7.死の女神(1)
家に帰ったラルクたちは、トラードを部屋に寝かしラルクは、ふと考えた。トラードの母親をメデューサにした女神のことを考えた。
「ラルくんは、トラくんのお母さんをメデューサにした女神が誰か考えているんだよね?」
突然話しかけられたラルクは、驚き隣を見るとビオラが立っていた。いつから居たのかは、解らない。ビオラは、目を閉じ
「もう、隠しきれないよね…ラルくん、これからあたしたちがしないとダメなことを言うから…あたしがしてきたことを言うから…みんなの所へ行こ?」
ビオラがしてきたこと。前に話した不幸を消す旅とは、違う話なのだろうか?ラルクは、少しだけ考えみんながいるリビングへと向かった。
「みんな、ビオラが話があるらしい 」
「話し?」
皆は、ビオラを見て首をかしげた。
「遠い昔、遥か昔に二人の女神がいました」
ビオラは、目を閉じあの少年と同じように語り始めた。
「一人の女神の名は、救いの女神アスト。もう一人の女神の名は、希望の女神エルメ。希望の女神エメルは、多くの命を愛し勇気を与えた。だけどね、多くの命を知っているから多くの生死を見続けて、多くの涙を流したの。だからエメルは、女神である体を捨てて、人になろうとした。でも、人にはなれなかった。エメルは、不死鳥フェニックスになった。女神の力を持っていたと言うことで、人間になることを世界は、許さなかったの。エメルは、悲しんで、悲しんで、自分の運命を恨んだの」
人になれなかった女神。不死鳥になった彼女は、どれだけ世界を恨んだのだろ?ルリラナは、少しだけ女神が可愛そうだと思った。
「その憎しみ、恨み、悲しみから捨てた女神の体に負の心が宿って一人の女神を作り上げた。その名前は…――」
「“死の女神ヘル”」
ラルクは、吐き気がした。知っているようで、知らない。知らないようで知っている名前。死の女神の存在は、ラルクは知らない。でも、何故かその名前が頭に浮かんだ。
ビオラは、目をそらし少しだけ考えた。
「そう、死の女神ヘル。ラルくんは、いろんなこと知っているんだね」
「…知っているって言うか…なんか思い出したって感じだ。きっと誰かに聞いたか、本で見たかのどれかだ」
「そうなんだ」
ビオラは、椅子に座り天井を見て、話の続きを言い始めた。
「ヘルは、あらゆる不幸と最悪を撒き散らした。このままだと世界は、滅ぶって思ったアストは、人であり精霊である勇気の精霊バルキニーが必要だったの。バルキニーを見付けるため、精霊を使って、素質がある人間を探した。
あたしは、たまたま偶然に素質があった。全て話を聞いたあたしは、精霊から与えられた力を自分の力にするためにいくつかの試練を乗り越えて精霊バルキニーになろうとしたの。それに気が付いたヘルは、それを許さなかった。あたしに関わる全ての人を不幸にされたの」
不幸になった人々。それは、父親、親友、恋人、そして
「あたしに関わったエントもザルクルフもマリカもセレナーデも皆、皆…不幸になった。あたしに関わったせいで…苦しめた…
だけど、それでもあたしは、アストの願いを叶えようとしたの。あたしは、目を閉じて目をそらして、知らないふりして、叶えようとした。
バルキニーになることで、ヘルを倒すことがあたしの使命だったから」
二回目になる話し。でも、何も隠すことは、無い。隠しきれないことぐらい解っている。言えないって言うのは、言い訳。自分を守る言い訳。
「アストって言う女神がヘルって言う女神を殺せば良かったじゃないん?」
ザックは、ビオラに質問をした。ビオラは、首をふって
「救いの女神であるアストは、どんな理由でも他者を殺める事は、出来ないの。例え人間だろうが精霊だろうが女神だろうが関係なしに殺すことは、出来ないの」
殺すことが出来ない女神。追放が出来ない女神。アークルに頼ることが出来ない女神。善の心をもった優しく健気な女神。
「バルキニーになったあたしは、間違いをしたの。ヘルに利用されたの。それを気付かずにあたしは、ヘルの胸に剣をし刺してた」
刺してやっと解った。刺してやっと気が付いた。やっと、やっと知った。
「あたしが殺したが“救いの女神アスト”だと…」
アストが死んだその時世界は、滅びへと向かっていった。話の辻褄があって、やっと解った。やっと知った。ビオラ・ハビナがやってきたこれまでの話し。ビオラの犯した罪。
「ビオラ…」
全てを知ったラルクは、言葉が出なかった。けして、ビオラのせいではないと言えなかった。ビオラを励ます言葉もビオラを恨む言葉も言えなかったラルクは、何も言えなかった。
しかしビオラは、微笑みラルクを見た。
「ザルクルフはね、世界を守るために救うために自ら死を選んだの。欠片となって世界を守ろうとしたの。あたしのせいで、彼は、死んでしまった」
ザルクルフを殺した。と言うのは、そう言うことだとやっとこ解ったザックは、ビオラの頭を撫でた。
「ザックくん。あたしの願いは“あたしかに関わった全ての人を救う”だよ。ここにいる皆、一度は、あたしに会っているんだよ。ラルくんにも、ルリちゃんにも、ミウちゃんにも、トラくんにも…」
“でも、記憶を消されているけどね”そう言って、ビオラは、微笑んだ。
救いの女神を殺したビオラは、どう思ったのだろ?そして、新たに生まれる救いの女神は、何を感じるのだろ?
「ビオラさん…」
やっとトラードは、話を少しだけ聞いたのかビオラを見た。何を言われても構わないっと思っていたがビオラは、目をそらした。
トラードは、少しだけ考え優しく包むように抱き締めた。
「僕は、もう大丈夫ですから…貴女を恨むことも、憎むこともしません…」
そう言って涙を流した。本当は、悲しいのに死ぬほど、死にたいほど辛いのにトラードは、ビオラを安心されるように優しい言葉を言った。
「何故なら貴女は、僕に母さんの思い出をこうして、返してくれたから」
そう言って眼帯を外した。
紺色になったその目は、まだなれていないのか見えては、いない。しかし、確かにメデューサの瞳は、そこにあった。そこから流れる優しい記憶。母親の記憶がその目に写しトラードの思い出となっていく。
後悔は、していないと言ったら嘘になる。でも、恨んでいるわけではない。憎んでいる訳でもない。
「あたし、なにもしていないよ」
「いいえ。貴女は、母さんの願いを叶えてくれました。母さんの思いを教えてくれました。この瞳と一緒に思い出を返してくれました。そして、僕に家族をくれました」
そう言ってトラードは、ラルクを見つめた。
「僕は、貴女のお陰で、ラルクさんに出会いました。ルリラナさんにも、ミウさんにも、ザックさんに貴女にも出会いました。
貴女に関わらなかったら此処にいる皆に出会わなかったんですよ?だから、恨んだりしません。むしろ感謝すべきですね」
そう言って“ありがとう”っと言い微笑んだ。
それを聞いたビオラの目から涙が流れた。
「ごめん…ごめんなさい」
そう言ってその場をあとにした。




