第11話 義龍という息子
斎藤義龍と初めて顔を合わせたのは、光義が二十八歳のときだった。
道三の嫡男。当時二十二歳。身長六尺(約百八十センチ)を超える大柄な青年だった。
(でかい。この時代の人間にしては、桁外れに大きい体だ)
軍議の席で紹介された。義龍は光義を一瞥し、「弓衆の者か」と短く言った。道三への敬意は感じられなかった。父への複雑な感情が、その短い言葉に滲んでいた。
(史書では、義龍は「道三の実子ではないかもしれない」という噂に苦しんだとある。この目の奥の暗さは、そこから来てるのかもしれない)
光義は内心で同情した。自分の生い立ちに疑問を持ちながら育った人間の苦しさは、想像するだけでも辛い。
その後も何度か顔を合わせた。義龍は常に礼儀正しく、しかし冷たかった。道三と話すとき、言葉の端に棘が混じった。道三はそれを笑いで受け流していたが、光義には道三の表情が微かに揺れるのが見えた。
(父と息子か……難しいな)
康介には子供がいない。だから父親の側の気持ちを想像するしかないが、自分が育てた子供に憎まれるのは、どれほどつらいことだろう。
ある夜、道三に呼ばれた。
「義龍をどう見る」
唐突な質問だった。
(正直に言っていいのか……でも道三様に嘘をついても意味がない)
「器の大きな方だと思います。ただ——抱えているものが、重すぎる気がします」
「抱えているもの、とは」
「自分の立場への疑問です。それが外に向かうと、怒りになる」
道三はしばらく黙っていた。
「……そうじゃな」
静かな、どこか疲れた声だった。
光義はここで、止めようか迷った。次の言葉は言うべきかどうか。
(言った方がいい。言わないと後悔する)
「道三様——義龍様と、一度、ゆっくり話す機会を作れませんか」
道三は光義を見た。
「それだけで、何かが変わると思うか」
「変わらないかもしれません。でも、変わるかもしれません」
「……考えてみる」
(でも、たぶん、うまくいかない。史実は変えられないから)
光義の胸の中に、苦い予感があった。
(続く)




