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枯れ葉  作者: 花染
3.精霊と女神と
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20.海に咲く花(2)

 痛い。胸が痛い。血が流れる。痛い。知らなかった。ソフィアが自分の事が好きだなんて、知らなかった。二人が幸せを願っていた。幸せってなんだろ?普通ってなんだろ?


 痛い。胸が痛い。苦しい。苦しい。


 ザックは、胸に手を当てふらつきながらディランを見た。


「ト…パー…ズ……」


 ザックは、座り込みうつ向いた。


 トパーズ。会いたかった。親友にずっと会いたかった。ソフィアとトパーズと3人で、いろんなことをしたことを思い出すザックの目に涙が流れた。


 呪われたことで、自分を嫌ったザックは、トパーズに出会った。勇気と希望に満ちたトパーズを見てザックは、眩しく感じた。


 痛い。胸が痛い。痛い。でも、傷の痛みではない。この痛みは、知っている。苦しい。


 目が霞む。痛い。胸が痛い。血が止まらない。痛い。痛い。心臓を貫かれたのだろうか、苦しい。苦しい。



「ソ…フィ…ア…」


 無償にソフィアに会いたくなった。ソフィアとトパーズと3人でまた遊びたかった。バカをしたかった。美味しい物を食べたかった。


 深く深く目を閉じた。何も見えないほど目を閉じた。


「起きて下さい!ザック!」


 聞き覚えがある声。忘れない声。好きだった声。ああ、もう死ぬんだ。ソフィアのところへ行くんだ。


 幻聴なのだろうか?気づけば胸の怪我は、治っていた。


 ソフィアに会いたい。けど、ソフィアは、死んだ。もういない。だから、あの声は、ソフィアではない。


 ソフィアに会いたい気持ちと同時に思い出したザックは、目を開けた。


 自分の大切な家族がいる。愛する妻と愛娘がいる。帰るべき場所がある。


「ワシは、もう何も失いたく無い…独りぼっちは、嫌だ…」

「ザック…」


 ザックは、ふらつきながら立ち上がった。そして、刀を向けあの声を思い出した。


 自分の怪我を治したのも自分を起こしてくれたのもきっとソフィアだろう。彼女は、死んでもなおザックを守り続け導いてくれている。


 と言うのも嘘だ。怪我が治ったのは、ルリラナだ。


 そして、あの声は、ミウだ。ソフィアは、死んでいる。そしてトパーズも死んでいる。


 でも、今のザックには、そんなことを考える余裕もなかった。


「どうして、俺じゃあ無いんだよ。ジュラン。俺は、お前を忘れたこと一度もない。大きくなっても見違えなかった…っ!ジュラン。ジュランジュランジュランジュランジュランジュランジュランジュランジュランジュランジュランジュランジュランジュランジュランジュランジュランジュラン」


 ディランの瞳も髪も黒く染まり黒い霧のようなものが彼を包む。


「お父さん…」


 目の前で、自分の名前を何度も言う。苦しそうに悲しそうに、何度も、何度も。知らない人ではない。遠い僅かな記憶に残る親の顔。トバーズとソフィアの顔。


「ミウ。いくぞ」

「でもっ!」

「俺たちがいたら邪魔になるだろ。それにザックに頼まれただろ?」


 ビオラの呪印を解くためにイフティナに会うこと。イフティナに精霊の剣のありかを聞くことそれから


「解りました…


 ザック。お父さんを苦しみから解放してあげてね」


 そう言って、ミウたちは、走ってその場を後にした。


「ッチ…逃げたか」

「トパーズっ!」 


 ザックは、走ってディランに向け刀を降り下ろした。しかし、ディランは、交わし脇腹に向け剣を振ったがなんとかザックは、交わした。


「ザック。俺は、お前の憧れだった。強くて優しく誰にも仲良くなれるお前が羨ましいかった。羨ましいかったんだよっ!」


 ディランは、剣を降るのをやめず攻撃を続けた。交わすのに必死なザックは、ディランの目を見た。


「俺は、ずっとお前の背中を追うことしか出来なかった。ソフィアを守る事さえも出来なかった。


 俺は、お前のように生きたかった。お前のようになりたかった」


 そうだ。そうだった。思い出した。影の呪いのせいで、忘れていた。ディランは、動きを止めザックを見た。


「でも…俺は、俺で…お前は、お前だ。俺は、お前になれない。それに俺は、とっくに死んでいる。


 本当の俺は…トパーズ・プライは、この世に存在していない。あの日、あの時、ソフィアとお前の影と一緒に死んだ。こうして、屍として存在しているのは、お前の影の呪いで、生かされているんだ」


 死んでいる。ソフィアと一緒に死んだ。もう大切な愛娘ジュランを愛することも抱き締めることも出来なかった。大きくなった娘を見ることもなかった。死んだ。もう存在していない。ザックへの憎しみも恨みも妬みも全部影の呪いのせいだ。


 ディランは、涙を拭き微笑んだ。


「俺を殺してくれ…ザック・フォルス。月読みのザック」


 殺せるのは、ザックしかいない。これは、嘘ではない。しかし、これは、願いでもある。しかし、ザックは、首を振り涙を流した。


「殺せるかよ!お前を殺せるか!


 お前とソフィアは、初めての友達なんよ。独りぼっちのワシを救ってくれた親友なんよ。じゃからお前らが居るからワシがワシらしく居られたんじゃ」


 これは、本音だ。嘘を付くのが苦手になったザックは、ディランに本音を言った。


 寂しかった。苦しかった。辛かった。でも、生きるしかなかった。二人から貰った命で、生きるしかなかった。


「ザック…っう…っ!」

「トパーズ…っ!」


 ディランは、頭を抱えてふらついた。頭が痛い。痛い。自分が自分で無くなりそうで苦しい。


「っ痛…!」


 明らかに様子が可笑しい。ザックは、心配そうに近づくとディランは、剣を振りザックを睨み付けた。


「…忘れたのか?俺…トパーズは、死んだんだぞ?」


 目付きが違う。明らかにさっきとは、違う雰囲気で、ザックを見る。トパーズではない。しかし、この目もこの感じも知らない訳ではない。


「…ワシのせいじゃったんじゃな。ワシがトパーズを苦しめたんじゃな」


 ディランの中にわずかに残っていたトパーズの心は、ついに影の呪いに侵食され、消えてしまった。目の前にいるのは、トパーズであってトパーズではない。


 ザックの影。もう一人の自分。捨てた筈の自分。それが、トパーズを食い尽くしたのだ。


「トパーズ…今、助けてやる。ワシが、助けてやるっ!」


 そう言って、走ってディランに攻撃をした。 

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