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百歩穿貫(せんかん)の再誕  作者: みぎみみ


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15/21

第15話 命名の夜に

 その夜、野営地の端で雲八(光義)は一人、空を見上げていた。


 (大島雲八……俺がずっと好きだった名前だ)


 前世で何度も読んだ歴史書に書かれていた名前。岐阜県関市の武将。九十三歳まで現役で弓を引いた伝説の人物。その名前が、今夜、正式に自分のものになった。


 (なんか、こそばゆいな)


 感慨とか感動とかいうより、照れくさかった。ずっと他人として憧れていた名前を、今の自分が名乗っている。


 才蔵が隣に来た。


 「光義——いや、雲八か。おめでとう」

 「ありがとうございます、才蔵兄上」

 「なんで急に敬語なんだ」才蔵は苦笑した。「まあいい。弓衆の大将か。父上も喜ぶだろう」


 (重長の父上……どんな顔をするだろう)


 「兄上は怖くなかったですか。初陣は」


 才蔵は少し考えた。「怖かった。足が震えた。でも槍を持つと手が覚えてるんだな、体が。不思議なもんだ」

 「私も同じでした。弓を持つと、手が動いていた」

 「そういうもんだろうな」才蔵は杯を差し出した。「一杯やろう」

 「ありがとうございます」



 二人で飲んだ。


 (才蔵兄上は、史書には名前が出てこない。ということは……この先、あまり長くない可能性もある)


 考えたくなかった。でも、考えずにはいられなかった。


 「才蔵兄上」

 「ん?」

 「あなたのことが、好きです。兄として」


 才蔵は目を丸くした。それから照れたように頭を掻いた。「急にどうした。酒のせいか」

 「いいえ。ただ、言っておきたかっただけです」


 才蔵は少しの間、空を見上げた。それから短く言った。「俺もだ」



 翌朝、道三に呼ばれた。


 「昨夜はよく眠れたか」

 「はい。おかげさまで」

 「そうか。……雲八」


 初めて、道三がその名で呼んだ。


 「はい」

 「お前に頼みたいことがある」

 「なんなりと」


 道三は少し間を置いた。珍しく、言葉を探している顔だった。


 「義龍と、話してくれ。儂ではなく、お前が。あいつは儂の言葉には耳を貸さんが……まあ、試してみてくれ」


 (道三様が、俺に頼んでいる)


 光義は——いや、雲八は頷いた。


 「承知しました」


 結果がどうなるかは分からない。でも道三が頼んだ。それだけで、やる理由は十分だった。




(続く)

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