38 戦いのセオリー
Side:グレン
(おそらく最初から全力を出さないとやられてしまうな)
相手は格上だ。単なる直感だが、それに従わないという選択肢はない。
「お前に、戦いの定石っつーやつを教えてやるよ。」
男が偉そうにそう言うのを無視して、拘束魔術を展開させる。
幾重もの魔力の鎖が男に絡みつくが、拘束されているにも関わらず、男は落ち着いた様子で話し始めた。
男がまるで講師が生徒に教えるかのような態度で話しかけてくるのが、どうにも癪に障る。
「おいおい。拘束したい時は、動けなくなる状態まで持っていけよ。
じゃねぇと、こうやって思わぬ反撃を受けちまうぜ?魔術師。」
男は絡みついた鎖を引っ張り、口へと持っていくとそれに噛みついた。
すると拘束魔術に使われていた魔力が男の中に吸い込まれていく。
「な、んだい、それは。」
(ありえない。僕の魔力を、喰った──?)
「ははっ。
どっかで嗅いだ香りだと思ったが。
この魔力の味。
お前、ヴァルプルギスの先祖返りだな。
この魔力があっても、ぬるま湯に浸ってたらこうなるのかよ。
宝の持ち腐れだな。」
(ヴァルプルギス──?)
「何を、言っているんだい。」
「へぇ。あいつら自分達のことも伏せてたのか。
徹底してんな。
──さて、魔術師。」
男が手をかざす。
魔導陣の余韻すらなく出現したのは、先端に刃を宿した幾重もの鎖。
──自分が出した先ほどの拘束魔術の鎖とは、明らかに殺気が異なっていた。
「一つ目。
戦いとは殺すか殺されるかだ。
相手を殺す覚悟でやらねぇとやられちまうぜ?
──踊れ。『死の鎖』」
その言葉の通り、踊るように縦横無尽に鎖がこちらに襲いかかってきた。
(魔導陣もなしで、なぜ魔術がつかえる?)
それらをギリギリまで引きつけると、足元に重力の魔導陣を展開、発動し、鎖を地に落とす。
そしてすぐさま鎖の所有権を書き換え、分解、改変を行う。
ふわっと浮いた鎖がバラバラになり、その一つ一つをダガーに変えた。
「行け。」
手を前に伸ばし、命じる。
無数のダガーが男へ突き刺さんと飛んでいった。
その瞬間。
強風が男の周りを吹き荒れ、土を巻き上げた。
視界が奪われる。
ダガーが刺さった手応えがなく、チッと舌打ちをした。
「へぇ。なかなかやるじゃねぇか。
だが、甘いな。
──二つ目。攻撃の手を緩めるな。
どんな相手でも間髪入れず徹底的に攻撃しろ。
こういう風に、な。」
背後から気配がした。
目視で確認する前に結界を張ったが、その結界ごと鎖が巻き付けられ、壊される。
そしてその瞬間、腹部に衝撃を受けたと自覚した時には、殿下たちに張った結界に激突していた。
結界に寄りかかったまま、座り込む。
「グレン!!」
フィーの泣きそうな声が聞こえる。
「ゴホッ……!」
口から血を吐き出す。
それでも立ちあがろうとするが、自分の周りに無数にダガーの刃が向けられている事に気付き、目を見開いた。
その時、ふと地面の影から気配がするのを察知した。
「三つ目。
目的の為なら手段を選ぶな。
ほら、聖女サマ。
このままこの魔術師が刺し殺されるのを待って俺に攫われるか、自分でそこから出てきて俺と共に行くか。
どっちを選ぶ?」
背後から一歩、足を踏み出す音がした。
でも──行かせない。絶対に。
魔力を地面に流す。
この状況での、意思の疎通は不可能だ。
だが、あいつなら僕の意図を理解するだろう。
地面を高く隆起させ、その圧倒的な質量の土石を男へぶつけた。
男は面倒くさそうに溜息を吐きつつ、手を前に出すと魔力を吸収し始めた。
魔力が消えた土砂が勢いを失い落ちていく。
「あのなぁ、諦めろよ。
お前の魔力量やセンスは認めてやる。
だがな、戦闘においての経験の差が大きすぎんだよ。
お前は俺には勝てねぇ。
絶対にだ。」
「そうだね。
悔しいけどその通りだよ。
だけど、僕は一人じゃないんだよね。
天才が二人いたらなんとかなるかもしれないだろう?
──リオ!」
戦闘が始まりましたね。
長くなったので2話に分割しました。
戦闘って文章にするとなんでこんなに難しいんでしょう……。
いつもの倍は時間がかかりました……。
楽しんでいただけたら幸いです!
そして、頑張った私に、どうか、高評価を、星を頂けたらとても嬉しいです!ブックマークもお願いします!




