63 後悔を胸に
side:グレン
指の隙間からサラサラと零れ落ちていくような不安に襲われ、フィーを壊れないようにそっと抱きしめた。
彼女のトラウマを理解し、ずっと側にいると約束をした。
── それなのに、その大切な約束をやぶろうとした。
帰ってきたら、不安も恐怖も全部受け止めると送り出したはずだった。
──それなのに、その不安も恐怖も僕が原因だ。
あの時。
皆と、フィーの命が守れるなら、死んでも後悔はしないとそう思った自分をぶん殴りたい。
自己陶酔していたのだ。
それが美しいとさえ思った。
その行為がどれだけ愚かだったかを今、身をもって知った。
後悔で苦しい。
涙が滲んで声が震えた。
謝ることしかできない自分に腹が立つ。
(くそっ!何が「フィーを守れるなら」だ。
この子が何を恐れているのかを知っていたのに。
僕は、馬鹿だ。)
腕の中で泣きじゃくるフィーをきつく抱きしめる。
しばらくして、泣き声が小さくなった。
フィーの身体に熱がこもっているのを感じて身体を離した。
熱で赤くなっている頬に手を添え、流れている涙を親指で拭う。
その時、フィーが頬に当てた手に気持ちよさそうに擦り寄ってきた。
心臓がドッと跳ね、うるさいくらいに鳴り出した。
フィーの熟れたような赤いふっくらとした唇に視線がいく。
(こんな時に何を考えてるんだ、僕は。)
大きく深呼吸をして、心をおちつかせた。
フィーの髪を解きベッドに寝かせると、立ちあがろうとしたが、フィーに阻まれてしまう。
子供みたいな口調になっているフィーに、熱があがってるのだと感じ、宥めて部屋を出るよりも、寝かせた方が早いとベッドに腰をおろした。
「熱あんのか。顔赤いな。」
いつの間にか部屋にいたゼフィロスに目を見開き、気付かなかった自分に呆れた。
「うん。疲労、らしい。
よく寝たら明日の朝には治るって医者がいってたよ。」
眠っているフィーの頭をそっと撫でた。
「随分と落ち込んでんな。
──後悔か?」
僕の隣に猫の姿でちょこんと座ったゼフィロスは、優しい、子供を見るような目をしている。
いつもは腹立たしいその目も、今はなぜかほっとした。
普段なら口に出さないだろう弱音がポロリと吐き出された。
「自分のせいで泣いてるのが、こんなにキツイと思わなかったよ。後悔しかない。」
「よかったな、後悔できて。」
その言葉に目を見開く。
「フィーネがお前を止めたから、お前は今生きて後悔できてる。
こいつも、文句を本人にぶつけることが出来た。
──死んだやつに何を言っても返ってこねぇからな。
これから先、今回みたいに『死ぬ覚悟』だけはすんなよ。
それは最悪の一手だ。
こいつの心が死ぬ。」
「うん。身をもって知ったよ。
もう、しない。絶対に。
その為にも強くなるよ。」
僕がそう言うと、ゼフィロスは優しくふっと笑った。
「ゼフィロスは、母親みたいだね。」
スルッと口からそんな言葉が出てきた。
「お前もかよ……。」
前にも言われたことがあるのか、ゲンナリしながら言うゼフィロスに笑いが溢れる。
「ゼフィロスが、羨ましいよ。フィーに頼られてて。
僕も早くそうなりたい。」
「阿呆か。適材適所っつったろ。俺は確かにフィーネに頼られてるさ。それは俺が絶対に裏切らないからだ。契約してるからってのもあるが、絶対的信頼がフィーネの魂にも刻まれてるんだよ。……やりにくいったらありゃしねぇ。」
最後は愚痴のような言葉を吐き、溜息を一つつくと、ゼフィロスは続けた。
「俺は逆にお前が羨ましいけどな。
俺は頼られはするが、甘えられはしねぇ。
ま、これから先のことはわかんねぇけどな?」
挑戦的な目をして僕を見る彼が、少し落ち込んでいるように思えて、その小さい体を撫でた。
「……なるほど。確かにこれは癒されるね。まぁ僕はどちらかといえば犬派だけれど。」
「お前の好みなんて聞いてねぇし、この体の中身を考えろよ、中身を!」
噛みつきそうな勢いで抗議するゼフィロスに、ははっと笑いながら、僕は彼に言った。
「フィーが、一緒に強くなるって言ってたんだ。
あの子の隣に立ち続けられるように、僕も強くなりたい。
ゼフィロス。
──先生、ご教示お願いしますね。」
ニヤッと笑いながら先生を見ると、
「キツイって泣きべそかくなよ?」
そう言いながら、長いしっぽでペチペチと僕の手を叩くのだった。
この話を含めて第一部完結まで残り4話です!
ラストまでにゼロとグレン、リオとの関係にちゃんと名前をつけつつ、アリスとの約束のお出掛けをしようと思います。
第一部最後までお見逃しなく!
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