65 甘やかしたい
「フィーネ!あちらに行きましょ!
可愛い文房具があると、令嬢たちから聞いていますの!」
テンション高めに、結んだ手を引っ張りながら私に話しかけるアリスは、私と同じ町娘風の服を着ており、髪は地味目に三つ編みにしていた。
しかし、そんな地味な格好でも、あの美貌を少しも隠しきれていない。
周りの人が皆美しい令嬢に振り向き、ほぅ、と息をつく。
(分かるわぁ……。美しすぎるもん。
変な人に絡まれないように気をつけてあげなくちゃ!)
「お前ら走ったら転ぶぞ?」
アリスの頭には黒い子猫がちょこんと乗っている。
アリス曰く、今日はリオが私の護衛らしい。
一応私が『王女』だからだろうか。
「はしゃいでいますねぇ。迷子にならなければいいんですが。」
そう呆れながら言うリオも、今日は随分とラフな格好で少し肩の力が抜けている気がする。
「やっと街に来れたんだもん!
行きたいところ、沢山ありすぎて時間までにまわれるかな。」
ふふっと笑いながら言うと、リオの笑みが深くなった。
アリスは令嬢達から色々と情報を得ていたらしく、文房具屋に、服屋、魔道具屋など、色々な場所を案内してくれた。
文房具や服屋ではお揃いのものを沢山買ったし、魔道具は興味深いものもが沢山あり、今度はグレンも連れてこようと心に決めた。
そして、私達はとあるジュエリーショップへ入った。
「いらっしゃいませ。
お待ちしておりました。
こちらへどうぞ。」
店員の挨拶、仕草だけで格式高い店なのだと分かる。
案内された奥の部屋にはソファとテーブルが置いてあり、私とアリスがソファーに座ると、いい香りの紅茶が運ばれてきた。
リオは護衛らしく、私の後ろに立っている。
「わぉ……。VIP待遇。」
アリスの頭の上で小声でボソリとゼロが呟く。
「当たり前ですわ。
私達を誰だと思ってらっしゃるの。」
(まぁ、次期王妃様と一応聖女だもんね)
奥から多くの宝石が入っているであろう箱を持った従業員達が部屋に入ってきた。
「予め伺っておりましたご希望に近いものを取り揃えております。」
支配人らしい人物がそう言うと、従業員達が宝石の箱を並べだした。
「フィーネ。殿下に、どれが似合うかしら……。」
アリスはもうすぐ誕生日の殿下へのプレゼントを、殿下には内緒で買いに来たのだった。
買うのは懐中時計だ。
外側のデザインは、月と星。
その星の部分に宝石を乗せるのだそうだ。
懐中時計自体は出来ているので、今日は現物に合わせてどの宝石を使うかを選びに来ていた。
「うーん。この色とか、こっちも似合いそうだけど、やっぱり贈るとしたら紫かなぁ。
なんていったってアリスの色だし。」
「っ!むり、無理ですわ!
そんなのをプレゼントするなんて恥ずかしすぎますわ!」
顔を赤らめ頬に手を当てるアリスに、
「くっ。可愛すぎて直視できないっ。」
と悶絶する私。
「早くしないと、次の予定に遅れてしまいますよ?」
そう呆れながら言うリオにハッとする。
(そうだ。次は流行りのイチゴタルトのお店に行くんだった!)
アリスと顔を見合わせ頷くと、アリスは真剣に選び始める。
「やっぱり、サファイアとアメジストにしますわ。
でも、恥ずかしいわ……。
みんなの色も少しだけ使ってもいいかしら?」
「うん!いいんじゃない?
ただし!この外側の小さいところだけだよ?」
日和るアリスに念押しをする。
「うぅ、分かっていますわ。」
恥ずかしがりながらも頷くアリスに、
「ふふっ。あ、私ちょっとお店の中見てくるね!
