、父親がいて母親がいてあたりだと思っていたザックは、他人の気持ちなんてどうでも良かった。
胸が苦しい。誰も傷つけたくない。殺したくない。殺したくない。誰か自分を殺して欲しい。でも、死ねない。死にたくない。生きたい。生きたい。
矛盾している。感情がぐるぐると埋めいている。
「…じゃあ、誰もいない所に俺を閉じ込めてよ。月の明かりが当たらない、影も作らない場所に閉じ込めてよ」
生きたい。死にたくない。でも誰も殺したくない。月明かりにより暴走する呪いが、怖い。月が怖い。夜が怖い。
「それも出来ないわ…私は、貴方を愛しているわ。殺したくないわ。でも…貴方が怖い。怖いの…」
ザックを誰もいない場所に連れていく間に夜になり月明かりに照らされるとザックは、殺人鬼になる。影の呪いで我を忘れたザックを止めるには、日の光しかない。解っている。その言葉の意味は、解っている。しかし、ザックは、すぐに言えることが出来なかった。
「っ……!」
いつ死ぬか解らない事に恐怖を感じた母親を見てザックは、考えた。そして、答えを解っていたのか、涙を拭き立ち上がった。
「そうだよな…解っとた…気づいていたんだよ…誰も死にたくないもんな…生きたいもんな…だから俺は…一人で生きるしか無いもんな…一人で死ぬしか無いもんな…」
忘れないでくれとは、言わない。たまに思い出すだけでいい。
「さよなら、母さん」
そう言って微笑み、走ってその場を後にした。
これが、まだ幼いザック7才が出した答え。




