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気がつくと窓から朝日が差し込んでいた。
少し頭痛がするが、大丈夫だ。昨夜の事を引きずってはいないし精神も落ち着いている。
(おそらく今日から、アリステリア様も動くだろうな。しっかりしなきゃ!)
よし!と心の中で気合いを入れ直すと、ベット脇のベルを鳴らした。
使用人が洗顔など朝の準備をしてくれる。
(丁寧すぎて、なんか気が抜けちゃうんだよなぁ…。)
私は罪人だというのに、使用人達に悪意のかけらも見えないのは何故なのか。
(公爵邸の教育の賜物かな。一応名ばかりとはいえ聖女だもんね)
準備を終えた私はブァルハイト公爵邸の広大な庭園に足を踏み入れていた。
白い上品な花が咲き誇り、厳格に管理されているのが分かる。
白亜のガゼボ(東屋)で待っていたのは、黒曜石のような黒髪を風に靡かせ、その瞳と一緒の紫のドレスを身に纏った令嬢ーーアリステリア様だった。
私に気がつくと、淑女の笑みを浮かべこちらにくるように促した。
周りを見渡すと、少し離れた所にクリス殿下とラウール様、グレン様にリオもいる。全員集合だ。
私に座るよう促した後、
「昨夜は眠れたかしら?」
と優しく微笑みそう言うアリステリア様。
「はい。私のようなものにあのような待遇、勿体無いほどでした。ありがとうございました。」
(ひぇ…美しすぎて直視できない)
ふふっと笑ったアリステリア様は、グレンを呼んだ。
「グレン、お願いします。いいですね?ぜっっっったいに、盗み聞きなんてしないで下さいね?したら絶交ですわよ。二度と口を聞きません。」
そう言うアリステリア様に、困ったようにフッと笑った後両手を顔の高さまで上げて言った。
「分かったよ。約束する。念の為に、悪意を感じたら拘束魔法を発動するようにしてあるから。そこは許してくれるかい?」
「必要ないと思いますが、まぁいいですわ。ではお願い。」
グレンが指を鳴らすとガゼボに魔法陣が出現し、結界が張られた。グレンは私の方を見てふっと笑い、クリス殿下達のところへ戻っていった。
「フィーネ様、これは防音結界ですわ。この中で話した事は外には漏れません。当代最強魔術師のお墨付きです。貴女と二人きりでお話しをしたかったのですわ。」
そう言うと、真白のティーカップに口をつけた。目の前のカップから紅茶のいい香りが立っている。私にはあまり分からないが、公爵家だし最上級の茶葉なのだろう。
私もカップに口をつける。香りのいいまろやかな口当たりの紅茶が、心を落ち着けてくれた。
(私、緊張してたのか…)
もう一口飲もうとした瞬間。
「あなた、転生者?」
そうアリステリア様が言った。
「ぐっ!ゴホゴホゴホゴホ…」
「あら、ごめんなさい!早く聞きたくてつい!」
紅茶が変なところに入ってむせる私にハンカチを渡すアリステリア様。
(え?なんて?転生者?…ってことは)
「もしかしてアリステリア様も、転生者なんですか!?」
驚く私に、
「ええ。5歳の時に高熱を出して、そこで前世を思い出したのですわ。」
と言うアリステリア様。
(なるほど、そりゃ他の人に聞かせられる内容じゃないわ)
「貴女が、ざまぁとか詰みとか言いましたでしょ?だからまさかと思ったのですわ。もう話したくて話したくて…でも昨夜は色々あって貴女も疲れていたでしょうし、今日まで我慢しましたのよ!」
褒めて!と言わんばかりのアリステリア様。何故か耳と尻尾が見える気がする。
「あの、アリステリア様は、その、『異世界転生・憑依モノ』とか『悪役令嬢モノ』とかを読まれたり?」
「ええ!とはいえ、私、『ヒロイン』が大好きで。『悪役令嬢モノ』は範囲外だったのだけれど。貴女はこの世界の物語を知っていて?」
そう聞くアリステリア様に私は前世の記憶を掘り起こした。
「いいえ。私、『悪役令嬢』が大好きで、何十もの小説を読んでましたが、この世界のような物語は読んだことはありません。」
そう言う私に、紅茶とお菓子を勧めながら、
「そうでしょうね。これは小説原作ではないもの。乙女ゲームって知っていて?」
