第16話 義龍との対話
斎藤義龍は、難しい人物だった。
二十二歳になった彼は、父・道三とは別の力を持ち始めていた。背が高く、体格に優れ、武将としての器は本物だ。周囲の若い家臣たちが彼を慕い始めていた。
(義龍様を中心にした派閥ができている。これが後の長良川への伏線だ)
雲八は義龍に、単独で面会を申し込んだ。
「弓衆の大将が、わしに何の用だ」
義龍の目は冷静だった。道三のような「値踏み」の眼光とは違う。どちらかというと、最初から答えを出している目だ。
「弓の技について聞いていただきたい話がありまして」
「弓か」
「はい。義龍様が弓に優れておられると伺いました。私の射法と比べてみたい」
義龍はしばらく雲八を見た。それから「来い」と言った。
稽古場で二人は矢を射った。
義龍の弓は力強かった。引きが強く、矢の勢いがある。的中率も高い。
「……どうだ」と義龍が聞いた。
「素晴らしいと思います。特に引きの力は、私より上です」
「ならお前の方が劣るということか」
「引きの力は、そうかもしれません。ただ——飛距離はこちらが出ます」
雲八は構えた。百歩先の的——義龍が示した、通常では届かない距離の的——を目で定め、放った。
矢は的に当たった。
義龍は黙っていた。しばらく的を見ていた。
「……なるほど」
「力が足りない分を、技術で補っています。どちらが優れているかではなく、どちらが今の目的に合っているかです」
義龍はゆっくりと頷いた。「お前の考え方は、道三に似ているな」
(それを言う?)
「親子ですから、影響はあるかと」
義龍の顔が少し揺れた。「……道三の子か否か」
雲八は静かに言った。「義龍様、私にはそれを判断する立場はありません。ただ——私の目には、あなたは立派な武将に見えます。それだけは確かです」
義龍はしばらく雲八を見つめた。それから短く「そうか」と言い、的の方を向いた。
何かが少し、解けた気がした。
(変えられないかもしれない。でも、少しだけ、何かが伝わったかもしれない)
雲八は静かに弓を下げた。
(続く)




