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『無能聖女』と言われている私が皆をハッピーエンドに導きます!〜悪役令嬢と親友になったら、天才魔術師達からの執着溺愛が止まりません〜  作者: 那月
第一部 神殿編

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7 ざまぁ

応接室の扉の前。

強張る顔と震える手。

バクバクいっている心臓をなんとか宥めようと、一つ深呼吸をした。


(大丈夫、大丈夫。ここは公爵邸だ。

その時になったら大声で人を呼べばいい。)


「失礼します。」


扉を開け、成金らしくゴテゴテした宝石を沢山身に纏い、センスのかけらもない服を着てふてぶてしくソファーに座っている養父母を見た。


「座りなさい。」


まるで汚いものを見るような目で私を見て、養父はそう言った。

ソファーに座ろうとする私に、


「そこじゃないだろう?」


と言いながら視線を養父の横の床に落とす。


(そうだった)


ため息が出そうになった口をきゅっと閉じて、床に座る。


「私は殿下を必ず籠絡しろと言ったはずだ。

なぜこのような事態になっている!」


「……申し訳ありません。」


「そもそも、殿下だけでなく何故他の令息に手を出した!

これでは男漁りの頭のおかしい女に成り下がっただけではないか!」


(そうね、それが目的だったもの)


顔を真っ赤にして怒鳴る養父。

養母も蔑んだ目で私を見ていたが、鞄から一つの瓶を取り出してテーブルの上に置き、言った。


「しばらくの間、殿下は公爵邸に滞在するらしいわね。

その間にこれを使い必ず殿下とまぐわいなさい。

既成事実さえあればかまわないのだから。」


私は目を見開き、その瓶を見つめた。

無駄に華美な宝飾がされている瓶の中に液体が入っている。


(まさか……)


「これ、媚薬ですか?」


そう聞くと、こともなげに養母は言った。


「ええそうよ。

かなり値が張る代物なのだからちゃんと使って役に立ちなさい。」


震える手でテーブルの上の瓶を手に取ると、まっすぐに二人を見て言った。


「嫌です。」


「なんですって?」


「なんだと!?」


声を揃えて言う二人に、もう一度きちんと、声を出して言った。


「絶対に嫌です、と申し上げました。

クリス殿下とアリステリア様は愛し合っておられます。

その仲を引き裂くなど私には出来ません。

しません、何があっても絶対に。」


バシッ!


その瞬間、頬に熱が走り叩かれたことを悟った。

そして肩を蹴られ倒れた私の頭を男爵が踏みつける。


「うっ……。」


「調子に乗るのもいい加減にしろ!

これまで育ててきた恩を仇で返すつもりか!

お前は自分の立場が分かっていないようだな。

神殿からもし失敗すれば聖女を殺して新たな聖女を傀儡にすると言われている。

聖女はお前じゃなくてもいいんだよ。

聖女は結界を維持するだけの道具だ。

それでなくとも魔術を使えんお前などなんの役にもたたん。

ははっ!私がお前が無能だと烙印を押せば、今日にでもお前を殺しに神殿の手のものが来る。

死ぬぞ?」


そう蔑み笑いながら言う養父に、歯を食いしばりながら睨みつけた。

怒りで頭が沸騰しそうだ。


「知ってるわよ、そんな事。

それでも嫌だと言ってるの!

私はあんな熱のこもった目で見つめ合ってる相思相愛の二人の邪魔なんてしない!

私の推しカプなんだから!!!」


あまりにも腹立たしくて、つい前世の言葉が出てしまう。

そう、推しカプだ。


私が男爵に、殿下を籠絡しろと命じられて以降、殿下とアリス様を観察していた。

そして気付いてしまった。

推しカプの素晴らしさを。

そしてそこに希望を見出したのだ。


殿下はアリス様の事が好きで好きでたまらないのを表に出していくタイプなのに対し、アリス様は典型的なツンデレ。


学園で殿下を見かけるとそれはもう嬉しそうに微笑み、殿下に髪を一房持たれそこにキスをされた際は、顔を真っ赤にして逃げた。

アリス様が柱の影でキスされた髪を手に取り、口付けしていたのを目撃した時の衝撃は計り知れなかった。

守らなければ!そう決意した。


だから、計画したのだ。彼らを守りながら、自分の復讐をする為に。


「はっ?おし?」


「このっ!生意気な!!」


唖然としている風の夫人の声と激昂した男爵の声が聞こえたと思った瞬間、


パリンーー!

