34 ハッピーエンド計画
馬車に乗り、東の教会へ急ぐ。
まだ時間に猶予があるとはいえ、早いに越したことはない。
目を瞑り、頭の中で何通りもの予測を立て、それに合った計画を考える。
やはり、問題は例の魔術師だ。
情報がなさすぎて予測が立てられない。
分かっているのは、グレンと同等かそれ以上の魔術師だということと、おそらく神殿の手のものだということだけ。
もしかするとアリスを攫ったのはその魔術師の独断かもしれない。
私の知る大神官は、そこまで馬鹿じゃなかった。
王家との確執は最小限にしようとしていた印象がある。
「こうなったら、出たとこ勝負だなぁ。
臨機応変って苦手なんだけどなぁ……。」
そうぼそりと呟くと、
「確かに、不意を突かれると慌てることが多いですね、フィーネ様は。」
という声が隣から聞こえた。
パッと目を開け、隣を見るといつの間にかリオがいて思わず体が跳ねる。
「びっっくりするから!本当に!
戻ったんだね。アリスは……?」
「やはり領地内の東の教会にいます。
そこに魔術師と、アリスの魔力が留まっていますので。
今他の影に見張らせていますが、動きはありません。」
「そっか。怪我とか、してないといいけど……。」
「アリスも、フィーネ様に似てお転婆ですからねぇ。
無茶をしていなければいいのですが。」
「お転婆……。」
私は『納得がいかない』と言わんばかりに口をへの字に曲げた。
クスクスと笑っていたリオだったが、不意に黙り込んだ。
そして、スッと私の足元に跪いた。
「ちょっと!リオ!?何やってるの!?」
リオは慌てる私の手を握り、その手の甲を自らの額に押し当てた。
ぎゅっと握られたリオの手が微かに震えていて、私は目を見開いた。
彼は俯いてしまい、表情も見えない。
「命じてください。
貴女が、命じてくだされば、大神官も、例の魔術師も、神殿だって私が全部壊してきます。
──ですから、どうか、行かないでください。」
「リオ?何、言って……」
「フィーネ様は、私達の目の届かないところで必ず無茶をします。
貴女は自分自身を駒のように扱うじゃないですか。
それが一番良い手なのだと疑いもしない。
誰の助けの手も届かない神殿に行かせるのが……っ!怖いんですよ。怖くてたまらない!」
声を荒げ、震わせながらそう言うリオに、なんて言ったらいいのか、逡巡する。
「リオ。
まずは、こっちに座って?
目線が合わないのは……寂しいよ。」
ピクッと肩を揺らしたリオは、細く震えた息を吐き、私の手をぎゅっと握ったまま、隣にに座ってくれた。
だが、顔を上げてはくれない。
「まず、リオに命じる権利は私にはないよ。
あったとしても友達にそんな命令なんて絶対にしない。
──無茶をするのも、自分を駒のように使うっていうのも、多分正しいんだろうね。
リオが言うんだもん。
正直、そこまでとは思ってないけどね。」
あはは。と努めて明るく話す。
「でもね、リオ。
私を誰も助けられないって言ったのはそうじゃない。
物理的に側にいなくても、皆は私の心を常に支えて、助けてくれてるんだよ。
一人だったあの頃と違う。
あの頃は、自分がどうなっても、目的を達成できればそれで良かった。
──その先にある『死』こそ、私が望んでいたものだったから。」
リオがバッと顔を上げた。目を見開き、驚いた顔で私を見た。
「ふふ。やっと目が合った。」
震える声で、リオは私に問う。
「貴女は、幽閉を目的にしていたのでは、ないのですか?」
「うん。もう一人は嫌だったの。
だから、全部終わったら消えたかったんだよ。
でも今は違う。あのね。
これは誰にも言ってないんだけど、今私には壮大な計画があるんだよ。」
「計画……。」
「うん。ふふ。題して『ハッピーエンド計画』!」
「……は?」
いきなり何をふざけたことを言い出すのかとでも言わんばかりのトーンに、ちょっとムッとする。
「ねぇ、ちょっと馬鹿にしてない?」
リオの心が浮上してきたのを感じて安心はしたものの、その反応は解せない。
これは私にとって、大真面目で、大切で、壮大な計画なのだから。
口を尖らせてジト目でリオを見ると、スッと目線を逸らされた。
「むぅ……。絶対馬鹿にしてるね?
いいもーん。
これは私のための計画なんだから。
元々誰にも言うつもりはなかったし?」
「……いえ、あまりにもアレなネーミングで驚いただけです。」
苦笑するリオに、釈然としないが、まぁいつもの軽口が出てきたから良しとすることにする。
「この『計画』はね、皆を幸せにする『計画』なの。
ねえ、リオ。
物語の最後っていつも『みんな幸せに暮らしました。』で終わるでしょ? どうしてだと思う?
それはね、不幸の要素がひとつも残っていないからだよ。
だったら、私の大切な人たちが幸せになるために、邪魔なものを消すのは当然のプロセスでしょ。
だから私はね、ハッピーエンドのノイズになるものは徹底的に排除するの。
その先の『本当の幸せ』のために。」
その為に、今も動いているのだ。
そしてこれからも、その為に動く。
それを聞いたリオは、鳶色の瞳を揺らしながら、私をじっと見つめる。
「その、『ハッピーエンド』とやらに貴女自身は含まれているのですか?」
そう問われ、私はきょとんとしながら答える。
「え、当たり前でしょ?
私も、皆と一緒に幸せになりたいもの。」
「……そうですか。
それでは、私もその『計画』とやらに一枚かみましょう。
貴女の手足となって動きます。
それが私の『幸せ』に繋がりますので。
いいですよね?フィーネ様。」
いつものようにふわりと笑みを溢しながら、まだ握っていた私の手の甲を優しく撫でる。
「え……いや。
リオは殿下直属でしょ?
私の直属みたいな扱いはちょっと難しい……?
いや、今後はそんなこともないのか。
うーん?でもリオは友達だし、友達を手足扱いするのはよくないと思う。」
そう反論したが、にべもなく却下された。
「……今までも、殿下に対して友達であり、配下という立場でした。問題ないでしょう?」
そう笑みを深くするリオの圧がすごい。
このままでは押し切られそうだ。
「分かった。
とりあえず、保留にしよう。
何にせよ、リオを私の配下にっていうのは今回の件が終わらないと何とも言えないしね。
なんか話がズレちゃったけど、言いたかったのは、私はちゃんと無事に帰るよ!って事。
──リオの不安、少しは解消できたかな?」
「……いえ。まだです。」
あっという間に8万字です。このままアリスを救いにいきます!神殿編終わるまでに10万字超えちゃいますね……
戦闘もあります!戦闘の表現って難しいですよね…
読むと頭の中でアニメのように情景が浮かぶように表現したいです。
頑張りますので応援よろしくお願いします。
続きがよみたい!面白い!と思って頂けたらどうか高評価、ブックマークよろしくお願いします!作者の筆が進みに進みます!




