32 運命
Side:アリス
「なぁ。お前聖女と仲がいいのか?
聖女はどんな人間だ?」
そう誘拐犯が聞いてくる。
「それを聞いてどうしますの?」
「どうって、別にどうもしねぇけど。
……まぁ、俺の探すあいつの片鱗が見えたらいいなと思っただけさ。
もう何度も期待しては落胆しての繰り返しだ。
それで?あの女はどういう人間だ?」
男は誘拐犯らしからぬ、疲れたような声を出した。
(あいつ?この男、誰かを探していますの?)
とにかく助けが来る前に一つでも多くの情報を聞き出さなくては。
「私がそれを教える代わりに、貴方も何か情報を渡しなさい。交換条件よ!」
「あのなぁ。お前、今の立場を分かってるか?」
呆れたようにそう言うや否や、私の周りに降っていた雨がその場で停止し凍っていき、矢尻のような形になる。
男が手をスッと私に向けると、その矢尻も私の方を向いた。
無数の刃に周りを囲まれてしまう。
恐怖で体が震える。
──だが。
(今までどれだけの苦難があったか!
転生者を舐めるんじゃなくってよ!)
身体に火の魔力を纏わせる。熱く、熱く、空気を熱する。
どろりと氷が溶け、あっという間に水になった。
「へぇ〜。やるじゃん。
これでビビらないのはすげぇな。」
くつくつと楽しそうに笑いながら、パチンと指を鳴らすと、私の周りにあった水溜りも、ついでにずぶ濡れだった私もカラッと乾いてしまった。
「本当に、なんなんですの……。
何故さっきから魔導陣が一つも出ませんの?」
「おっと。そうか。魔導陣、な。
あー……質問は、それでいいのか?」
「え……?」
「交換条件なんだろ?
ま、つーか、別に普通に答えてやるよ。
さっきのは揶揄っただけだ。」
この男は、悪意がない。
公爵令嬢を誘拐したのにも関わらずだ。
それに今思えば自分の護衛達にも、怪我一つなかったように思う。
──フィーネの可愛いところを沢山話せばいいのよね?
不用意な情報を与えないように気を付けながら私は男に話し始めた。
「では。私からフィーネについてお話ししますわ。長くなりますわよ?覚悟なさいな。」
それからどれだけの時間が経ったか。
しかし、まだ話し足りなかった。
「──それが、フィーネは可愛くて可愛くて可愛いいんですわ!あとは……」
「ちょっっと、ストップ!
あ──もういい。充分わかったから。
ちょっと一旦黙れ。」
「なんですって?
まだ、三分の一ほどしか話していませんわ!
まだまだフィーネの良いところを話しきれていませんのよ!?」
「まだ半分もいってねぇのかよ……。」
男はグッタリしながら、頭を抱えた。
「とりあえず!ほら、お前から質問!
なんかあるんだろ?お迎えの時間になっちまうぜ?」
顔を上げながらそう言う男に、まだ話し足りないですわ。と文句を言いながら、
「そうですわねぇ……。」
と私は考える。
「貴方はフィーネをどうしたいんですの?」
「俺の正体を聞かなくていいのか?」
「良いんですわ。貴方のことは別にどうでも。
フィーネに何をするつもりなのか、それが一番大事なことですわ。」
「お前、ブレねぇなぁ。
いいぜ。答えてやるよ。」
そう言うと、講壇を降りてこちらに近づき、私の前にしゃがみ込んだ。
「俺は、『リリー』を探してる。
あいつの魂をもった『聖女』を。
今代の『聖女』がそうなのか、それを知りたいだけさ。」
「聖女がその『リリー』さんという方なのは間違い無いんですの?
……フィーネがもし、『リリー』さんの生まれ変わりでなかったら。
その時はどうしますの?」
そのまま私と共に帰してくれたりしないだろうか。そんな期待を込めて聞いた。
──しかし。
「そもそも、俺がお前を攫って聖女を手に入れようとしてんのは、大神官と契約をしたからだ。
望みを叶える代わりに、俺の頼みを聞くってな。
あいつは聖女を欲した。
だから俺が聖女を大神官の元に連れて行くのは決定事項なんだよ。
その上で言うが、もし、『リリー』じゃなかったら、何もしない。
そのまま『聖女』が死ぬのを待つだけだ。」
「死ぬのを……?」
「ああ。すぐに死ぬさ。
大神官は今代の聖女を見限った。
代々神殿は見限った聖女を殺してきたからな。
今代もそうなる。
俺はそれを見届けて、また新たな聖女が生まれるのを待つんだよ。
質問は以上か?」
衝撃が身体を走る。
今までの聖女が、神殿に殺されていた?
フィーネもそうなる?
「ダメですわ、そんなの……。」
「仕方ねぇだろ。
それが『運命』だ。
それに、もしもあいつが『リリー』なら、死なせはしねぇよ。」
「待ってくださいませ。
やはり、貴方は『人間』ではありませんわね!?
貴方はいったい……」
「ははっ。
俺の正体には興味なかったんじゃねぇのかよ?」
さてと、といいながら男は立ち上がった。
「まだ日が落ちるまで時間があるな。
少し寝てろ、ご令嬢。
あ、悪いがお前の魔力を少し頂くぜ?
対価は……そうだな。
さっきの質問の答えでいいな?
ありゃ正解だ。
俺は『人間』じゃねぇ。
──『魔族』だよ。」
パチンと言う音が耳に届いた途端、瞼が重くなり、意識が遠のいた。
倒れる寸前に感じだのは、フルーツのような甘い香りだった。