と言った。
「乙女ゲー!?ここ、乙女ゲーの世界なんです?」
思わずガタッと席を立ってしまい、ほんの少し結界が反応した。危害を加えるのかと思われたみたいだ。
(おおぅ…危ない…)
慌てて座り直す私に苦笑いしつつ、アリステリア様はお茶を飲んだ。私も落ち着く為にお茶を飲む。
「えっと、アリステリア様はゲームもやってらっしゃったのですか?」
そう言う私に少しムッとした表情を浮かべ、
「ねぇ、もう少し砕けた口調で話してくださる?私の事はアリスと呼んでちょうだい。」
「いや、アリステリア様は、公爵令嬢ですし…私は聖女といえど罪人…」
「それなら!私の言う事を聞くのが罰ですわ!」
ツンと顔を上げ、そうのたまうアリステリア様に、これは折れないやつだなと悟った。
「分かりました!ただタメ口は立場的にちょっと勘弁してください!アリス様と呼びますから!」
少し砕けた口調で言うと、
「まぁ、いいですわ。」
満足されたようでホクホクとほっぺが赤くなり口角が上がっている。
(うぅ…アリス様が可愛いくてしぬ…)
「それで、乙女ゲームの話だったわね。私はゲームはやらなかったのだけど、前世の私の妹が乙女ゲームにハマっていたのですわ。この世界のシナリオは、リビングで妹がプレイしているのを横で聞いていたから大まかなシナリオは知っていたのです。
ゲームの中の『アリステリア』は、婚約者であるクリス様を『フィーネ』に取られた腹いせに、殺害しようとする悪役令嬢だったのですわ。最後には悪事を暴かれて断罪、つまりざまぁされて結界の外に放り出され、魔獣に襲われて死にますの。5歳の頃、前世の記憶が蘇ってから今までその最悪のシナリオを回避しようと努力してきたのですわ。」
アリステリア様は一気にここまで言うと、ふぅ、と息をつきカップに口をつけた。
「なるほど…。」
指を口元に当て、考えていると、
「ごめんなさい。」
という声が聞こえた。
「え?」
「私がシナリオを壊してしまったから、貴女がざまぁされることになってしまったわ…。私はヒロインが大好きなの。いつも明るくて前向きで、まっすぐで。だから、本当ならざまぁなんてしたくなかったのよ。」
アリス様がしゅんとして肩を落としていた。
私は慌ててぶんぶんと首を振り言った。
「いやいやいや!アリス様が謝ることなんて一つもありませんって!私がアリス様の立場でも同じ事をします!
…それにフィーネは、アリス様が言うような、そんなヒロインじゃありませんよ。」
フッと自虐的な笑みが浮かぶ。そう、フィーネは、私はそんなヒロインじゃない。もっと打算的で、捻くれ者だ。
「え?」
「とにかく!アリス様は悪くありませんから!それに原作は知らなくても、テンプレは知ってます!悪役令嬢がヒロインをギャフンと言わせて、最終的に愛する人と結ばれる。この場合はクリス様とですね。」
にやっとアリス様に笑いかけると、アリス様は顔を真っ赤にしてぷいっと顔を背けた。
(やっぱり可愛い…ツンデレ悪役令嬢、最高だわ)
「そ、そうだわ。妹が、『フィーネは初期ステータスが低くて、初期ほどレベル上げが難しい。育成が乙女ゲームじゃない難易度だと言っていたの…あなた、魔術が苦手よね?」
「ははは…」
(きた…)
「今日から魔術の勉強を始めましょう。グレンが指導してくれると申し出があったわ。」
(教育のし直しっていう名目で、公爵邸に居るんだもんな…避けては通れないか。)
「あの、今からでも魔塔の地下に幽閉コースは…」
「ないわね。」
即答なさるアリス様。
「うう…」
「せっかくできた同郷のお友達をそんなむさ苦しい所に閉じ込めてなんかおきませんわ!
こうやってお茶をしたり、お喋りしたりしたいですもの!」
「お友達…?」
「違いますの?」
ダメ?という風に少し首を傾げ私にそう聞くアリス様。
(だめだ、降参。可愛すぎてむり。)
「無理じゃないです!是非とも末永くよろしくお願いします!」
(こうなったら、死ぬ気で魔術を使えるようになってやろうじゃない!全ては初めて出来たこの可愛い友人の為に!)




