37 アリス奪還と戦闘開始
神殿の敷地の側に馬車を止め、私と殿下、グレンとラウール様は敷地内に入った。
王国騎士団は、敷地の周りを固めている。
リオ影に潜んでいるのだろか。姿が見えない。
神殿を見ると、至る所に穴が空いており崩れてしまいそうな部分も多々ある。
この神殿は5年前から修繕などは一切されていないのだという。
根深い住民と神殿との確執が表れていた。
さらに、この領内に神官は一人もいないらしい。
何度神殿が神官を派遣しても追い出してきたのだそうだ。
地方にはそういう領地が多々あるという。
神殿の権威の崩壊はもはや時間の問題だろう。
崩壊は外側からじわじわと内部へ向かう。
数年もすれば、神官になろうという者もいなくなるだろう。それなのになぜ、神殿側はそれについての手を何も打たないのか。
起死回生の一手でもあるというのだろうか。
キィと扉が開く音がして、立ち止まる。
扉の奥から現れたのは、黒いフードを被った人物と、その人物に抱えられているアリスだった。
男の顔はフードの影に隠れて口元しか見えないが、若い男のように見えた。
「アリス!!」
私が叫ぶが、アリスからの返事はない。
「私のフィアンセに何をした。」
ビリビリと青い閃光が迸り、殿下の魔力が場を支配していく。
「おー、怖。何もしてねぇ……こともねぇが、ちゃんと無事だよ。今は寝てるだけさ。」
そんな状況にも関わらず男は軽口を叩く。
殿下は溢れ出す怒気と魔力を止めようともせず、男を睨みつけながら再度問う。
「何をしたのかと聞いている。」
男は溜息をつきながら、
「はぁ……。めんどくせぇなぁ。
ちょっとばかし、魔力を貰っただけだよ。
このご令嬢を攫うのに集めた魔力を半分以上使っちまったからな。」
と言った。この男は何を言っているのだろうか。
魔力を、『貰う』や『集める』なんてあり得ない。
他人の魔力は自分では扱えないのがこの世界の常識だ。
グレンをチラリと見ると、じっと男を凝視して何か考え込んでいるようだった。
(それにしても、この魔術師、悪意が見えない?)
アリスや私達を害そうという気配がまるでない。
それに、何故だか懐かしいと思ってしまう。
首を捻り考えるが答えは出なかった。
「まぁ、言っても意味がわかんねぇだろうし、こっちも親切に説明する気もないんでね。
で、聖女サマ?早くこっちにきてくんねぇ?
早くこのご令嬢を返して欲しいんだろ?」
(そうだ。まずはアリスの身の安全の確保をしなくちゃ。)
「分かったわ。」
そう言うと、私は真っ直ぐ男の所へ歩いて行った。
「来たわよ。さぁ早くアリスを返して。」
「はいよ。」
そう言うと、あろうことかアリスの身体を殿下の方に向かって放り投げたのだ。
高く放り投げられたアリスが、重力に従って落下する。
「「「「アリス!!!」」」」
ラウール様が魔導陣から蔦を出し、アリスをキャッチした。
「大袈裟だな。こんくらい受け止め切れるだろうが。そっちには天才魔導師様もいんだろ?」
グレンはアリスに駆け寄り、ラウール様が抱えているアリスの手に触れた。
「うん。魔力の流れも問題ない。
本当に寝てるだけだ。」
「そうか。よし。グレン、始めろ。」
殿下がグレンを呼ぶと、フッとグレンが魔導陣に飲み込まれた。
私の真横に現れたグレンは私の腕を掴み、気がつくと、私はアリスを抱えたラウール様と、殿下の隣にいた。
「……は?どう言う事ですか!?」
私は驚き、隣にいる殿下にくってかかった。
(計画と違う。)
「文句は戻ってから聞こう。
計画は一旦中止だ。
神殿はまた機を見て潰す。
早急に処理しなければならないのは、あの魔術師だ。
あいつを野放しにするのは危険だと判断したんだ。このまま、
グレンに拘束させ尋問する。」
「危ないからこの結界の中から出ないでね。」
いつの間にか、私たちの周りには、結界が張ってあった。
男は、『聖女』を奪われたにも関わらず、腕を組んでその様子を見ていた。
まるで私達の準備が整うのを待っているかのようだった。
それ程の余裕はどこから来るのか。
嫌な予感がする。
「だめ!グレン!」
「準備は終わったか?
──俺を拘束ねぇ。いいぜ?やってみろよ。」
男のその言葉を聞くや否や、グレンの銀の魔力が迸り、手を横に振ると幾つもの魔導陣が男の周りに展開した。
「お前に、戦いの定石っつーやつを教えてやるよ。」
男はニヤリと口端を吊り上げ楽しそうに笑った。
♢♢♢♢♢♢♢♢
戦闘が始まった。
私は見守ることしか出来ない事実に、歯噛みする。
「殿下。なぜ計画を変更したんですか?」
「さっき言ったろう。」
「あれは建前ですよね。」
「……はぁ。グレンとリオに移動中、相談を受けた。
私は、『友』としてあいつらの進言を聞き入れたんだ。
もちろん、先ほど言った、あの魔術師の危険性を考えて許可したのもあるが。」
ラウール様が口を挟んだ。
「殿下は、まだまだ「賢王」には程遠いな。
あいつらの私情を優先させたのは失策だろ。
全部解決したら、全員まとめて説教だな。」
「私がまだまだ未熟なのは、自覚している。
『王太子』としてはフィーネの案の方が正しいと思っていたにも関わらず、あいつらの案を優先したんだ。
……説教も甘んじて受けるさ。」
私は裏切り者の殿下を睨むと、
「後でアリスに言いつけてやる。」
とぼそっと呟き、グレンの方を見る。
(無茶、しないで。)
グレン達が強いのは知ってる。
それなのに。
──それでも勝てないと思うのは何故なのか。
不安が心を埋め尽くし、私は胸の前で手を握りしめた。
全部終わったら、アリスとラウール様の前で正座1時間のお説教ですね!
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