82 ロイド・ランティス
カップを片付け、身だしなみを整えていると、アリス達が研究室に入ってきた。
その後ろには、緑色の髪で薄い黄色の瞳をもった一人の男子生徒と、グレンと同じ白いローブを着たふくよかな円熟の女性が入ってくる。
(緑色の髪。彼がそうか)
私は一瞬、アリスと目配せをした。
おそらく考えていることは一緒だろう、と苦笑いをする。
アリスと小さく頷き笑った。
「いらっしゃい。好きな所に座っていいよ。先生はこちらにどうぞ。」
グレンは皆に適当に座るように声をかけ、女性にはグレンの隣に案内した。
皆が座ると、グレンが話し始める。
「さて。今日はとりあえず自己紹介と、今後の活動についてやりたい事があれば意見を出し合うくらいかな。
じゃぁ、僕から。この『古代魔術・魔族研究ゼミ』の担当教諭のグレン・アルカディアです。魔術の事なら何でも聞いてね。ではパフィス先生。」
「パフィス・ミルマンです。私は昔から魔族の研究をしているの〜。うふふ。魔族の知り合いがいたら紹介してちょうだいね〜?」
のんびりとそう言って目元に優しげな刻み皺を深くした。ウェーブがかかった紺色の髪を肩上で切り揃えており、ほんわかした雰囲気感を持つ先生だ。
そして、殿下、アリス、私、リオと軽く自己紹介をすると、最後に初めましての男子生徒が話し始めた。
「ロイド・ランティスです。
半年ほど前にランティス家に養子に入りました。
一応、リオさんと一緒の特待生枠です。
前は平民だったので、皆さんに失礼をしないように気をつけます。
よろしくお願いします。」
爽やかな風のような声だった。優しげに目元を緩ませ微笑みながら話している彼を見て、『作ってるな』と思う。
「失礼とか、そんなこと考えなくても大丈夫だよ。
殿下も、アリス達もそんな事は気にしないからね。
まぁ、今は無理でも、徐々に慣れていけばいいよ。
……そうだ!明日は懇親会でもしようか。」
そうグレンが言うと、アリスがパチンと手を叩いてそれに乗った。
「まぁ!それがいいですわ!
お菓子とお茶は任せてくださいませ!
フィーネ、帰りに買いに行きましょ。」
「うん!いいね!前言ってたチョコレートの専門店に行かない?
あ、ロイドくんは甘いもの嫌いじゃない?」
「……甘いもの、好きです。
お気遣いありがとうございます。」
すると、パフィス先生がカタリと席を立った。
「皆いい子そうで嬉しいわぁ。
ごめんなさいねぇ。
私今から人と会う約束をしているの〜。
だからこれで失礼するわね〜。
明日からは講演会が地方であるから、戻ってくるのは3日後かしら〜?
グレン先生、申し訳ないけれどその間ゼミの方はお願いするわね〜。」
「分かりました。お気をつけて。」
「皆にお土産買ってくるわね〜!」
そう言うと、パフィス先生は手を振って部屋から出て行った。
先生を見送った後、殿下がニヤリと笑いながらロイドくんに話しかけた。
「ロイド、敬語が随分と堅苦しいな。
普段からそうじゃないだろう?
