41 リリーとゼロ
「それで?結局、ゼロは何者なの?」
ベッドに座るゼロに、ざっくりとした質問を投げかけた。
「ま、そうだよな。記憶はない、か。
──俺は魔族だ。」
少し残念そうに言った後、ゼロは衝撃的な発言をした。
「魔族!?」
「そ。魔族。」
この世界で『魔族』は絶対悪だ。
初代聖女が現れる前、この世界は魔族と、魔獣に蹂躙された歴史がある。
ただ、聖女が魔界の入り口に結界を張ってからは少なくとも魔族が現れることはなくなったのだ。
「なんなら、初代聖女『アイリーン』は『リリー』だし、『リリー』は『魔族』だぜ?」
「ちょっっと。まって。」
頭を抱える私に、ゼロは苦笑しながら言った。
「こんなんで頭抱えてたら、全部話したらどうなるんだよ。」
「分かった!
ちょっと、一旦リリーとゼロのことだけ教えて!!」
はいはい。と軽く返事をするゼロを恨めしく思いながら、話を聞く。
ゼロの話によるとこうだ。
魔族であるリリス・イヴ・アスモデウスは、元々魔界で次代の魔王とまで言われていたが、ある日この国の王子と恋に落ち、魔界から人間界に移住する事にした。
魔界からの追手を阻む為に魔界の入り口に結界を張り、愛する人を守る為に王国全土に守護結界を張った。
そしてゼロは、リリスに従属契約を交わした吸血種。
リリスが人間界に行く際に、その契約は解除して魔界に残った。
けど、ここ100年で魔王が変わり、魔族の人間界侵攻が噂されるようになった為、リリスの魂が心配になり結界の綻びから人間界に潜り込んだ。
「情報量ー!」
私はベッドで頭を抱えて転がった。
そういえばこの世界、乙女ゲーなのに戦いアリなんだっけ……。
レベル上げとかってアリスが言ってたなぁ。
「うぅ……。魔王って……。
ハッピーエンドが遠ざかってる気がする……」
「ハッピーエンド?なんのだよ。」
ゼロが訝しげにしているのを見て、体を起こした私は疑問を口にする。
「ねぇ、何でゼロはリリスと一緒に人間界へ行かなかったの?」
「俺まで人間界に行ったら、誰が魔界の情報を得るんだよ。
もしもの時に残った方がいいって判断したんだ。
──それに、人間界で俺が側にいたらリリーの幸せの邪魔になるしな。」
そう言ってゼロはフッと自嘲した。
「邪魔って……なんで?」
「俺は、魔力が作れない体でな。
魔族として、所謂欠陥品なんだよ。
他人の魔力を奪って、自分の魔力として使う事しかできねぇの。
それに気づいたリリーが、俺と従属契約を結んだんだ。
従属になれば、主人の魔力が自動的に供給されるからな。
そんで、吸血種は従属になれば主人の血から、栄養や快楽を得るんだ。
そんな男が、自分の愛する人のそばにいるのは人間には耐え難いだろ。
だから契約は破棄して、魔界に残った。」
その時のことを思い出しているんだろう。遠くを見るように話すゼロに、胸がキュッとなった。
「……じゃぁ、リリスと別れてからは、他の人の血を吸ってたの?
でも、さっき長い間吸えてないって言ってなかったっけ?」
「……吸ってねぇよ。
リリーと別れてから、ずっとな。
栄養は人間みてぇに食い物を食えば多少マシになったからな。
とはいっても、やっぱ血に飢えてたんだな。
長い間の飢餓状態で、理性が吹っ飛んじまった。
悪かったな、フィーネ。」
私と話し、私に謝っているはずなのに、彼は『私』を見ていなかった。
「どうして、他の人の血、吸わなかったの?
従属契約は破棄したんなら、他の人のでも大丈夫なんでしょ?」
「……忘れたくなかったんだよ。
リリーの味も、香りも。全部な。」
目を閉じて自嘲するゼロに、何だか腹立たしく思った。
この魔族は、全然『幸せ』じゃなかった。
『リリス』──『聖女アイリーン』は、王子と結婚している。
その時代の治世は安定しており、魔獣もいなくなった為、
二人の結婚は世紀の大恋愛として今もなお、本や劇などの媒体で語り継がれている。
『リリス』はハッピーエンドを迎えた。
けれど、彼女を想うゼロはずっと苦しく寂しい思いをしていたのだ。
こんなの全然『ハッピーエンド』じゃない。
グッと手を握ると、ある決意をする。
「──私ね、ゼロのこと怒ってるの。アリスを攫ったし、グレンとリオに怪我させたし。」
「いや、まぁご令嬢を攫ったのは悪かったけどな。
魔術師達の件は、俺正当防衛じゃね?
