59 ゲーム
「座って。お茶でも飲みながら話そう。」
窓際のテーブルに用意してもらっていた紅茶は、リラックス効果のあるハーブティーだ。
ゼロは私の頭から降りるとベッドの上で欠伸をして丸まった。
紅茶を一口飲み、ほっと息を吐く。
グレンとリオも口をつけたのを見てから、話しかけた。
「グレンとリオの話ってなに?」
「……謝りたかったんだ。」
グレンが私の目を真っ直ぐ見て言った。
「何に対して、かな?」
私がそう聞き返すと、リオが話し始めた。
「私とグレンで、殿下に頼み込み、貴女の計画の邪魔をした事、本当にすみませんでした。直前になって、グレンと話したんです。二人なら、倒せるだろう。守れるだろう。と……。」
「ごめん、フィー。自分の力を過信して戦いを挑んだ挙句、皆を危険に晒した。殿下と共にラウールとアリスからもこってり絞られたよ。本当にごめん。」
「ねぇ。どうして、信じてくれなかったの?待っててって言ったよね?ちゃんと無事に帰るって言ったよね?それなのに、どうして?」
グレンとリオは、何も言わない。
いや、言えないんだろう。
──だから私が代わりに言ってあげる。
「信じられなかったんだよね?
私が弱いから。
二人にとって私はどこまでも庇護対象で、共に戦う仲間じゃない。
そうでしょ?」
ハーブティーの香りが、心を落ち着かせてくれる。一口飲むと、黙り込む二人に私はさらに言った。
「頭の中であらゆる事態を想定し、不確定要素まで織り込んで導き出した最適解。
それが、今回の計画だったの。
その想定していた中に、もちろん二人がゼロと戦う筋道だってあったよ。
けど、私はそれを選ばなかったのはなぜだか分かる?
負ける可能性が少しでもあれば、全滅するリスクを負うことになるから。
実際、グレンとリオは負けた。
私の最悪の想定では、私以外皆殺しだった。
負けた時には、私が自分の命を盾にしてみんなを逃すしかないと思ってたよ。
今回相手がゼロだったのは本当に幸運だったの。」
私はカチャンとわざと音を立ててソーサーに置いた。
「ねぇ、グレン、リオ。
──あまり私を侮らないでくれる?」
すっと目を細め、彼らを見た。
チリ……と、首元のチョーカーが熱を帯びた。
すると、いつの間にかテーブルの上に乗っていたゼロが、『落ち着け』と言わんばかりに、カップに添えていた手に擦り寄った。
私はふぅ……と息を吐く。
前を見ると、二人は、顔をこわばらせていた。
「何か反論は?」
「……ないよ。その通りだ。」
肩を落としたグレンが首を振って、答えた。
リオも、下を向いて唇を噛んでいた。
私は続けた。
「……魔力の、魔術の強さだけが『力』じゃないんだよ。
力を持つ貴方達は、力を持たない私は弱いから、自分達には何をしても勝てないとでも思ってるでしょ?」
「だから、そうじゃないって証明してあげる。
──簡単なゲームをしよう。1時間以内に私を捕まえて。
魔術を使うのはもちろんオッケーだよ。
ゼロは手出ししない。
私は私の力だけを使う。
もしも私が捕まったら、これからは庇護対象として大人しく守られてあげる。
でも捕まえられなかったら──私のお願いを聞いて?」
♢♢♢♢♢♢♢♢
私は使用人に紅茶を入れ直してもらい、窓の外を見た。今度は、普通のアールグレイだ。
豊潤な茶葉の香りが、部屋に広がる。
一口飲むと、ざわついている心が少し落ち着いた。
「追いかけられる側が、こんなのんびりしてていいのかよ。」
「問題ないよ。二人ともまだ私の所には来れないからね。」
彼らのスタートは殿下の部屋、私はこの部屋だ。
終了の時間まで私がこの部屋から出ることはない。
「なんでだよ。転移とか影渡でもされたらすぐアウトだろ?」
ゼロは、テーブルの上で伸びをしながら私に疑問を投げかけた。
「今頃あの二人は殿下からの依頼を遂行中だろうから。それは出来ないよ。
ふふ。急いで終わらせようと頑張ってるだろうね。」
きっと焦っているだろう二人を想像して笑いが漏れた。
その様子に、感心しながらゼロが言う。
「あぁ。なるほどな。そっちに手を回したのか。」
「手を回したのはそこだけじゃないよ。
どんなに私の手を避けようと思っても、1分前まではここには辿り着けないようにありとあらゆる手を打ってある。
私の『第一王女』と『聖女』の権限を全て使ってね。」
「へぇ。勝負を受けた時点であいつらの負けは決定してたのか。
フィーネが、『自分の力だけを使う』って言ってた時点で気付いてりゃ結果も変わってたか。」
「ふふ。ゼロもまだまだだねぇ。
気付かせないようにしてたに決まってるでしょ。
私がリラックス効果のあるハーブティーを出したのも、その後の言葉を効果的に突きつけるための前処理だよ。
そして事実を突きつけて急激に彼らを追い詰めた後に、考える間を与えず、言葉上は二人の有利な条件で餌をちらつかせて勝負を飲ませたの。」
笑いながらゼロを撫でる。
「怖!」
ゼロが顔を引き攣らせている。
「私を侮るなって忠告したのにねぇ。」
クスクスと笑いながら、私は紅茶を飲み、クッキーを齧った。
私はグレンとリオの事を、ゼロに話した。
「あの二人は、幼少期から他とのレベルが違いすぎて誰かの教えを乞うこともしないで一人でここまでやってきたんだ、って殿下から聞いたの。
それなのに、ここまで強くなってしまった。
その成功体験は、今の二人の足枷になってると思うんだよね。
『頼る事』をしないのは、ダメだって私も最近気付いたんだけどね。
あの二人に、「私達を頼って!」って言っても流されるだけだと思ったから。
だから、喧嘩と勝負をふっかけたの。」
「はは。あいつらのアフターケアかよ。」
「時間は有限だからね。
いつ次手がくるか分からない現状で、足踏みする時間はないでしょ。
打てる手は打つ。
──よろしくね、先生?」
「やっぱそうなるかよ。
──お前は、大丈夫か?」
「……なにが?」
にこりとゼロに笑いかける。
「──いや、なんでもねぇよ。」
少し、耳がへたれてしまったゼロに苦笑いをしながら、心配させてしまったな、と反省する。
(私は、大丈夫。先にグレン達の懸念を取り除かなきゃね)
私は、ふわふわした体を何度も撫でながら、心の中に沈んでいるものから目を逸らしたのだった。
グレンとリオのアフターケアも完璧にこなすフィーネちゃんです。
次回、グレンとリオが少し可哀想なことに!?笑
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