これから長い付き合いになるんだ。
タメ口で構わない。」
ロイドくんは手をブンブンと降り、拒否する。
「いや、それはさすがに恐れ多いです……。」
しかし、そんなロイドくんに殿下は説得モードに入った。
「その反応、まるで昔のフィーネだな。
いや、そうしろ。
侯爵家に入ったとはいえ、前は平民だったんだ。
そんな態度だと侯爵家以下の貴族にも下に見られてしまうぞ。」
「確かに。
同学年はそんなにいませんが、2年生には選民意識の強い面倒な輩が一部いますしねぇ。」
そう言って援護射撃をするリオに、私はある人物を思い出した。
「あぁ。あの、ミルクティーさん。」
くすくすと上品に笑いながら、アリスが訂正してくれる。
「ミルクティーさんではなく、マルクス・グラナード、ですわ、フィーネ。
ミルクティーさん……ふふふっ。」
どうやら笑いのツボに入ったらしく、笑いが止まらないアリスを横目に、私も殿下の援護射撃をすることにした。
「多少のハッタリは必要だよね。
あと、私達のお友達枠に入る事で
──守りたいものが守れるようになるよ、ロイドくん。」
私はそう言って彼の目を探るように見る。
すると彼はイエロートパーズのような澄んだ黄色い瞳を見開き、私の意図を探るようにジッと見つめた。
そんな視線を返され、私はニヤリと挑戦的な笑みを浮かべた。
するとロイドくんは降参したように両手を上げ、
「……分かった。これからよろしく。
クリス殿下、アリス、リオ。……『姫さん』?」
彼はニヤッと好戦的な笑みを浮かべて私をそう呼んだ。
その瞬間、場の空気がピリッとした。
(ふぅん。流石は『攻略対象』)
グレンが表向きは和かにロイドに問いかけた。
「ロイドくん。なぜ、フィーを『姫さん』って呼ぶんだい?」
ロイドは両手を下げると、ニヤリとした笑みはそのままに答えた。
「先生がそう呼ぶように、俺も仲良くなるために渾名で呼ぼうと思って。──フィーネさんは、沢山の騎士に守られる『お姫様』みたいだって思ったんだ。駄目だった?」
それを聞いた私は、思わず笑って目を細めた。
(売られた喧嘩は買わないとね)
「あはは。へぇ。
そう、思ったんだ。
ロイドは随分と、情報の精査が苦手なのね。
まぁいいよ、そう呼んでも。
でも、私からしてみれば貴方の大切な『お姫様』こそ『お姫様』らしいと思うけどね。
ふふ。ねぇ、今度会わせてよ。
『お姫様』同士、意外と話が合うかも。」
「……絶対いやだね。悪影響だ。」
「自分の手の内で囲って離さないなんて、随分と過保護だね?
別にいいけどね。
自分で会いに行くもーん。」
にっこりと満面の笑みを浮かべる私とは反対に、ロイドはとてつもなく嫌そうに顔を顰めた。
すると、ずっと黙っていたゼロが欠伸をしながらテーブルの上にぴょんと飛び乗って、この部屋に空間遮断結界を張った。
「お前なぁ、一発殴られたからって倍で返すなよ。可哀想に。
ロイドだっけか。お前も喧嘩売る相手は考えろよ。
フィーネを敵に回したら最悪この国に住めなくなるぞ?
こいつ単体でもヤベェのに周りの『騎士』達が過保護だからなぁ。
──『姫さん』っつーのも間違っちゃいねぇか。」
そう言われて、むぅ……とゼロを抱えると目の高さを合わせて抗議した。
「ちょっと!ゼロはどっちの味方なのよ!」
「やり過ぎなんだよ。
ムカついたからってボコボコにしようとすんな。
──まぁ、俺はフィーネの絶対的な味方だけどな。」
そう言うと、私の手からすり抜け、テーブルの上をトコトコと向かい側にいるロイドのところへ歩く。
「くっ。後ろ姿が可愛い。歩幅小さい。ちょこちょこしてる。」
可愛さに撃沈している私に、ゼロはチラッと呆れたような目線をよこした。
「だから、中身を考えろって。
──ロイド、じっとしてろよ?」
「え?」
そして空中にふわりと浮き、ロイドと目線を合わせると、そのままジッと彼の瞳を覗き込んだ。
「──やっぱりな。」
ゼロはそう言うと、人型に戻ってロイドの隣に立った。
「ちょ!ゼロ!?」
流石にそれは不味いのではと慌てる。
みんなもギョッとしてゼロを見ていた。
ゼロはそんな私達を見向きもせず、ノーモーションで氷のダガーを生成すると彼の首に突きつけた。
「──お前、魔族だな。」
ゼロはビリビリとした殺気を漏らしながら、彼にそう言い放ったのだった。
2部になって新キャラ初登場です!
キャラクターの深掘りもしつつ、みんなと早く関わらせていきたいと思います!
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