43 魂と香り
「あいつらは、もう王城に戻ってる。
ご令嬢……アリス、だったか?
あいつは元気に王子に説教かましてるっぽかったぜ?
王子は頭抱えてたけどな。
魔術師と、闇の……グレンとリオ、も普通に動いてた。
ただ、まぁ暗ーい顔してたからな。
問題はメンタルか。」
私は眉根を寄せながら目を瞑り、紅茶が入ったカップをギュッと握った。
ゼロは私の額に手を伸ばすと、人差し指で眉間をグリグリ押してきた。
「ちょっと、何?」
「なーに怒ってんだよ。」
「……分かんない。怒ってるのか、悲しいのか。
でも、いいの。とりあえずそれは後回しで。」
「ふーん。
じゃ、とっとと神殿に行って帰ろうぜ。大神官に一度渡したら、契約完了だからな。
その後すぐ、王城か公爵邸に連れて帰ってやるよ。」
「あ。それはだめ。」
「は?」
そういえば話してなかったなと、私はゼロに今回の計画を話した。
「あー……それで、あいつらフィーネを行かせないようにしてたわけだ。」
「グレンとリオには今回の計画の全容は話してはないけどね。
知ってるのはクリス殿下だけ。」
「お前は相変わらずそういう事するのな。」
「リリスもそうだったの?」
「あぁ。
ただ、リリーは力を持ってた。
誰にも負けない力をな。
だから多少の無茶はきくし、俺たちもそんなに心配せずに送り出せたんだ。
それでも心配しないわけじゃなかったけどな。
だがフィーネは違うだろ。
お前は殆ど力を使えないはずだ。
それなのにリリーと同じ性格なら、皆が心配するのも分かるな。」
その言葉に私は反論する。
「私は自分の力量をわかってるよ。
そこまで馬鹿じゃないもの。
それを踏まえてちゃんと計画を立ててる。」
「そうか?最悪、死ななけりゃいいって思ってねぇ?」
「……そこまでは思ってないよ。」
私は目を逸らし紅茶を飲んだ。
ゼロは半眼で私をじっと見た後、深い溜息をついた。
「はぁ……。
まぁ、俺がいりゃぁ、傷一つつけさせやしねぇけどな。
しっかし、これから俺、また苦労すんなぁ……。」
ゼロは嫌そうな口調でそんな事を言ったが、表情はどこか嬉しそうにしていた。
「そういや、お前、自分の香りが強くなってんの気付いたか?」
そう言われて、腕や髪を匂ってみるがよく分からなかった。
「そう?分かんないなぁ……」
「多分、俺が血を吸ったせいで魂が揺さぶられたんだ。
魔族は人間とは違って魂からも魔力を作り出すことができる。
今まで小指の先ほどだった魔力の漏出が、バケツをひっくり返したくらい大量に溢れ出てんだよ。
まぁ、それでもリリーの本来の魔力量からしたら10分の1程度だがな。
すっげえ美味そうな、フルーツみたいな甘い匂いがするぜ?
──けど、その魔力は封じといたほうがいい。」
「何で?使えるなら使ったほうが良くない?」
「訓練もなしに、人間のフィーネがか?
使えるわけねぇだろ。
使えたとしても制御出来ずに、周りの人間を手当たり次第壊しちまうぜ?」
「どういうこと……?
「魔族はそれぞれに固有能力があるんだ。
魂から出る魔力で能力を使う。
リリーの固有能力は、『絶対的支配』だ。
あいつは『色欲の魔女』だったからな。
香りで相手を思うままに動かす。
頭ん中を勝手に弄るんだ。
人間相手にやると廃人まっしぐらだな。」
血の気が引く。
「は、早く封じよう!でもどうやったらいいの?」
「ま、それは俺にお任せってな。
正直、このレベルならまだ何もしなくても大丈夫だとは思うんだがな。
ちょっと変な気を起こしたくなるだけで。」
「っ!はぁ!?」
そう言って真っ赤になる私に、悪い顔をして笑うゼロを睨みつけた。
「はは。嘘じゃねぇよ?──それはさておき、これやるよ。」
差し出してきたのは、チョーカーだ。
真ん中にひし形の小さな赤い石がついていた。
ゼロは席を立つと私の後ろにまわり、チョーカーを首につけながら説明し始めた。
「俺の血を元に作ってある。
とりあえずこれで漏れ出る甘い魔力を封じ込める。
ただこれは応急処置だな。
本当は俺の血を、フィーネに入れ込めば理論上は封じ込めるんだが。
念の為、それはまた今度ってことで。
──よし。」
そう言うと私の首元に顔を埋め、くん……と匂いを嗅ぎ、そのまま話し始めた。
「ま、こんなもんか。
完璧には消えねぇが、これなら前と同程度だな。
周りの人間に影響はないだろ。」
話すたびに息が首元にかかって、くすぐったい。
私が顔を真っ赤にしているのを知っているだろうに、そのままゼロは私の首に口をつけた。
「んっ……ち、ちょっと!」
「これから神殿に行くんだ。
なんかあった時のために少し吸っとこうと思ってな。
……だめか?」
「……そう言われたら断れない。」
「分かってて言ってるに決まってんだろ?」
クツクツと笑うと私の首筋に歯をたてた。
「くっ……っ!」
一瞬の痛みの後の甘い痺れ。
昨日と同じだ。
違うのは、ゼロが落ち着いている事だろうか。
私の様子を窺うようにして血を吸ってる気がする。
「はぁ……も、う……ぜ、ろ……っ!」
もう終わりにしてほしくてゼロの名前を呼んだ瞬間、ピタッとゼロが止まる。
意味が通じたのだろうか。
首から離れるその直前、魔力が流れたのが分かる。
傷を治してくれたんだろう。
ゼロがペロっと首に残った周りの血を舐めると、それを合図に身体から力が抜け、横にズルっと倒れ込んだ。
「おっと。」
ゼロは私を抱えると、側にあるソファーに腰掛けた。
私は横抱きでゼロの上に座らされ、身体は彼に寄りかかる。
(……まだ力が入んない)
「あのタイミングで名前を呼ばれるのは初めてだったが、ありゃぁ、結構クるな。
──ほんっと、俺の理性が仕事してよかったなぁ、フィーネ。」
頭がまだふわふわとしていて、ゼロの言ってる事の半分も理解できないが、まぁ満足そうにしているので良しとしよう。
しばらくして、頭がクリアになってきた。
私は息を整え、ゼロの上から降りると、行く準備をしながら言った。
「ゼロは、私が合図するまで何があっても手出ししないでね。
あと、ちょっと調べたいことがあるんだよね。
ゼロは神殿がやってる『聖女研究』って知ってる?」
「あー……大神官が言ってたな。聖女の血が必要なんだとか何とか。
ただ内容までは知らねぇな。
興味なかったからな。」
「そっか。
どんな事やってるのか、気になるんだよね。
まぁ、そっちはあくまでついでだから、無理そうならやらないけどね。」
ふわっとベールを頭にかけ、耳についたピアスに触れる。
「よし。神殿へ行こう!」
祝10万字!
これから次は20万字の大台を目指して執筆頑張ります!
フィーネちゃん達の物語を今後もお楽しみに!
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