と何かが割れる音と、誰かが私を呼ぶ声が聞こえた。



♢♢♢♢♢♢



グレンは、応接室の片隅に『空間遮断結界』を張り、その中に、クリス、アリス、グレン、ラウールが入った。

リオはいざという時の為に影に潜んでいる。


中からは外の様子が分かり、逆に外からは背景と同化しているように見える様に改造してある為、男爵から直接証言がとれるはずだ。


(確信的な事を話してくれたら良いんだけどねぇ)


フィーネには何も言っていない。

フィーネが神殿側である可能性が万に一つでもある限りは、こちらの手の内を明かさないほうがいいとの殿下のお達しだ。


男爵達はゴテゴテと趣味の悪い宝石を沢山つけ、下品に紅茶を飲んでいる。

そこへ、フィーネが来た。


聖女を床に座らせるという暴挙に、ため息をつく殿下とラウール、そして完全にキレているアリスを宥めながら、魔石に録音録画していく。

媚薬を出してきた辺りで殿下が下衆を見る目で男爵達を見出した。


(気持ちは分かる。……不快でしかないな。)


『しません、何があっても絶対に。』


そう聞こえたと同時に、フィーネが頬を叩かれ、肩を蹴られ、頭を踏みつけられていた。


「「な…!?」」


「フィーネ!!」


クリスとラウールが目を剥き、アリスが悲鳴をあげる。

グレンもあまりの所業に動揺して一瞬結界を歪ませてしまった。

いち早く立ち直ったラウールから


「グレン、結界の維持を。」


と指示され、


「分かってるよ。」


と返す。

その間にも男爵の自白は続いている。


今にも結界から出ていきそうなアリスを後ろから抱きしめて抑えているクリスを横目で見ると、目が合う。


(そろそろ頃合いかな。)


ふと結界の外を見ると激昂した男爵が足を振り下ろす所だった。


「フィーネちゃん!」


パリンー!



♢♢♢♢♢♢



「リオ!」


凛とした殿下の声が響くと、後ろからリオが男爵を拘束した。

ドアから公爵家の騎士団も入きて、夫人を拘束する。


「フィーネ!!」


アリス様が私の所に駆けてきた。後ろからラウール様とグレン様も来ているのが分かった。


「え……?なぜ皆さんが……?」


頭のなかで疑問符を沢山出してへたり込んでいる私に、アリス様が目に涙を浮かべながら、


「手当てをしなければ……。医者を呼びなさい!

直ぐに休めるようあの部屋の準備も!」


と、使用人に指示をし始めた。


(あ!これを渡さないと!)


「ラウール様、待っていてください。これ。証拠品です。」


割られないように大事に持っていた媚薬を渡す。

ラウール様はなぜか大きくため息をつき、眉根を寄せながら瓶を受け取った。


(何故ため息……?)


まぁいいか、と立ち上がろうとしたが、頭を押さえつけられていた為か、気が抜けたのか。

ふらっとよろめいたところを後ろから誰かが支えてくれた。

ふわりと香るムスクの香り……グレン様だ。


「っと、大丈夫?」


(は!!香りで分かるなんて、これじゃぁ変態だ!!)


恥ずかしくなり顔が赤くなった私を見たグレン様は、ハッとした様子で私の額に手を当てた。


「やっぱり、熱があるね。」


「……へ?」


「それはいけませんわ!早く部屋へ!」


そうアリス様が言った時だった。


「ふざけるな!

こんな事をして大神官様が許すとでも思っているのか!!」


床に拘束されている男爵が、そう喚いた。

──そうだ、まだ終わっていない。


「フィーネ!早く辞めるように殿下に言って頂戴!腕が痛いわ!」


夫人は騎士団に腕を拘束され、跪いている。


「……フィーネちゃん、熱もあるし怪我もしてるんだから早くこの部屋を出るよ。歩ける?」


そう優しい口調でグレン様に言われた。


(正直疲れたし、頭も肩も痛い。

熱があると言われたらそんな気もしてきたし、是非とも早くこの部屋から出てベッドに横になりたい。けど)


「少しだけ待ってください。」


心配そうに見るアリス様やグレン様達にそう言うと、一歩前に出て一人でしっかりと立ち、男爵を見て口に笑みを浮かべながらこう言った。


「阿呆にも、あなた方は殿下の前で計画を直接証言し、大神官と貴方の計画は破綻しました。

あなた方が引き取った聖女は、殿下とアリス様に断罪され、無能で男漁りの激しい脳内お花畑の女だと噂が立っていますね。

それによって商売にも影響が出ているそうで……ご愁傷様です。

ふふっ。大神官とやらは果たしてただの男爵のあなた方を助けに来られるでしょうかね?

……長年企ててきた全ての計画を台無しにされたお気持ちは如何ですか?」


そう一気に話すと、頭がクラクラしてきた。

だけど、まだだ。まだ足りない。

涙を浮かべ息を切らしながら、私は言葉を続ける。


「あの時っ、フィーネが、私が!母を助けてほしいと言った、あの時!貴方が母を助けずに聖女の証が発現した私を捕らえたあの時から。は……はぁ、ずっと!ずっと!私は、貴方が破滅する瞬間をっ」


その時、ふわりと銀色の優しく美しい魔力が私を包んだ。ムスクの甘い香りがする。


「フィーネちゃん、もうおしまいにしよう。」


そんな優しい声を最後に、私の意識は闇に沈んだ。


フィーネちゃんの一人で頑張ってた戦いが終わりを迎えます。


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