3
3
罪人を乗せているとは思えないほどの煌びやかな公爵家の馬車の中。
ざまぁされ、国営ニートになり損ねた私は、またもやピンチを迎えていた。
私の隣には、天才魔術師のグレン・アルカディア公爵令息。正面にはクリス殿下直属の『影』、リオがふわっとした笑顔を絶やさずに座っている。『影』とは、王家に絶対の忠誠を誓い、時には裏の仕事を請け負う者だ。その中でもリオは現在の影の長を凌ぐ実力者だと言われている。今も、目を閉じればそこにいないかのように気配を消している。
(なんかアリステリア様と二人きり馬車コースより難易度上がってる気がする…)
馬車に乗る前、私と誰が同乗するかで揉めていたのだ。アリステリア様は何故か私と一緒に(しかも2人きり)乗りたがり、当たり前だが他の男性陣は反対した。
あまりの反対具合に、アリステリア様が折れたのだ。
そんなこんなでこの馬車には、笑みを浮かべた最強な二人と、元悪役聖女が乗っている。
その二人は表面上は笑っているのに醸し出す雰囲気が冷徹。そしてそのまた裏でじっくり観察されているのを感じる。
(器用だな!!いや、まぁ仕方ないか。散々迷惑かけたもんなぁ…)
私の頭の中でグレンに今まで行った痴態がリピートされ、羞恥心で発狂しそうだ。
グレンには「グレンさまぁ♡私魔術が苦手で…手とり足とり教えてほしいです♡」と上目遣いで絡めた二の腕に胸を押し当てたり、わざとグレンにぶつかって抱きしめたり…
(うわぁぁぁ!恥ずかしい!死にたい!)
唯一、あの頃にエンカウントしなかったリオには何もしていないのは幸運か…
だけど、いい加減その視線が鬱陶しくなってきた。
「あの、何か仰りたいことがあればお聞きしますが…」
完全に引き攣っている顔を自覚しながら聞くとグレンが目を細めながらこちらに身を乗り出して言った。
「んー、ねぇフィーネちゃん、前と随分雰囲気変わったね。それも計算?それともなにか心境の変化でもあったの?」
グレンは、アリステリア様とクリス殿下の婚約が発表された日以降、大勢の令嬢達と浮名を流すようになった。そんな遊び人の雰囲気を醸し出しながら、全てを見透かしそうなシルバーの瞳が近づいてくる。
「ち!近いです!離れてください!」
こちとら前世では男性とボディータッチはおろか、そんな距離で話したこともないのだ。刺激が強すぎる。
「ふぅーん?この前まで『グレン様の銀髪、まるで満月の月のようで綺麗です♡』って僕の手を握って胸に押しつけてたくせに?』
過去の私がやらかした痴態を、私の声真似をしながら投下するグレン様。完全に揶揄われている。
(うぅ…地面に穴掘って埋まりたい…)
もうHPはゼロだ。
サラサラと砂になりそうな私を見てくつくつと笑うグレン様と、その様子を観察していたリオ。
リオはふと首を小さく傾けた。
「聖女様、本当に以前とはまるで別人のようですね。まるで違う人がその器に入ったようだ。」
(流石は殿下直属の『影』、ほぼ正解です。)
「いや、人の器に他の人間の魂を入れるなんてことは不可能だよ。この僕でもできないものを他の人間が出来るとは思えないね。」
そうグレン様がリオに反論した。
(うん、それも正解。だって魂は同じ。ただ前世を思い出して経験値が上がって精神が大人になっただけだもの。)
「ですが、今の聖女様は演技はしていません。これがおそらく素でしょう。ならば以前の聖女様が演技ということになりますが…手当たり次第、拙く色仕掛けをしていましたが、あれも本気でやっていたように思います。」
「リオがそう言うなら、そうなんだろうなぁ…ねぇ?フィーネちゃん?」
「…えっと、そうなんですかね?」
(こちらの事情をほとんど知らないのに、すごいな、影。いや、リオだからか。流石の観察眼。とはいえ、どう説明しようがやった事には変わりないし、そもそも説明のしょうがないしね。)
二人の痛いくらいの視線を感じながら、避けるように窓の外を見た。
最強の魔術師にオモチャにされ、最強の影に観察されながらの地獄のドライブもそろそろお終い。そろそろ公爵邸に到着だ。
(あぁ、幽閉コースが良かったなぁ。)
心の中で涙を流しながらドナドナされていくのだった。




