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『無能聖女』と言われている私が皆をハッピーエンドに導きます!〜悪役令嬢と親友になったら、天才魔術師達からの執着溺愛が止まりません〜  作者: 那月
第2部 学園編 〜欲望の種【前編】〜

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75 後悔

side:ゼロ


しばらく無言で飲んでいると、ラウールが口火を切った。


「フィーネが、ゼフィロスと契約を交わしたあの日から毎晩のように夢を見た。

愛しい義妹《いもうと》と、俺と、お前と、ネロとティナ。

5人で過ごした楽しく幸せだった日々と別れ。

人間界に来てからの事。

全て観終わったのは昨日のことだ。」


そこまで言うと、ラウールはグラスをクルクルと揺らした。

氷が少し溶けてグラスに当たりカランと音がする。


「『グリム』は記憶を夢として俺に見せ、昔の記憶を蘇らせたが、俺は演劇を見ているかのような感覚だったよ。

まぁ、そこに感情まで付加していたら、人間の脳の処理能力では負荷が大き過ぎる。

だからそういう仕様にしたんだろうが。

──だからな、ゼフィロス。

俺は『グリム』として生きていた頃の記憶は思い出したが、『ラウール』としての意識の方が強いんだ。

……すまない。」


「ははっ。なんで謝るんだよ。いいんだ。

ここにお前がいる。その事実だけで充分さ。」


笑いながらそう言うと、ラウールはなぜか苦い顔をした。

そして、言葉を続ける。


「ただ、俺は二つだけ『グリム』から感情を受け取った。

一つはリリスに対する感情。

そして二つ目は……」


そこまで言うとラウールは、グラスに残っている中身を全てあおった。


「二つ目は、ゼフィロスへの心配と後悔、そして懺悔の感情。」


俺は目を見張った。

喉がキュッと閉まり、声が出しにくい。

ようやく出せた声も、僅かに震えを帯びた情けないものだった。


「なんだよ、それ。」


ラウールは、目を閉じグッとグラスに力を入れると、深呼吸をした後目を開けて俺の目を真っ直ぐに見た。


「お前が1人魔界に残ると言ったあの時。

俺はあの時、判断を間違った。

お前が何と言おうと連れて行くべきだったんだ。

それが、リリスの思惑から離れていたとしても。

死ぬ直前、お前の事だけが心配で、心残りだった。

ゼフィロス……1人にして、すまなかった。」


俺は、目を片手で覆った。

あの日の記憶が濁流となって蘇ってくる。




♢♢♢♢♢♢♢♢




──無知だった昔の、愚かな自分。


──感じたことのない恐怖と絶望。


──雨の中の慟哭と、無力感。


これが夢だったらと、何度も思った。

あの日を忘れたことなど一度もない。



リリー達と別れて百年ほど経ち、魔王の代替わりが行われた。次代の魔王は、『あいつ』に決まり、人間界への侵略が囁かれ始める。

俺は、リリー達が心配になり、人間界に潜り込むことを決めた。

だが正直それは建前で、ただ俺はアイツらに会いたかったのだ。


リリーは膨大な魔力と力を持つ。

その為、その寿命は魔族の中でも短命と言われていた。

だから、もしかしたらもうリリーはいないのかもしれないと覚悟を決めていた。

だが、あの強い魂はきっとまた生まれ変わる。

その時までアイツらと共に待てば良いかと思っていたのだ。


ある日結界の綻びから、人間界に入った俺はまずリリーの魔力を探した。

すると、リリーに似た魔力をもった人間を見つけた。リリーと同じ髪の色と瞳を持ったその人間は『聖女』と言われていた。


「この結界を維持する為の生贄か。酷なことを考えるな。

どうせティナあたりだろ。会ったら説教だな。」


初代聖女としてこの結界を作り、愛する人と結ばれたリリーは、50年も前に夫の後を追うように亡くなっていた。

だが、それは想定内だった。


だから、次はグリムの魔力を探したのだ。

ネロとティナの魔力も。


「──なんでだよ。

なんで、誰も、見つからない?」


嫌な予感がした。

そしてその予感は外れることはなかった。


『初代聖女と共にこの国に現れ、この国を繁栄へと導いた3人の賢者。

その3人と初代聖女の亡骸は、彼らの希望により王都が一望できる小高い丘の上で王家によって管理されている。』


その話を聞いた俺は、半信半疑でその場所へ向かった。

今にも雨が降りそうな、そんな天気の悪い日だった。

美しい花々が咲き誇る丘の上の墓石、そこにはアイツらの名前ではない、違う名前が彫られていた。


「はは……なんだよ。違うじゃねぇかよ。びっくりさせんなって。」


震える声で1人呟くと、大きく溜息をつく。


「……どこに、いるんだよ。グリム、ネロ、ティナ。」


そっと墓石に手を触れた、その時だった。


ジワ……と墓石の文字の下に青く光る文字が浮き出てきた。


『リリス・イヴ・アスモデウス


グリム・レイ・ルシファー


ネロ・ロワール・レヴィアタン


ティナ・オーレリ・ヴァルプルギス


愛しき友 共に ここに眠る』


目を見開きフラ……と後ろに後ずさる。

その文字を認識すると共に意味を理解してしまう。

もう会えないのだと。

声を交わすことも、できないのだと。


あの日、最後に交わした言葉を思い出した。


「またな。」


そう言って別れたのだ。

また会えると信じて疑わなかった。

なのに。


──なぜ。

──どうして。


「あ……ぁ、」


──嫌だ。


膝をつき頭を抱える。

恐怖が、絶望が襲いかかる。


「あ゛ぁぁぁ……っ!」


喉の奥が引き裂けるような不協和音が口から吐き出される。

血を吐くような悲鳴をあげ続けた。

這うようにして墓石に縋り付く。


──なぜ。

──どうして。

──どうして俺を置いていった。


雨が降り、その雨が止み、また雨が降る。

何日そこにいたのか分からない。

俺はずっとその場から動くことが出来なかった。

墓石に寄りかかり、ただ目から溢れる水を垂れ流す。

喉も焼け、もう声を出すことも出来なかった。


ある日、この場所に来て初めて陽の光を見た。

朝日がのぼり眩しく辺りを照らす。

光が周りの花々につく水滴に反射し、キラキラと輝いた。


(リリーを、探さねぇと)


あいつは必ず、生まれ変わる。

必ず、あいつを見つけだす。


墓石を支えに、震える足で大地を踏み締めた。


もし、リリーの生まれ変わりに会ったら。

もう二度とその手を離したりしない。

最後の瞬間まで共にいよう。

置いていかれるのはもうたくさんだ。


決意を胸に、後ろを振り向くことなく丘を降りた。



グリムの後悔と、ゼロの過去でした。

ゼロは一人になってからフィーネに会うまで、苦しい時間が続きます。この回を見て、フィーネ(リリス)を見つけた回をまた見て下さると深みが増すかなと思います。


「続きがよみたい!」「面白い!」と思って頂けたらページ下部の【★★★★★】で評価と、ブックマークをしていただけると、執筆の大きな力になります……!ご協力よろしくお願いします!

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