48 ミッションコンプリート?
「──フィー!」
グレンの声が聞こえた。
声を聞いただけなのに、なぜか、じわ……と涙が浮かび、慌てて深呼吸をする。
(なにやってんの、私!まだ、終わってないでしょ!)
私を飲み込もうとした火球は、グレンからもらったピアスか展開された結界に阻まれ私に近づくことはできていない。
──パリン
微かにそんな音が聞こえた瞬間、
「ゼロ!」
と合図を出す。
「あっつ。ったく、無茶すんなって言ったろ。
本当お前そういうとこだぞ。
あとで覚えとけよ?」
ゼロが私の隣に立ち腰を抱いて引き寄せる。
そして炎に触れると、まるで最初から無かったかのように、熱せられた周りの空気ごとフッと消えた。
先程まで炎に隠れて見えなかったが、目の前に大神官が拘束されているのが見えた。
(とりあえず、ミッションコンプリート……かな?)
「フィー!」
「フィーネ!」
クリス殿下とグレンが私に駆け寄ってきた。
「殿下、契約は?」
「無事に破棄されている。よくやった。
だが……あとでラウールの説教が待ってるぞ。」
「うぇ……。」
バサッ。
私の肩にローブがかけられた。
隣を見ると、グレンが自らのローブをとって私にかけてくれたんだと分かった。
ふわっとグレンの香りが私を包み込む。
「着てて。」
怒気を含んだ有無を言わさない言葉がその口から発せられ、ビクッとなる。
目にも怒りが宿っていて、いつもの優しい色はつゆほども感じられなかった。
何か言わなきゃと言葉を発しようと思うが、何を言っていいのか、分からない。
「あ……。」
「なぜ、何故だ!神殿と王家の契約が、何故破棄されたのだ!」
(そうだ。まだ終わってなかった)
ふぅ、と息を吐き前を見据えた。
殿下が一歩前へ出た。
「何故、か。
お前が王家の者を害したからに決まっているだろう?」
「そんな事はしておりませぬ。私はその聖女を!……まさか。」
「やっと気付いたんですか?
まぁ、内密に動いていた甲斐があったというものですね、お兄様?
本日付でこの国の第一王女になりました。
── フィーネ・フォン・レオンハルトと申します。
以後、お見知り置きを。大神官?」
ニヤリと笑いながら挑発するようにそう言った私に、大神官は唖然としていた。
「お前達に気付かれんよう、裏で聖女の養子手続きを進めていたのだよ。
今代の聖女は、王家の一員になった。
約定の三つ目。
『相互不加害条約。王族、神官互いを害する事を禁ずる。』
覚えているだろう?
お前はそれに抵触したんだ。
これにより、神殿との契約は破棄された。
今後、長期にわたる聖女への加害の調査を行う。
他にも余罪は山ほどあるだろうな?
覚悟しておくことだ。大神官。」
「そんな暴挙、許されるはずかない!我々の成果は誰にもやらん!許さん!許さ……」
「うるせぇよ。」
ゼロは大神官の言葉を遮るようにそう言うと、足で彼を踏みつける。
気を失ったのか、大神官は静かになった。
「こう言う奴は潰しとかねぇと、切羽詰まって何やるかわかんねぇぜ?