むしろ色々教えてやって感謝してほし……悪かったよ。」
キッと彼を睨むと、ちょっとやり過ぎたと思っていたのか素直に謝った。
「だから、お詫びに、私と従属契約っていうの結んでよ。
これから先、何があるか分からないみたいだし、戦力が欲しいの!
どちらにせよ、ゼロはリリスを守りに来たんだよね?
なら契約をした方が効率的でしょ!」
「フィーネ。それは、魔族に血と魔力を吸われるってことだぞ。」
「『リリス』を守りたいんでしょ?
すなわち、私を守ってくれるって事だよね?
なら報酬としてそれくらいはしなきゃ。
それに、魔力は垂れ流してるみたいだから、ゼロが使ってくれた方が有意義な使い方になるような気がするんだよね。」
私は、決めたのだ。前世、いや前前世?の私が、完璧なハッピーエンドを作れなかったのなら、今世ではきちんと完璧にしてやると。
ゼロも含めて皆で幸せに暮らすのだ。
「いや、だがなぁ。フィーネは人間だろ?
もしかしたら、後々何か従属契約の弊害が出てくる可能性もあるぜ?
リスクは負わない方がいい。」
そう渋る彼に、
「……もう決めたの!
それに、お詫びって言ったでしょ?
ゼロに拒否権はありませーん。」
と、私はにっこり笑って言った。
「お前、ほんとリリーにそっく……。いや、なんでもねぇ。」
「ゼロ、ダメだよ。言いたい事は言わないと。
どこが似てるとか、懐かしいとか、こんな事もあったとか、ゼロの思った事、遠慮しないで全部言って。
リリスの事、私にも教えて欲しいし。
だいたいさ、ゼロは我慢しすぎなんだよ。
これからは我慢なんてしなくていいんだからね!」
それを聞いたゼロは、目を見開き私をじっと見つめた。
「いいのか?なんつーか、不快じゃねぇ?お前の中のリリーしか見てねぇみたいでさ。」
「そんなことないよ。
ゼロは、リリーを懐かしく思って、それを誰かと共有した方がいいんだよ。
そうやってその人のことをいっぱい話すことで過去になるの。
今は足踏みするのが大切なんだよ?」
「……我慢しなくてもいいのか?」
「人を傷つけないならいいんじゃない?」
「そうか。」
ゼロは安心したように柔らかく微笑むと、私の腕を引っ張り抱きしめた。
「わ!」
最初は優しく包み込むようだったのに、次第に身動きが取れないほどの強さで抱きしめられる。
まるで、私の中のリリスの存在を確かめているようで、私は抵抗するのを止めた。
しばらくそうしていると、ゼロが私を抱きしめたままベッドに倒れ込んだ。
「あー……あっぶね。……なぁ、もうこのまま寝ようぜ。」
腕が緩まったのを感じて、抜け出そうとするが、押さえつけられ動けない。
彼の腕の中にいる安心感で、いっそこのまま寝てしまってもいいのではという気になってしまう。
「……やだ。お風呂入りたい。」
「我儘、言ってもいいんだろ?」
「むぅ……。わかったよ。……おやすみ、ゼロ。」
「ははっ。おやすみ……フィーネ。」
ふわっと髪を撫でる仕草に、私は懐かしさと安心感を覚えながら、眠りについたのだった。
ゼフィロスは表裏がない分、とても書きやすいキャラクターです。ただ、大人だけど基本思ったことはやっちゃうタイプなんで甘さがダイレクトで遠慮がない。
書いてて甘さの塩梅が難しいです。
あっという間にもうすぐ10万字の大台です。
沢山の人に見ていただけて本当に嬉しい!
これからも応援よろしくお願いします!
続きがよみたい!面白い!と思って頂けたら高評価、ブックマークよろしくお願いします!作者のモチベーションがアップします!




