72 お説教
無事に食事会が終わり、陛下と王妃様から進学のお祝いまで頂いた私は、一度自室に戻ると寝る支度をしてから、ラウール様の執務室へ向かった。
ラウール様が、「戻ったらすぐ寝れるように支度をしてから来い」と、暗にお説教が長くなるという事を示していた。
ガックリと肩を落としながら、とぼとぼとラウール様の執務室へ向かう私は、締め付けがない白のロングワンピースを着て、肩に紺色のストールをかけていた。
ちなみにゼロは、リオと訓練をすると言って、騎士団の訓練場に行ってしまった。
(ゼロの裏切り者ぉ……)
ノックをして執務室へ入ると、ラウール様は仕事中のようだった。
机の上には大量の書類が山積みになっている。
「ソファーに座って待っておいてくれ。
すぐに終わる。」
「はぁい。」
ソファーの前のテーブルには、紅茶の用意があった。
ポットの中を開けてみると、ルイボスティーが入っていた。
(さすがはラウール様。抜かりなくカフェインレス)
ソファーのクッションを抱き、止まる事なく筆を進めるラウール様の姿をじっと見た。
(忙しそう……。
それはそうか、次期宰相だもんねぇ。
公爵様の仕事を受け継いでもう公爵家を取り仕切ってるから、そっちの執務もあるし、殿下の執務の手伝いに、宰相としての勉強もあって。
そんな中、私が仕事を増やしちゃうし。
あー。そう考えると、お説教もしたくなるよなぁ。
うん、甘んじて受け入れないとだよね。)
「……でもあまり長くならないといいなぁ」
そうボソリと呟くと、
「往生際が悪いな。」
と言葉が返ってきた。
ひぃ、とクッションをぎゅっと抱きしめる。
ラウール様はカタンとペンを置くと書類を纏めて端に寄せ、ソファーへやってきた。
私の真正面に座ると、テーブルの上のポットのまだ温かいルイボスティーを、2つのカップに入れてくれた。
「ほら、温かいうちに飲め。」
「ありがとうございます。」
カップに口をつけると、1日の緊張を解きほぐすような、木々の香りとまろやかでほのかに甘い味がした。
その優しい味にほっと、肩の力が抜ける。
「今日、学園はどうだった?」
同じようにお茶を飲んでいたラウール様が、カップを置きながら私にそう聞いた。
「えっと、思ったよりも反発がなくて驚いたといいますか。
アリスが、頑張ってくれたんですよね?
いつから、ですか?」
「元男爵が拘束された次の日から、もう動いていた。
俺の妹は美しく聡明だからな。
そして人の心を動かす天才でもある。」
嬉しそうにそう言ったラウール様は、私を眼鏡越しに見つめた。
その視線に、咎めるような色を見つけてしまいふと視線を逸らしてしまう。
「フィーネ、目を逸らすな。」
落ち着いた低い声でそう言われ、ビクッと体が跳ねる。
私は持っていたカップを置き、そっと視線をラウール様に戻した。
「フィーネ、あの演説は殿下と相談してのことか?」
「はい。ざっとどんなことを言うかはざっくりですけど予め殿下に言ってます。」
「反対は、されなかったか?」
思わず目を逸らしそうになるが、さっきのラウール様がちょっとだけ怖かったのでぐっと堪えた。
深い溜息をつかれ、肩が強張った。
「今まで、『聖女』というのは、良くも悪くも聖域だった。
誰もその闇に触れず、目を逸らしてきたんだ。
それを、目の前に突きつけて……。
一歩間違えれば、貴族達から袋叩きに遭うことになっていた。
それは分かるな?」
「はい。でも、」
「でもじゃない。
……お前の覚悟も、優しさも、その気高さも。
理解しているし、誇らしくも思う。だかな。
全てを1人で背負い込もうとするな。
せめて殿下と話した際に、俺にも話を通してくれていたら貴族への根回しも出来たんだ。
今回の事で認識や態度を改める貴族も居るだろうが、反対に反発する者貴族も出てくるだろう。」
「……そう、ですね。」
私の目から何かを読み取ったかのように、ラウール様は、眼鏡を外し目の際を指で揉んだ。
「殿下はまた説教だな。……未来を見越して反発する貴族の選別を行ったのか。」
「私の、彼女達の名誉を回復したいという気持ちは本当です。
彼女達のような犠牲の上で私達が生きているのだということを知って欲しかったのも。
ラウール様が言っているのは、副産物にすぎませんよ。」
私が困ったように笑うと、反対にラウール様は深く深く溜息をついた。
ラウール様のお説教?はまだ続きます。
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