念には念をってな。」
「確かにそうだな。グレン、騎士達をここへ連れてきてくれ。大神官を移送する。」
「分かったよ。」
パチンと指を鳴らすとグレンは転移していった。
「それにしても……あれは、何だ?」
「聖女を、作ろうとしていたそうです。
あの人達は、被害者、です。」
「魔石を埋め込んだのか。
ひでぇ事しやがる。
──アレはもう『人間』じゃねぇ。
『魔物』だな。」
「殿下、剣、持ってますか?」
「持っているが、何をするつもりだ?」
私は檻の中の彼らを見て、手を握りしめた。
「殺すんです。彼らはそれを望んでいるから。」
「私がやろう。フィーネは剣を持った事がないだろう。」
殿下が剣を手にかけ、檻へと歩みを進めようとするのを、腕を掴んで止めた。
「だめです。これは彼らを巻き込んだ、『私』の、罪です。だから、私がやらないと。」
リリスが考案したであろう、『聖女』という仕組みが、彼らの人としての生を奪ったのだ。
だからこれは『私』の罪に他ならない。
「馬鹿かよ。お前は確かにリリーだったが、あいつの功績や罪はお前のモノじゃねぇだろう。」
ゼロはそう言い私の頭を撫でた後、手を檻へ向かって翳した。
氷の剣が彼らの上に現れ、手を下ろすと、彼らの魔石に刺さった。
幾つかのパリンという音と同時に、彼らの体が砂のように崩れ落ちていった。
私は唇を噛むと、胸の前でそっと手を組み、檻の前に座り込んで、祈りを捧げながら彼らを弔った。
♢♢♢♢♢♢♢♢
少しすると、グレンが騎士達と一緒に戻ってきた。
入り口を探していたらしく、少し手間取ったようだった。
騎士が大神官を両脇に抱え、歩き出し、私たちもそれに続く。
チラッとグレンを見るが、目が合う事はなかった。
(怒ってる、のかな?でも、私だって怒ってるんだから)
モヤモヤが心に広がっていくのを感じて、溜息をついた。
大聖堂の入り口付近にラウール様とアリスが見える。
周りはまだバタバタとしていたが、想定していた神官の抵抗は殆どなかったのか、幸いにも戦闘にはなっていない。
騎士に連れられて大聖堂内から出てくる神官達が入り口付近の広場の一ヶ所に集められていた。
中では影によって証拠が集められている頃だろう。
そこまで考え、ハッとした。
そういえば、大神官はアレを持って──。
「あらん。捕まってしまったの?」
艶やかな声が聞こえたと思った瞬間、大神官を抱えていた騎士達が崩れ落ちた。
「え……?」
そこには、黒いローブを目深に被った女性がいた。
グレンとゼロが私と殿下の前に立ち塞がり、戦闘体制に入る。
「何者だ!」
殿下が問うが返事はなく、女は地面に転がる大神官の胸元から、箱に入った魔石を取り出すと、
「ふふふ。良い核が出来たわねぇ。
褒めてあげるわぁ。
ご褒美に、これ、あ・げ・る。」
そう言って箱の中から一つ取り出し、大神官の額に押し込んだ。
グチョグチョと音が聞こえた。
「ひっ!」
思わず後ろからグレンの服を握りしめた。
「それじゃぁ、また会いましょうねん。聖女様。」
そう言うとフッと女は姿を消した。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」
大神官の体が痙攣をはじめ、穴という穴から血が噴き出した。死の匂いがする。
グレンがそっと、私からソレが見えないように移動してくれた。
グレンの背中に完全に隠れて前が見えなくなった。
トラウマは克服している、はずだ。
だけど……怖いものは怖い。
グレンの背中におでこをくっつけ、深呼吸をする。
彼の香りで落ち着きを取り戻す。
なんの音もしなくなったと思った次の瞬間。
バキバキバキバキと何かが折れる音が何度も聞こえた。
前を見ようとグレンから離れ、移動しようとすると、
「フィー。見てはダメだ。
いいと言うまでそのままでいて。」
グレンが緊迫感の滲む硬い声で、私を制した。
「そうだぜ、フィーネ。こんなグロいの見たらしばらく一人で眠れなくなっちまうぞ。」
ゼロは逆に緊張感のない台詞を吐く。
私をあまり緊張させないためだろう。……たぶん。
ボコボコボコボコと、今度は違う音がする。
(音だけ聞くと、想像しちゃって逆に怖い気がする……。)
「まずいな。
グレン、あいつの周りに結界をはって拘束しろ。早く!」
ゼロの硬い声が聞こえた。
ここから私の頑張りどきが始まります!
ラストスパートなので、第一部完まで応援お願いします。
終わったら甘々甘々な回を沢山書きたいー!
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