61 師
「あはははははは!」
「こら、そんなに笑わないの。」
大爆笑しているゼロをたしなめると、ホッと息を吐いた。
(うまくいってよかった。
グレンとリオは基本脳筋なんだよね。
予測しやすくて助かるよ)
いつの間にか、人の姿になっていたゼロが、クックッと笑いを漏らしながら、私の背後に立ち、肩口を上げて背中のファスナーを上げてくれた。
「ありがとう。」
「この服なら髪はアップの方がいいな。
ほら、ここ座れ。
あいつらが戻ってくるまで時間かかるだろ。」
そう言ってソファーをポンポンと叩いた。
「ふふ。うん。やっぱりゼロは、お母さんみたい。」
「誰がお母さんだ。性別すら違うじゃねぇか。」
ブツブツ言いながら、髪を高い位置で結んでくれた。
結び終わるとツ──っと首筋の一点を指で触れ、フッと笑った。
「ゼロ?」
「──それにしても、あいつらは敵が何を考えてるかを考察する癖をつけた方がいいな。」
「あー、それは仕方ないよ。
今まで、力技でどうにでもなってたんだもん。
それを教えるのが先生の役目、でしょ?」
「簡単に言ってくれんな。
あいつらが素直に聞いてくれりゃいいけどなぁ。」
ふわっと魔力を感じると、ゼロが猫に戻っていた。
「どこにいくの?」
「説教中のあいつらを助けてやろうと思ってな。
ほら、俺は優しい先生だからな。」
「あはは。よろしくね、先生。」
(本当に二人にとって意外といい先生になるのかも)
ゼロが転移で消えると、肘掛けの上に腕を置き、頬をあずけるようにしてソファーに体を横たえた。
(ちょっと、疲れたかも)
頭がふわふわする。
少しだけ寝ようと、目を瞑った。
♢♢♢♢♢♢
side:グレン
アリスとラウールからの鬼のような説教の最中、現れたのはゼフィロスだった。
彼から今回の件の説明を受けたラウールは、深い深い溜息をつき、アリスからは、
「どんな状況でも、部屋への直接転移はあり得ませんわ。
反省してくださいませ!」
と念を押された。
ラウールからフィーへの伝言を受けて、僕達はやっと地獄の説教から解放されたのだった。
フィーの部屋に戻り、ノックするが返事がない。
僕とリオは顔を見合わせ、どうしたものかと扉を開けるのを躊躇していると、リオの肩の上にいたゼフィロスが、前脚でリオの頬をちょんちょんと突っついた。
「なにやってんだよ、開けろ。どうせあいつ疲れて寝てんだろ。」
「説教された直後にそれはどうなんですか。」
そう言うリオに、僕も同意すると、
「ノックはしただろ?へーきへーき。お前らが開けないなら俺が開けるけど?」
軽くそう言われ、溜息をつきながら静かに扉をあけた。
ゼフィロスが言った通り、フィーはソファーに寄りかかって眠っていた。
気配を消しながら側によると、あまり顔色が良くないのが分かり、眉根を寄せる。
リオの上から降りたゼロは、向かいのソファーにかかってあったローブを魔力で浮かせると、フィーの体に掛けた。
次にバルコニーへの扉を魔力を使って開けると、
「こっちに来いよ。」
と言って、バルコニーへ小さい体をピョンピョンさせながら移動し、手摺りに危なげなく登ってこちらを見た。
僕達もバルコニーへ移動すると、静かに扉を閉めた。
「で、どうだったよ、フィーネとのゲームは。」
クックッと笑いを漏らしながら、揶揄うようにそう言うゼフィロスに眉根をよせて睨みながら、答える。
「完敗だよ。でも色々と狡くないかい?」
リオも僕の言葉に深く頷き、ゼフィロスに疑問を投げかけた。
「フィーネ様はどこまで読んでいたんですか?」
「まず、『狡い』という感想が出ること自体ナンセンスだな。
お前ら、戦いでその言葉を口にするのか?
どれだけ狡くても、勝てりゃいいんだよ。
あと、あいつがどこまで読んでたかって?
──全部に決まってんだろ。
読み違ったのは精々お前らが、50秒ほど来るのが遅かった事くらいか。」
(全部……?)
目を見開いて驚く僕達に、ゼフィロスは今回のフィーの『計画』のネタバラシをし始めた。
全てを聞いて頭を抱えた。
「嘘だろう……?」
隣をチラリと見ると、リオも珍しく頭を抱えていた。
すると猫の体がふわっと浮き上がり、次の瞬間には人型になっていた。
赤い髪がさらりと風に舞い、紅の瞳が僕達を射抜く。
「お前達の敗因は、あいつの力を見誤ったことと、最後まで足掻こうとしなかったことだな。
今回の事で、力ってのは魔力の多さだけじゃねぇ事が分かったか?
権力や、置かれた環境と人間関係を把握して利用する頭脳、それに覚悟の強さ。
フィーネはそういう力に長けてる。
チェスと一緒だ。
適材適所に駒を動かさなきゃ勝負には勝てねぇ。
フィーネはこれからの戦いの中心になる。
お前らはそれを認めて、あいつを信じ、隣で支えていかなきゃならねぇんだよ。」
そこまで言うと、少し呆れた様子で溜息をついた。
「つーか、ゲーム云々の前に、フィーネに自分達のアフターフォローをさせちまった事を恥じろよ。
あからさまに落ち込んで、焦ってんのがバレバレだったぜ?
本当ならお前らが、フィーネを支えんだよ。
お前らが支えられてどうする。」
正論すぎてぐうの音も出ない。
僕達が落ち込んでいるのが分かってるのか、ゼフィロスは明るい声で続けた。
「ま、お前らはまだ若い。これから学んでいけばいいさ。
──俺が教えてやるよ。
魔力の効果的な使い方も、制御も、戦い方も。
持ってる知識全てな。
気合いいれろよ?俺の指導は厳しいぜ?」
クツクツと不敵に笑いながら、僕達の頭をぐりぐりと撫でた。
「──っ!だから、子供扱いするなって言ってるだろう?」
「もうそんな年齢ではありませんっ!」
「はは。噛み付くなよ。
俺も前に言ったろ?子供みたいなもんだってな。」
ニヤニヤと笑みを浮かべる彼にげんなりしながらも、初めての師から得る新たな学びに、不覚にも胸が高鳴ってしまう。
(こんな気持ちは久しぶりだ)
そして。
(必ず強くなる。フィーを守れるように。
そして、支えられるように。)
新たな決意を胸に、僕ははリオと視線を交わし、力強く頷き合うのだった。
ゼロはお母さんであり、先生です。笑
戦闘描写じゃないのでサクサク書けちゃいます!
楽しい〜!
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