第25話 道三への進言
翌日、雲八は道三のもとへ上がった。
報告を終えた後、道三は珍しく縁側ではなく、城の奥の部屋に雲八を通した。人払いをした。廊下に人の気配が消えるのを待ってから、道三は口を開いた。
「雲八、聞きたいことがある」
「はい」
「わしの今後を、お前はどう見ておる」
直球だった。道三らしい。
(正直に言うべきだ。この人は建前を嫌う)
「……難しい状況にあると思います」雲八は言った。「義龍様を中心とした動きが、止めにくい段階に入っています。重臣の半数以上が義龍様に傾いているとすれば、単純な力の勝負では道三様に分がない」
道三は何も言わなかった。雲八を見ていた。
「なのに動かない理由が、私には想像できます。義龍様が相手だから、ですね」
「……そうじゃ」
道三の声は静かだった。いつもの張りがなかった。
「儂はな、義龍があれほど儂を憎むとは思わなかった。いや、分かっていたが、見たくなかったのかもしれん」
(この人が、弱音を言っている)
雲八は慎重に言葉を選んだ。
「道三様、ひとつお願いがあります」
「申せ」
「義龍様と、最後に一度だけ、二人で話す機会を作っていただけませんか。戦の前に」
「何を話す」
「それは義龍様と道三様の間の話です。私には分かりません。でも——話さないまま終わるより、話した後で終わる方が、どちらにとっても良いと思います。言いたかったことが言えないまま終わることが、一番残ることだと……俺はそう思っています」
道三はしばらく黙っていた。視線が遠くを向いている。何かを見ているような、あるいは何も見ていないような目だった。
「……考えてみる」
雲八は頭を下げ、部屋を出た。廊下に出ると、城の外から風が吹いてきた。長良川の方角から来る風だった。
(道三様……あなたが決める。俺には決められない)
雲八は歩き出した。足取りは重かったが、歩みは止めなかった。
(続く)




