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『無能聖女』と言われている私が皆をハッピーエンドに導きます!〜悪役令嬢と親友になったら、天才魔術師達からの執着溺愛が止まりません〜  作者: 那月
第2部 学園編 〜欲望の種【前編】〜

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91 汚れた手

加筆修正しています。10月5日20時54分

王宮に戻り、ちゃんとお風呂で冷えた身体を温めて、食事をし、重い身体を引きずって早めにベッドに入った。


しかし次の日──。

私は見事に発熱により寝込んでしまったのだった。




♢♢♢♢♢♢♢♢♢




「やっぱ、冷えたのとリリスのせいだろうな。

クリスが医者呼んでくれるってよ。」


ゼロが猫の姿で、私の額に手を当てた。

肉球がぷにっとしていて癒される。


「うぅ……寒い。

学園行きたいよぉ……。ゼロ、治癒魔法……」


ガタガタと震えながら、ゼロに治癒魔法で治してもらおうとするが、全部言い切る前に却下されてしまった。


「ダメだとよ。

……発熱ってのは身体が自分で病気と戦って『抵抗力』を作ろうとしてる状態なんだと。

そこに治癒魔法をぶち込むと、身体の防衛機能が混乱して余計に熱が上がるか、自力の免疫がスカスカになるから多用すんなってラウールから言われてる。」


「くっ。理にかなってる。」


ゼロは、ぴょんと、首までかけている布団の上に乗り、魔力を流した。

少し浮いているのか、重みは全くない。

電気毛布のように布団の中がぽかぽかと温かくなってきた。


「はぁ……あったかい……。

ありがとう、ゼロ。

昨日みんなと変な感じに別れちゃったから、謝りたかったのに。

それに今日、懇親会なのになぁ……。

チョコ、せっかく買ったのになぁ。」


私がしょんぼりとしていると、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。

返事をするとリオが部屋に入ってきた。


「フィーネ様。体調はどうですか?」


心配そうに私の側に来たリオは、珍しく既に制服を着ていた。

ベッドの脇に座ると、少し躊躇した仕草をした後、私の頬にかかっている髪をそっと指でどけてくれた。

そして額に手を当てる。


「熱、高いですね。アリス達も学園終わりにお見舞いに来たいそうなんですが、やめておきましょうか。」


「ううん。みんなと会いたい。

それまでちゃんと大人しくして治しておくから。」


リオは笑みを深くすると、クスッと笑い


「分かりました。伝えておきますね。」


と言いながら、私の頬をすりすりと指で撫でた。

身体が温まってきたせいか、頭がふわふわとしてきた。

眠気が襲ってくる。

私は頬を撫でるリオの指をきゅっと握ると、ウトウトと目を瞑る。


「熱、下がったら、また髪やってね。

わたし、リオに髪をいじられるの、すきなの。

やさしい、て──」


リオが驚いている気配がしたが、眠気に抗えずそのまま夢の中に沈んでいったのだった。




♢♢♢♢♢♢♢♢




sideリオ


「だってよ。」


揶揄いの空気を出しながらそう言う師匠を


「うるさいですよ。」


と一蹴し、眠ってしまった彼女を見て愛おしさが溢れる。

そして、彼女に握られたままの手がじんわりと暖かくなってきたのを感じ、私は罪悪感でいっぱいになった。


今日も早朝から仕事をしてきた。

血で汚れてしまった身体を洗い流し着替えて来たものの、手にも身体にも血の匂いが残っている気がして、フィーネ様に触れるのを躊躇ったのだ。

触れると彼女を汚してしまうような気もした。


この手は汚れきっている。

何の躊躇いもなく、多くの人間も魔獣もこの手で殺した。


この暖かさに、救われてはいけない気がした。


ぼーっとフィーネ様に握られている手を見ていると、師匠が私の肩に乗って頬をペチペチと叩いた。


「師匠、うざいんですが。」


「……情けねぇ顔しやがって。

お前の手は汚れてなんかいねぇよ。

もしそうなら俺がこいつに触らせてねぇ。」


私は驚きで目を見開いた。


師匠は溜息をつき肩から降りると、私に目線を合わせるように浮き上がった。


「お前が今まで何人殺したかなんて知らねぇけど、その殺しは快楽の為じゃねぇだろ。

その罪も業も、お前はちゃんと背負ってここにいる。

だから俺も、フィーネも、アリス達もリオを大事な仲間として受け入れてんだ。

なんなら、その命令を下すクリスもお前と同罪だからな。

それとも、お前は自分の主人も汚れてるって言うのか?

──お前がこれから何人殺して、その手を何回血で染めても、俺らは誰もその手を離すことはねぇよ。」


その言葉に私は、不覚にもじわっと目に涙が滲む。

フィーネ様に握られている手に少しだけ力を入れた。


「フィーネ様と師匠は、ずるいですね。」


「なんだよ、藪から棒に。」


「そんな事を言ってくれる人は、今までいなかったんです。

何で、いつも分かるんですか?

私の不安をなぜ、いつもすぐ気付くんです?」


「さぁなぁ。フィーネはそういうのに敏感なのかもな。

俺は──知ってるからだ。その感情を。

数なんて数えられないくらい俺も殺して来たからな。

お前、俺が何年生きてると思ってんだよ。」


「……何年ですか?」


「……人に年齢を聞くのはデリカシーに欠けるぞ。

ほら、時間じゃねぇのか?

遅刻すんぞ。」


私は、ははっと笑い、心なしか顔が引き攣っているように見える師匠の頭をふわふわと撫でる。

そして、名残惜しく思いながらフィーネ様の手の中から自らの手を抜き、そっと彼女の頭を撫でた。


「ほら、さっさといってこい、阿呆弟子。

んで、終わったらアリス達と見舞いに果物でも持ってこいよ。」


そう言うと、師匠はベッドの上のフィーネ様の顔の近くで丸くなった。

どうやら二度寝をするらしい。


「ええ。──いってきます。」


師匠の尻尾が手を振るようにフリフリと揺れた。

そんな可愛い仕草に、フィーネ様がノックアウトするのも分かる気がするとクスッと笑うとベッドから立ち上がった。

心のしこりがとれ、不思議と身体も軽くなった気がする。


ドアから出る寸前師匠の声が聞こえた。


「ったく。うちの弟子はまずメンタルから鍛えなきゃなんねぇなぁ。」


私は、次の訓練は疲れそうだなと覚悟を決め、馬車で待っているだろう殿下のところへ急ぐのだった。






リオは自己・他者分析が得意ですが、実は一番精神的に未熟です。

理屈で理解できても心が追いつかず、負荷を溜め込みやすいし、あまり誰かに相談する事もしません。

ですので自分の根本が揺らぐと一気に潰れてしまいます。

このリオが、これから精神的に成長していく姿も見ていただけたら嬉しいです。


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