80 食事
「え!?ゼロ!結界は!?」
「だって、こいつ別にいらねぇつったろ?」
「グレンが良くても私はやだよ!!ゼロの馬鹿!」
「仕方ねぇなぁ。──グレン、絶対邪魔すんじゃねぇぞ。」
ゼロがニヤッと笑いながらそう言うと、パチンと指を鳴らした。
こちらから外が見えなくなりホッとすると同時に、ゼロに抗議の声をあげた。
「もう!私だって女の子なんだから!さすがに恥ずかしいんだからね!?」
「お前、あの喧嘩の時、グレンに際どいとこまで見せてなかったか?」
「アレは、作戦だからいいの!」
「……よくわかんねぇなぁ、その線引き。
そういや、この首のチョーカー。
もう外してもいいんだぞ。フィーネの魔力は俺が抑え込んでる。」
ゼロはそう言いながらボタンを4つほど外すと髪を退けて首筋を露わにした。
「うーん。これはこのままでいいよ。御守りみたいな感じでつけとく。ゼロから初めてもらったものだし。」
私がそう言うとゼロは嬉しそうに笑い、私の首に付けている赤い石にそっと触れ、そこに口付けをした。
「お前なぁ。そうやって無意識に煽るの、やめた方がいいぜ。しかも、こんなとこで。
──ま、これを機にアイツにも分かっといてもらわねぇとなぁ。
フィーネが誰を選んでも俺はもう手放す気がないって事を。」
「え?何いって……──っ!」
ゼロがいつものように首元近づき、熱い吐息が首筋にかかると一瞬の痛みと共に、ゼロが先ほど言ったことなど一瞬で忘れてしまうほどの甘い痺れが身体を突き抜けた。
ふるっと身体が震える。
ゼロは私の後頭部を手で押さえ、背中に回した腕でいつもよりもきつく私を抱きしめていた。
頭にあった手が、首の後ろへとつぅっと移動した後、スリッと撫でた。
「──ふぁ」
我慢していた声が少し漏れる。
ゼロは満足したのか、首筋に治癒魔法を流しながら私を下ろすと崩れ落ちそうな私を抱え、いつものようにソファーに座った。
パチンと指を鳴らし、結界を解く。
すると、背後にグレンの気配が近づいてきたのが分かった。
「おーい、グレン、お茶。」
「先生、『食事』って──。」
「それ、聞くのは今じゃねぇだろ。空気読めよ。」
ピリピリとしている空気を疑問に思い、息も絶え絶えにゼロを見る。
目が合うとゼロは、少し目を見開いた。
そして嬉しそうに、それでいて少し困ったように笑いながら、私の顔を自分の胸へ押し付ける。
「蕩けた顔しやがって。その顔は、見せたくねぇ。」
その言葉を聞いたのを最後に、私はうとうとと微睡の中に沈んでいった。
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sideゼロ
「あ、寝ちまった。起こすの一苦労だな、こりゃ。」
すぅすぅと気持ちよさそうに腕の中で寝入るフィーネの頬を撫でると、その愛おしさにふっと笑みが溢れる。
「──先生。もう聞いてもいいかい?」
グレンがピリついた魔力をそのままに、真っ直ぐ俺を見ていた。
先ほどはった結界は、中から外は見えないが、逆からは見えるようになっていた。
フィーネは知らないだろうが、グレンは全部見聞きしていたのだ。
「あぁ。いいぜ。」
「先生は、フィーの血を吸うのが『食事』なんだね?
それは、例の『契約』をしたからかい?」
その質問には、ただそれだけであって欲しいという願いが込められていた。
それに気づいた俺は、その希望を叩き潰す。
「半分正解で半分不正解だ。
確かに俺は『契約』をしたからこいつの血を吸ってる。
それが俺の栄養源であり快楽でもあるからな。
けど、契約上仕方なく、じゃねぇ。
俺自身がそうしたいからだ。
──フィーネはこれから誰かを選ぶだろう。
それはお前かもしれねぇし、リオかもしれねぇ。
もしかするとラウールや、俺かもな。
だが俺はこいつが誰を選んでも構わない。
俺は、誰が選ばれても隣に居続ける。
こいつが死ぬまでずっと。こうやってな。」
そこまで言うと、フィーネの顔にかかっていた髪をそっと退けてやる。
そして、グレンに視線を戻した。
グレンは俺をその深銀の瞳で射抜いていた。
ビリビリと刺すような鋭いその眼光に、普通の人間なら恐怖を覚えるだろう。
だが、残念ながら俺は魔族だ。
思わずふっと笑みをこぼすと、眼光が鋭くなり誤解させてしまったかと肩をすくめた。
「馬鹿にしたわけじゃねぇよ。人間としてその殺気は上々だ。ひと睨みで隙を作れるからな。」
「──先生には効いてないじゃないか。」
拗ねたように言う可愛い弟子に、ははっと笑ってしまう。
「お前なぁ、俺を誰だと思ってんだよ。
そもそも弟子に睨まれて隙ができるようじゃ『先生』じゃねぇだろ。」
はぁ……と深い溜息をついたグレンは、
「お茶、いるんでしょ?淹れてくるよ。
その間にフィーを起こして。
アリス達が来る前に着替えないとだろう?」
「リオよりもお前は、大人だなぁ。
あいつは俺をぶん投げやがったぞ。
……納得したのか?」
お茶を淹れに行くグレンにそう言うと、ものすごく不機嫌な声で反論してきた。
「は?するわけないでしょ。
──フィーはまだ誰も選んでない。
だからこれ以上の話は不毛だと思っただけだよ。」
そう言うとグレンは今度こそ、その場を立ち去った。
「ははっ。可愛い弟子だな。」
腕の中にいる無防備なお姫様の頬を撫で、そのまま赤く熟れた唇に指を這わせる。
(誰を選んでも、か)
先ほどはああ言ったものの、心の中にあるもう一つの感情に自嘲する。
そして、俺はこの寝起きの悪いお姫様を起こすためにどうするかを思案するのだった。
グレンは普段は大人ですが、やはりゼロといる時は子供っぽく見えてしまうのが、可愛いです。
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