84 事実は小説よりも奇なり
お茶を飲んで一息ついた私達は、改めてロイドの話を聞くことにした。
ゼロは猫の姿に戻っており、ロイドの頭の上にいた。
何か不審な動きをしたら拘束するのだろう。
だがロイドの口角は上がっており、とても嬉しそうに見える。
(そりゃ、推しが頭の上にいるなんて嬉しいに決まってるよねぇ)
そう思いながらふふっと笑うと、ロイドは咳払いをして真面目な顔を作った。
「まず、これだけは言っとく。
さっき言ったけど、俺は魔族だけどむやみやたらに人間を傷つけたりなんかしない。
この学園に入ったのは、ランティス家の指示だったんだ。
……聖女様に近づいて、その心を奪えって命令されてる。」
ハッと息をのみ、私を見るアリスと、腕を組み顎に手を当てて難しい顔をしている殿下。
リオとグレンはジワリと魔力を漏らしロイドを睨んでいる。
「あぁ。またそれかぁ。」
苦笑いをする私に、殿下が溜息をついた。
「まずはその手に走るのが昔からベターだからな。
私はフィーネの前も、何度か経験している。」
「まぁ、一番リスクが少ないですもんね。
でも、成功する可能性なんて低くないですか?」
「それがころっといく方も多くて、成功率は意外と高いのですわ。」
そう苦笑いで言うアリスに、私は驚いて目を丸くした。
「えぇ?そうなの?
へぇ。事実は小説よりも奇なり、かぁ。」
そう呟くと、ロイドがまっすぐ私を見ながらそう言った。
「ゼフィロス様が側にいるって事は、君達は信頼できる。
君達に協力をお願いしたい。」
『君達』と言っているが、おそらく『私』にお願いしたいんだろう。
「私がロイドに籠絡されたらいいのね。
──いいよ。」
さらっと言う私に、目を見開くロイドと、頭を抱える2人と1匹。
「フィーネ様……。
ラウールに言いつけますよ。」
「あぁ、それがいいね。
僕達の言う事は聞いてくれないだろうし。」
「リオ、ナイスアイデアだな。
今のあいつは、過保護に拍車がかかってそうだしな。」
そう言って結託する2人と1匹に、私は抗議の声をあげた。
「ちょっと!それは反則だよ!
次は本当にお説教されちゃう!」
涙目でそう言う私に、アリスが肩をポンっと叩いて援護射撃をしてくれる。
「まったく。
お兄様にお願いしなければならないなんて、情けない方々ですわね?
フィーネは何か考えがあってのことでしょう?
私も危ない事は嫌ですけれど、何でもそうやって囲い込むのは過保護過ぎますわよ。
………というより、貴方達はフィーネがロイドと接触するのを嫌がっているだけではありませんこと?」
それを聞いた2人と1匹はあさっての方向に目を逸らした。
まったく。と呆れたように言うアリスに、苦笑いをしながら殿下がロイドに問いかけた。
「ロイド。
なぜ侯爵の言うことを聞かなければいけないのか、事情を話してくれ。
その上でフィーネを貸すか判断しよう。」
「貸すって……物じゃあるまいし。
ロイドの事情って、『お姫様』──貴方の義姉のベアトリス様に関わりがあるの?」
私がそう聞くと、ロイドは眉根を寄せて溜息をついた。
「姫さん達は、俺の事どこまで調べてんの?」
「うーん。ランティス家の事は調べてる最中なの。結果は1週間後に出る予定だからまだ何も知らないよ。
けど、今日アリスからベアトリス様のことを聞いて、ピンときたから殿下に頼んで影にロイドの事だけ調べてもらったんだよね。
だから、私達が知ってるのは貴方がベアトリス様の義弟って事と、どうやら彼女の事をとても大切に思っているって事。
あと──貴方が情報屋をしていたって事くらいかな。」
ロイドは最後の言葉にピクッと反応し、不安げな表情を浮かべた。
「ロイド、ここには俺が結界を張ってる。
絶対に外に情報は漏れねぇよ。安心しろ。」
ロイドの頭を前足でポンポンと叩きながらゼロがそう言った。
「ゼフィロス様……。」
ロイドは心を落ち着かせるように大きく息を吸って吐いた。
そして私達を見回すと、覚悟を決めたように話し始めた。
ロイドのイメージはそよ風よりも、どちらかといえば突風のイメージです。
次回はロイドの『事情』です。
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