78 オリエンテーション
今日は、午前中に合同講義のオリエンテーションと、午後からゼミの顔合わせがある。
今は絶賛オリエンテーション中だ。
先生達が入れ替わり立ち替わり、講義の説明を行なっている。
国内から多くの優秀な生徒を集めているこの学園は、優秀であれば貴族だけでなく平民も同じ教室で、貴族と同じ高いレベルの内容を学ぶことができる。
階級制のため、平民と貴族の隔たりがないとはいえないが、柔軟な考え方をする殿下とアリスのおかげか、この世代はそこまで選民意識は強くないように思う。
私達は、広い講堂で4人と1匹で後ろの端の席を陣取っていた。
前の席だと、他の生徒が私達に意識を持っていかれ気が散ってしまうし、リオ曰くこの辺りの席が一番守りやすいのだそうだ。
「ふふふ。戦術理論、楽しみだなぁ。」
私が小声でそう言うと、アリスの隣に座る殿下が、ニヤッとしながらこう返した。
「フィーネは、社交をどうにかしないといけないんじゃないのか?」
「うぅ……考えないようにしてたのに。」
頭を抱える私に、優しいアリスが私の肩をポンと叩き、
「大丈夫ですわ!私がみっちり教えて差し上げます。」
といい笑顔で地獄の宣告をする。
「わぁ、その笑顔ラウール様にそっくり。」
「お兄様のあの腹黒い笑顔に似ているなんて心外ですわ。」
「アリス、ラウールが悲しみますよ。」
リオがふわっとした笑みを浮かべてアリスに言った。
「お前ら。先生の話は真面目に聞けよ……。」
ふりふりと尻尾を揺らしながら私達に注意をするゼロは、私の前で、寛いでいる。
(可愛い……!触りたい!でも怒ってる手前触りにくいっ!)
私がそう葛藤してるのを知ってか、ゼロが可愛い仕草で私を誘惑してくる。
「くっ、この意地悪使い魔め……。」
そうぼやくと、ニヤッと笑いながら尻尾を揺らす。
最高学府の合同講義は、基本1年生のみで行われるのだが、1・2年生合同で行われることもある。
講義の内容は『魔術・戦術理論』、『薬学』、『経済』、『海外語学』、『社交・政治学』の5つだ。
その中から3つの講義を選び2年間を通して学びを深めるのだ。
私とアリス、殿下、リオは事前に相談して、みんなで『魔術・戦術理論』、『薬学』、『社交・政治学』を選択することにしていた。
各講義では2年生と共に実技を行い、課題や試験をこなす必要があり、上級生とのコミュニケーションが鍵を握る。
中でも『魔術・戦術理論』と『社交・政治学』は、特に上級生との関わりが深い。
「二年生といえばベアトリス・ランティス侯爵令嬢達がいるな。」
溜息をつきながら苦い顔でそう言う殿下に首を傾げる。
「どんな方です?」
するとアリスが少し悩みながら言った。
「一言で言うと、ザ・かませ悪役令嬢ですわね。」
「なるほど。」
「お前らなんでそれで通じんだよ。意味わかんねぇんだけど。」
そうゼロに言われ、殿下とリオを見ると訝しげに首を捻っていた。
私とアリスは顔を見合わせると、ふふっと笑い合った。
「……ですが、ここ半年程前随分と様子が変わったようですわ。なにか、憑き物が落ちたかのように学業も、淑女教育も頑張っておられるとのことですの。」
「……へぇ。まぁ、人間だもん、キッカケ一つで変わる事だってあるよね。」
すると、それを聞いたリオが少し意地の悪い笑みを浮かべながらこちらを覗き込み、ここぞとばかりにツッコんできた。シャラ……とタッセルピアスが揺れる。
「フィーネ様のように、ですか?」
「リオ、私のことを引き合いに出すのはやめよう?
むしろその件は忘れよう!?」
リオは私の頭を撫でながらクスクスと笑った。
オリエンテーションが終わり、昼食を食べに食堂へ移動した。
「わぁ!広いね!」
食堂はビュッフェ形式になっており、中心に何十種類もの料理が並べられている。奥の方ではライブキッチン形式で何人ものシェフが料理を提供していた。
外へと繋がるテラスには、席が設けられているようで天気の良い日はそこで食べると気持ちがよさそうだ。
(ゼロも『食事』してもらわないと。
流石に丸一日飲まないのはつらいよね……。
早めにグレンの所に行って場所、借りようかな。)
そう思い、チラリとリオの肩に乗っているゼロを見た。
尻尾がご機嫌に揺れており、何かリオと楽しそうに話していた。
(むぅ……仲良しなのは嬉しいはずなのに、なんか……なんだろう。モヤモヤする?)
今日のゼロは様子がおかしい。
ちょっと浮かれ過ぎではないだろうか。
どんな嬉しい事があったのだろう。
(嬉しそうで、良かったって思うんだけど。
でも……、なんだか『私』を『見てない』気がするのはなんでだろう)
心の中に不安が込み上げてきて、思わず制服の胸元の布地を強く握りしめた。
「フィーネ?」
アリスから声をかけられハッとする。
心配そうに私を見るアリスに、私はその不安を心の奥底に押しやると、笑って答えた。
「ごめん、全部美味しそうで何食べようかなって考えてた!
流石は王立だよね。席とって早く食べよ!」
「えぇ。あちらの席にしましょ。殿下、リオ、行きますわよ!」
アリスが殿下達を呼び、席を確保すると各々料理を取りに行く。
私の肩に飛び移ってきたゼロにホッとする。
「ゼロ、食べ終わったら早めにグレンの所に行こ。
ゼロも『食事』したほうがいいでしょ?」
こそっとそう言うと、ゼロはくっくっと笑いながら言った。
「怒ってたんじゃねぇの?」
「……うん。でももう、いいの。」
よく分からない不安に頭も心も占拠され、朝の事なんて気にもならなくなっていた。
「フィーネ?」
よっぽど情けない顔をしていたんだろう。ゼロが私の頬に擦り寄り名前を呼んだ。
名前を呼ばれたことで、少しだけ不安が薄れた気がする。
「なんでもない。
ごはん、何にしようかな。
全部美味しそうで迷っちゃう。」
「……あんま欲張んなよ。」
「ふふ。子供じゃないんだからそんなことしないよ。」
ハンバーグをメインに、果物と野菜、パンを取る。
テラスに近い席にアリス達がもう座っている。
どうやら私が一番最後だったようだ。
「悩みすぎなんだよ。フィーネ待ちじゃねぇか。」
「うう。だって全部美味しそうだったんだもん。」
そう言いながら、アリス達の所へ戻ろうとした瞬間、
「聖女様。」
と声をかけられた。
学園生活が始まります!
色々と書きたい事があり過ぎて作者も楽しみです!
「続きがよみたい!」「面白い!」と思って頂けたらページ下部の【★★★★★】で評価と、ブックマークをしていただけると、執筆の大きな力になります……!




