95 緑の魔力
みんなとは、明日の朝食後に王宮の書庫の前で集合することにした。
アリスと殿下は夕食を共にした後、夜の庭園でデートをするらしい。
──こそっと後をつけようかと考えていたが、ゼロから大人しく寝ておけと念を押されてしまった。
口に出してないのになぜ分かったのだろうか。
グレンとリオはこの後ゼロとの訓練の予定なのだそうだ。
「では、そろそろお暇しますわ。
フィーネ、ちゃんと休むんですのよ?」
「机にあったこの書類はこっちで処理しておく。
まったく、こういうものをやってるからちゃんと休めないんだ。」
いつの間にか、殿下が私の机の上から幾つかの書類の束を持ってきており、呆れたようにそう言った。
「フィーネ様。きちんと休まないなら、影に監視させますよ?」
とリオは恐ろしいことを言ってくる。
「休む!休みます!」
「先生との訓練、今日はやめた方がいいんじゃないかな。先生はフィーの側にいて監視した方がよくないかい?」
「監視……。
いや大丈夫だから!ちゃんと休むから!
2人とも、ゼロに一本取れるように頑張って!」
「グレン、食事をしながら作戦会議をしましょうか。」
「そうだね。フィーに応援されたらやる気もでるなぁ。」
「ははっ!せいぜい頑張れよ〜。」
とゼロが2人を煽っている。
煽られた2人は対抗心でやる気がさらに上がったらしく、絶対一本取ってやるとボソリと呟いていた。
そして4人が部屋から出て行くと、静かになった部屋に少し寂しく思った。
(ここに戻ってこれて良かった……)
ラウール様はゼロと共にこの部屋に残っていた。
私の頭を撫でると、眼鏡の奥の濃い紫の瞳を心配そうに揺らした。
「フィーネ、疲れただろう。すこし横になれ。」
「えっと、大丈夫です。もう熱も下がったし……。」
「……明日、熱をぶり返したら一緒に行けなくなるぞ?
フィーネ抜きで探しに行くかもしれんな。」
そうニヤッと笑いながら言うラウール様に、
「うぐ……。それは嫌です。」
と私は渋々ベッドに横になった。
ラウール様は布団を肩までかけてくれ、頭を撫でる。
「良い子だ。」
「……もうそんな、子供じゃないんですけど」
「ふっ。そうか?
──不安や恐怖を抱えたまま、誰にも相談せずに自分だけで結論を出そうとするのは、まだまだ子供な証拠だ。」
私は目を見開き、ラウール様を見る。
すると、それまで黙っていたゼロが口を開いた。
「ラウール。どこまで知ってたんだ?」
「何をだ?」
「しらばっくれんなよ。
あの丘で、あいつらが何をしようとしてたのかをお前は知ってたのか?」
ピリピリとした空気が痛い。
私は手を伸ばしてゼロの黒い毛並みをふわっと撫でた。
するとゼロは深く溜息をつき、私の手のひらに自分から身体を擦り寄せた。
ラウール様はそれを見てふっと笑みを溢した。
「俺は何も知らん。
リリスとティナがあの丘に何か仕掛けを施していた事を、あいつらが死んだ後気付いたんだ。
聞こうにも本人がいなくては聞きようがないだろう?
ただフィーネが部屋から出て行った時の様子と、お前達が帰ってきた後の様子を見て、フィーネの身に何かが起きてゼフィロスが解決したんだと予想しただけだ。
それで?
あの丘で何があったんだ?」
「……フィーネがリリスに乗っ取られるところだった。」
そうゼロが吐き捨てるように言った。
私はベッドから体を起こすと、昨夜あったことを説明した。
あれは私が、突っ走らなければ起こらなかった事象だった。
「ごめんなさい。
私が、そうした方がいいって思ったの……。
それがこの世界の『最適解』だと思ったから。」
ラウール様はそれを聞くなり、グッと眉根を寄せる。
「ふざけるなよ。」
低く唸るような声でそう言ったラウール様は、唐突にゼロを掴んで放り投げた。
ソファーにクルッと着地したゼロは、文句を言いながらこちらに戻ってこようとしていた。
その時、部屋の中が緑の魔力で渦を巻いた。
普段冷静な人が怒ったら怖いですね……。
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