66 希望を胸に
アリス達の所に戻ると、もう選び終わったのか、お茶を飲んでいる所だった。
ゼロは器用に両前足でクッキーを挟んで、もぐもぐと食べている。
「お前ら、遅かったな。」
「ごめんね、ちょっとお買い物してたの。
アリスはもう選び終わったんだね。」
「ええ。今石をつけてもらってますの。
すぐに出来るんですって。
さすがは王都で今急成長してると噂のお店ですわ。」
ソファーに座りそんなことを話していると、支配人が懐中時計と、私が頼んだピアスを持ってきた。
「出来上がりました。確認をお願いいたします。」
懐中時計は、アリスと殿下の瞳の色の大きめの宝石が隣同士になっており、その周りに私やリオ、ラウール様、ゼロの瞳の色の小さな石が散らばっていた。
「うん。すごく素敵!
これを渡す時はちゃんと言ってね?
私もこそっと隠れて見守ってるから!」
(こんな興奮するイベント逃したら一生後悔する!)
「う……分かりましたわ。
フィーネが買ったのはピアスですの?
あら?この色合い……」
「こ、これはリオにあげるの。
タッセルの色は私が選んだんじゃないのよ!」
慌てて言い訳をするが、アリスがニヤニヤと笑みを浮かべるのを見て顔が赤くなった。
(う。恥ずかしい……)
「とりあえず、リオ、これつけてみて?」
「フィーネ様が、付けてくれますか?」
「っ!?私が?」
「ええ。──ダメですか?」
「う、まぁ、いいけど……。」
ピアスを手に取ると、ソファーから立ち上ってリオに近づき、緊張で指先を震わせながら左耳にピアスを付けた。
ほっと息をつき、リオから離れようとした瞬間。
くっと肩を寄せられると、頬に柔らかい感触がした。
そして心地のいいテノールが、耳元で囁かれる。
「ありがとうございます。フィーネ様。」
「ど、ど、ど、どういたしまして。」
完全にパニックで吃りながらもお礼を返す。
多分顔は真っ赤だろう。
「ふぅん。」
そう言いながらふわふわと尻尾を揺らすゼロに、きゃぁー!と何故か真っ赤になりながら隣にあるクッションをバンバンと叩くアリス。
そして、リオは首を傾げてピアスをシャラっとゆらめかせ、
「似合いますか?」
と私に聞いた。
鳶色の瞳が私を射抜く。
なんだかその仕草がとても蠱惑的で、心臓が跳ねた。
「似合いマス。」
わたしは目を逸らしながらそう答えるのに精一杯だった。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢
「流石は流行ってるだけのことはあるね!
大きい苺がたくさん乗っててジューシーだし、甘さも控えめでタルトはサクサク!
すごい美味しかった!」
「ええ!今度は期間限定のタルトも食べたいですわ!
学校が始まりましたら、帰りに一緒に行きましょう?」
「──うん。そうだね。」
(学校、かぁ。
しばらくアリス達と距離を取らないといけないな。
高等部でのことは神殿の所為にしてるけど、私に対する不満は根深いままだろうし。
なんせ能力が使えない『無能聖女』だからなぁ。
汚名を返上できるように頑張らなくちゃ。
アリス達の評価まで下げるわけにはいかないもの)
そんな事を考えていると、テンション高めのアリスの声が響いた。
「フィーネ!着きましたわ!
今日の私達の最終目的地ですわ!」
パッと前を見ると、こじんまりとした可愛いお店があった。
「アリス、ここって……」
「ええ。ここ、そういうジャンルの本ばかりを取り揃えている本屋なのですわ!
今、令嬢たちの間で密かに大流行なんですって!
行きましょう!
──男性が入るようなお店ではありませんので、リオとゼフィロスはここでお留守番ですわ!