一人で大丈夫だから、リオはここにいて!」
そう言うや否や、私は部屋の外へ出て一般客がいる売り場へ向かった。
♢♢♢♢♢♢♢
side:リオ
フィーネ様が部屋から出て、15分ほど経っただろうか。
チラリとゼフィロスを見ると、目が合った。
ぴょんとアリスの頭から、私の肩に移動してくると、他の目があるからか、小声で言った。
「フィーネのやつ、一般フロアで油売ってるみたいだぞ。
何やってんだか。」
「迎えに行ってきますね。
アリスを頼みます。」
そう言うと、ゼフィロスは頷き、私の肩から降りてアリスの方へ戻って行った。
私は、フィーネ様の気配を探しながら一般フロアへ早足で移動する。
(見つけた)
彼女は、入り口にほど近い売り場の一角で、何やら女性の店員と話しながら作業をしていた。
ほっとしたのも束の間、フィーネ様の背後に男性が立ち、なにやら話しかけている。顔には胸糞の悪い欲望が垣間見え、ほんのわずかだけ魔力が漏れてしまい、周りの人々がギョッと私を見た。
我に返り深呼吸をしながらフィーネ様の元へ急ぐ。
男が彼女の体に触れる直前、その腕を掴み上げる。
「私の『大切な人』に、気安く触らないでいただけますか。」
凍りつくような低い声で囁くと、男はヒィッと顔を真っ青にして脱兎のごとく店から逃げ出していった。
その姿を冷めた目で見ていると、フィーネ様が、
「あ、リオ。そろそろ来る頃かなって思ってたよ。」
などと呑気に言うものだから、深い深いため息が出た。
「貴女は危機感というものを少しは持った方がいいですよ。」
そう苦言を呈すると、
「持ってるよ!失礼な!」
と言い返され、さらに深い溜息が出た。
「そんなことより、これ!」
そう言うとフィーネ様は、私の耳元に何やら長いタッセルのついたピアスをあててきた。
「思った通り!やっぱり似合うね!
このお店に入って見た瞬間『買いだ』って思ったんだよ!」
そう言って見せられたのは、丸い透明な石と赤茶色の石が二連でつき、その下に長い黒のタッセルがついた一つのピアスだった。
どうやら、ピアスの石などの装飾を好きに選べるらしく、周りにも何人かの男女がオリジナルのピアスを作っていた。
「これ、リオをイメージして作ったの!
リオに私からのプレゼントだよ!
普段使いは、きっと邪魔になるだろうし、こうやって遊びに行く時とかに使って!」
と嬉しそうに笑うフィーネ様に目を見開いた。
心がギュッとなる。
(私は、いつも貰ってばかりですね)
情けないという思いと、嬉しいと言う気持ち、そしてもっと私を見てほしいという甘えが混ざり合う。
そんな感情が表に出ていたのか、フィーネ様がハッとした顔で、
「ごめん、好みとかあるのに、勝手に決めちゃって……。」
と申し訳なさそうに言った。
「っ!違います!
いつも貰ってばかりで、私は何も渡せないな、と……っ!」
否定をしなければと慌てていたのか、気がついたらそう口にしてしまっていた。
バツが悪くなり、口に手を当て目線を逸らす。
「リオ。私はね、リオを甘やかしたいの。」
「……は?」
なんと言われたのか理解が及ばず、聞き返した。
「だから!リオを甘やかしたいって言ってるの!
あのね、グレンやゼロはさ、私のことを沢山甘やかしてくれるでしょ?
そうすると、胸の奥があったかくてすごく幸せな気持ちになれるの。
それを今度はリオに渡すことによってね、私も与える側の人間になれてるって自信が持てる。
……つまりね、私は自分の為に、リオを甘やかしたいの。
だから、遠慮しないで私から沢山貰ってほしい。
分かった?」
「っふ、はははっ!」
なんて自分勝手な言い分だろうかと、思わず声に出して笑ってしまう。
「そんなに笑わなくてもいいじゃない。」
口をへの字にしながら私を見るフィーネ様に、こう言った。
「では、一つ我儘言ってもいいですか?」
「うん!なぁに?」
笑顔で嬉しそうに返事をするフィーネ様に、自然と私も笑顔になった。
「この黒のタッセルにピンクも入れてほしいんです。
ほんの、少しだけでいいので。」
「へ。いや、それは、ちょっと恥ずかし……」
ビシッと効果音がつくほどに固まって、そう言う彼女にダメ押しをする。
「甘えても、いいんでしょう?」
一歩前へ出て、耳元で囁いた。
「──っ!わ、分かったから!
少しだけだよ?ほんの少しね!?」
そう言うと数歩後退り、顔を真っ赤にして店員を呼んだ。
クスクスと笑いながら思う。
自分の欲望は底なしで。
もっと、もっとと子供のように彼女にせがんでしまうだろう。
深く暗い、暗い海の底のような欲望を気付かれたら──。
幸せなはずの今も、そんな恐怖に苛まれている。
「ピアス、すぐ直して持ってきてくれるって。
アリス達の所に帰ろっか!
行こう、リオ。」
──どうか、気付かないでほしい。
そう願いながら、彼女の後を追った。
今度はもう少し尺をとって、みんなでわちゃわちゃとお出かけするだけの回を書いてみたいです!
第二部や三部で書けたらいいなぁ。
とうとう残すところ一話になりました。
投稿始めて2カ月。感慨深いですね……
次回もお楽しみに!
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