60 手のひらの上
side:グレン
ゲームの時間開始時刻にリオと殿下の部屋へ行くと、殿下が僕達を驚いた顔で見た。
「お前達、いいタイミングで来てくれた。
今から呼ぼうかと思っていたんだ。」
(嫌な予感がする……)
リオの顔を見ると、同じように思っていたのか、いつもの笑顔が引き攣っていた。
「朝方、王都神殿から神官が一人逃亡していたとの報告が上がってきた。
行き先は南のオルフェン男爵領だ。
もしかすると、それぞれの領にある神殿内に、何かを隠してる可能性もある。
それがその逃亡した神官の隠し財産が、或いは例の実験の資料かは分からんが。
急いで神官を確保した後、目的を吐かせろ。
その後、神殿内の捜索を頼む。」
「二人で、ですか?」
「あぁ。あちらで何があるか分からないからな。
念のためだ。……どうした?」
「いや、なんでもないよ。行ってくるね。」
リオと共に部屋を出る。
「これは……フィーが殿下に頼んだのかな?」
「どうでしょうか。
殿下は私達が今何をしているのか知らない様子でしたが……。
ただ。タイミングが良すぎて怖いですね。」
顎に手を当て考えている様子のリオに声をかける。
「リオ、とりあえず行こうか。
急いで時間までに戻ればいい。
僕とリオなら出来るさ。」
転移魔術を展開させながらそう言った。
♢♢♢♢♢♢
神官を捕まえた僕達は、神殿内の捜索も完了し、王城へ戻ってきた。
結局神官の目的は、寄付金の横領の証拠を隠滅することだった。
神官は王宮の地下牢へ。
証拠品は司法局へ渡し、殿下へ報告に行った。
ここまでで40分。
思ったよりも時間がかからなかったので、二人でほっと息をつく。
「お姫様を捕まえに行こうか。」
「ええ。」
そうリオが頷いた瞬間。
「あら。グレンにリオ。久しぶりね。」
その声に目を見開き、すぐにその場に跪く。
この国の王妃である、エレノア様だ。
殿下と同じ眩いばかりの金髪をすっきりとまとめ上げ、コバルトブルーの瞳を細めて優しく微笑んでいた。
「ご無沙汰しております。王妃様。」
「いやね。堅苦しくしないでちょうだい。
私は息子の友人に挨拶しているだけなんだから。
そうだわ!久しぶりに会ったのだからお茶でもしましょう!
ふふ。色々と話したいことがあるの。
アリスちゃんから色々聞いてるのよ〜?
さぁ!温室に行きましょ!」
ルンルンと使用人に指示を出す王妃様に、リオと顔を見合わせた後、勇気を出して申し訳なさそうに言った。
「大変申し訳ないのですが、この後、予定がありまして……」
「あら?この後の仕事はないとアリスちゃんから聞いてるわ?
……その予定は私より優先される用事なの?」
むっとした様子の王妃様に、即座に否と返した。
「そうよね!大丈夫!少しだけだから!
そうね、10分だけ時間をちょうだいな。
さぁ行きましょ。」
そう言って温室へ向かう王妃様の後ろを歩きながら、リオに小声で話しかけた。
「リオ……。これは、もしかしなくても……。」
「おそらくは、フィーネ様の策でしょうね。」
フィーの魔力を検知する。
「フィーはまだ部屋の中にいるよ。
おそらくこのまま部屋に居続けるんだろう。」
「ギリギリの時間で、部屋まで転移ますか?」
「そうだね。10秒で部屋まで転移、フィーを捕まえよう。
部屋に入ったら、挟み撃ちだ。」
リオと目を合わせ頷く。
ふと、リオが訝しげに周りを見て王妃様に話しかける。
「王妃様、こちらからですと温室へは遠回りなのでは?」
「そうなのよ。
一番近い道を今朝から封鎖しているらしいの。
でも、ほら5分くらいだし、健康のためと思えばいい運動だわ!」
そう言いながら歩いていく王妃様に、思わず顔が引き攣ってしまう。
リオをチラリと見ると、同じように顔が引き攣っていた。
♢♢♢♢♢♢
王妃様とのお茶会を終え、残り20秒ほど。
王妃様に根掘り葉掘り色々と聞かれ、疲労困憊だ。
ただ、思ったよりも時間が残っていた為、安心する。
「じゃぁ、リオ。準備はいいかい?
時間もないから部屋の中に直接転移するよ。」
「ええ。
部屋に入ったらすぐに対角線上に移動した後、確保します。」
フィーの部屋に転移すると、すぐに確保に動く。
しかし、部屋の中の状況を把握した途端、体も頭の中も停止してしまった。
リオも同じだったのだろう。
動けずに真っ直ぐ前を見ていた。
「きゃぁぁ!」
フィーが叫び声をあげた。
彼女は着替えの途中だったのか、背中のファスナーが開き、両肩が出ていた。
胸元に一つのほくろを見つけてしまい、バッと顔を背けた。
顔が熱い。
フィーは一緒に部屋にいたアリスの後ろに隠れた。
「グレンー!リオ!何をしていますの!!?
いきなり部屋の中に転移してくるなんてあり得ませんわ!」
「いえ、これには訳が……!」
リオが弁解しようとするが、フィーの言葉に阻まれる。
「アリスぅ……。恥ずかしいよぉ……。」
アリスの後ろから顔だけ出したフィーがそう言うと、アリスがヒートアップする。
「訳があろうとなかろうとダメなものはダメですわ!!お兄様と、お説教ですわ!!
グレン、リオ、来なさい!」
アリスに腕を掴まれ半分引きずられるようにして部屋から出る瞬間、フィーの顔を見てしまい、顔が盛大に引き攣った。
そこには、先ほどまで恥じらっていた少女はどこにもおらず、ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、僕達に手を振るフィーがいた。
グレンとリオはフィーネちゃんに完敗でしたね。
勝負となると遠慮はしないのがフィーネちゃんです。
さぁ、とうとうあと残り数話です!
1話完結まで見守ってください!
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