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「クリス殿下。」
凛とした声がホールに響く。そしてつつみこむような慈愛に満ちた笑みを浮かべ、けれどどこか異様な熱を帯びた瞳でアリステリア様はクリス殿下を見た。
「今回の件の処遇、私に一任していただけませんか?公爵家監視の下、教育したいのです。」
「む…この女のしでかした事を考えると軽すぎやしないか。魔塔の地下に幽閉するくらいが妥当だと私は思うが。」
頭を抱えていた私はそれを聞き、がばっと顔を上げた。
「魔塔の地下に幽閉!!是非ともそうして頂けるとうれし…いえ、魔塔の地下でこの国の結界を維持しつつ、この国の繁栄をお祈し、罪を償います!えぇ!一生!!!」
(魔塔の地下はセキュリティも万全。危険もなく、国費で3食昼寝付き、おやつもついてきちゃうかも!一生ぐーたらできるなんでなんて素敵空間!!国営ニートばんざーい!)
しかし、アリステリア様がピシャリと跳ね除けた。
「いいえ、殿下。魔塔への幽閉はなりません。フィーネ様は紋章をもつ本物の聖女。国内外はもとより、神殿から批判を受けるでしょう。」
王家と神殿は仲が悪い。さらに溝が深ることになれば争いが起きてしまうかもしれない。
アリステリア様は私の前へ歩み寄り、手にもつ扇子に私の顎を乗せ私の顔を強制的に上へ向かせた。
そしてアリステリア様は、にやっと悪い笑みを浮かべた。
「高等部での魔術の成績は下位も下位。この国の聖女として嘆かわしいですわ。未来の王妃としてこの国の聖女が無能であるなどということは許せません。
王立最高学府に入学するまでの1ヶ月間で私が直接、その甘い甘い精神を鍛え直して差し上げますわ。よろしいですね、フィーネ様?」
そう言うとくるりと華麗なドレスを翻しクリス殿下に向き直る。
「私の我儘、お許しいただけますか?殿下。」
(王立学園最高学府って東大のようなものでしょ?無理無理!聖女のネーミングだけで行っちゃちゃいけないやつだって!それにあんな恥ずかしい事を沢山の男の人にやっといて、最高学府でまた関わらなきゃいけないなんて無理ぃー!引きこもらせてください殿下!!頑張って殿下!!)
そう願いながらクリス殿下の方を見ると、さっきまでの冷酷な姿はなく、耳を真っ赤にしてデレデレしている第一王子。
「未来の王妃…アリスが王妃…アリスが私との結婚を…!」
アリステリア様に『未来の夫』と宣言された喜びできっと脳内はお花畑なのだろう。
(こりゃダメだわ…)
「うむ!アリスがそこまでこの国の未来を考えてくれているとはな。さすがは私の婚約者だ。頼もしいな。」
そう言うとクリスはアリステリアの手を掬い上げ、口元に持っていきキスをした。
「っ!!と、当然のことですわ!」
顔を真っ赤にしてそう答えたアリステリア様と口角が上がりっぱなしのクリス殿下。
ほんわかしてしまった空気感に、ため息をついたラウール様がパチンと手を叩き、空気を引き締めた。
「では殿下。処遇の決定を。」
そう言われてデレる心をなんとか引き締め立て直し、こう宣言した。
「フィーネ男爵令嬢は公爵家預かりとする。なお、公爵家に危害が加わらないよう、監視として私直属の『影』をつけることにする。リオ。」
そう呼ぶと殿下の前に鳶色の髪をした男性が音もなく現れ 跪いた。
「これより、フィーネ男爵令嬢の監視と護衛を命じる。常に監視をし、何かあればすぐに報告を。」
「御意、クリス殿下」
テノールの柔らかく心地よい声が響いた。
リオはふわっと子犬の様に笑いながら私を見た。彼の目は閉じられているのに、なぜか頭の先からつま先まで、心の奥まで観察されているような気がして背筋がひやっとした。
「フィーネ男爵令嬢。アリステリアの温情に感謝し、今後このような不届な真似はしないことだ。ーー二度目はない。よいな。」
「えっ、あの、魔塔に幽閉は…」
「しないな。」
「で、でも、引きこもりという名の罰を…」
「くどい。連れて行け。」
こうして、前世の記憶を詰みのタイミングで思い出した私の『国営ニート計画』は悪役令嬢の企みによって潰されたのだった。