周囲の安全だけ頼みますわね!」
そう言うと、アリスは店の中へ私を引っ張ったのだった。
♢♢♢♢♢♢♢
side:リオ
アリスから外で待つよう言われた私達は、店の横にあった大きな木の上に座り、二人が出てくるのを待っていた。
左耳のピアスに触れていると、ゼフィロスがピョンと膝の上に移動してきた。
「よかったなぁ。それ。
……嬉しそうにしやがって。」
そう、ニヤニヤしながら言うゼフィロスの顔は揶揄いの色に染まっていた。
「うるさいですよ、ゼフィロス。」
「おい!先生とよべ、先生と!」
グレンは、いつの間にか彼を『先生』と呼ぶようになっていたことを思い出した。
魔法を学べる喜びに胸を踊らせているようだった。
だが、自分は。
「嫌ですよ。
──一族の長すら、私の力に恐れ慄き教示する事は不可能だと言いました。
私自身も、この力のことを半分も分かっていないんです。
貴方にそれが出来るなんて、到底信じられません。」
眉根を寄せ、ゼフィロスの視線を避けるように店の入り口を見る。
「なるほどな。フィーネが言ってたのはこれか。
──お前は怖いんだな。
自分の力も、自らが持つ底無しの欲望も、……人を信じる事も。」
バッとゼフィロスを見ると、真っ直ぐな紅の瞳が私を射抜いていた。
その瞳に子供をあやすような優しさが感じられ、不覚にも鼻の奥がツンとする。
「なぁ。リオ。
俺を誰だと思ってる?
お前の祖先のネロとは悪友だったんだぜ?
ちなみに、ネロと俺は何度も手合わせをしてきたが、俺はあいつに全勝してる。
あいつの力の大きさも、使い方も、手札も、ちゃんと知ってんだよ。
俺はあいつじゃねぇけど、教えられる事はある。
お前、フィーネの事は信じてるだろ?
ならフィーネが信じてる俺の事も信じろよ。」
そう言いながら目を細めるゼフィロスが、小さい体のくせにとても大きく見えた。
信じても、いいのだろうか。
誰も、教えてくれなかった。
この力の事も、欲望の制御の方法も。
ずっと一人で、闇の中で手探りでやってきた。
グレンが羨ましかったのだ。
新たな学びに希望しか見出さない彼が。
本当は、自分も──。
膝の上のゼフィロスを抱えて、ぎゅっと抱きしめてみた。
ふわふわとしていて、温かい。
「なるほど。これがフィーネ様の言う癒しですか。」
「お前もかよ!中身!中身を考えろって!」
ぎゃぁぎゃぁと文句を言う彼に、笑いが込み上げる。
「ふはっ。
──よろしくお願いします、師匠。
私の力の事を、教えてください。
強く、なる為に。」
そう言うと、師匠は大人しくなり、尻尾でペチペチと腕を叩きながら、
「おう。任せとけ。」
と言った。
その言葉に、肩の力が抜け、心がいくらか軽くなった気がした。
♢♢♢♢♢♢♢♢
チッチッチッチッ。
無音の空間に時計の針の音だけが鳴っている。
チッチッチッチッチッチッチッチッチッチッ。
カチッ。
ふわりと深淵の青黒い魔力が時計から漏れ出た。
時計の針が約束の時間をさしたのだ。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢
昏い森の中、女の声が響く。
「欲望、欲望が、ワタシを満たす。
あぁ、もっと!もっと欲しいワ。
ふふふ、アハハハハハハ!」
♢♢♢♢♢♢♢♢
満天の星空の中、ゆらゆらと漂いながら『リリス』は手を伸ばす。
「貴女の物語はまだ始まったばかり。
どうか、次も私達にとってのハッピーエンドになりますように。」
ふふっと笑う。
そして新たな物語が始まるまで眠るのだった。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
『『無能聖女』と言われている私が皆をハッピーエンドに導きます!〜悪役令嬢と親友になったら、天才魔術師達からの執着溺愛が止まりません〜』第1部、これにて無事に完結です!
約2ヶ月前、手探りで書き始めたこの作品ですが、気づけば15万字という大ボリュームになっていました。
フィーネ達の関係性の構築と戦い。時には甘さをぶちこみ……と、書いていて本当に楽しかったです!
そして……物語は【第2部・学園(欲望の種)編】へと続きます!
第1部を超える怒涛の展開と甘さを詰めてお届けしますので、楽しみにお待ちいただけると嬉しいです!
【第2部開始予定】
9月11日(金) 20:12ごろ〜
(5日間の充電期間を挟んで再開します!)
なお、第2部も話数はそのまま【第67話】から更新していきます。
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それでは、学園編〜欲望の種〜でまたお会いしましょう!




