23 長期戦
あれから30分後。
ようやく涙が止まり、真っ赤になってしまった目を冷やす為、タオルを瞼の上に乗せた私はソファーに横になっていた。
いつの間にかリオに結ってもらっていた髪が解けていたのが不思議だったが、きっとグレンが横にするために解いてくれたんだろうと思った。
(あの髪留め、可愛かったからお気に入りなんだけどグレンが持ってるのかな?)
グレンは昼食を取りに食堂へ行っている。
魔塔のご飯はとても美味しいらしい。
グレン曰く魔塔で働く魔術師は、毎日が研究と仕事の繰り返しでご飯くらいしか楽しみがないらしい。
だから食事は王宮に劣らないクオリティーなのだとか。
とても楽しみだ。
──じゃなくて。
(うぅ……大の大人が人前で大泣きしてしまった。でも不思議とすごく心が軽い。)
グレンのおかげだな、と思う。
前世にも友人はいたが、ここまで踏み込んだ友人は誰もいなかった。
今世はとても幸せだと心の底から思う。
だからこそ、守りたいと、払える憂いは払っておきたいと思うのだ。
想定している動きはまだないけれど、おそらく彼らが動くのにそんなに時間は残っていない。
(早くしないと)
けれど焦りは禁物。
丁寧に、内密に、確実に、スピーディーに手を打つ。
主に私ではなくクリス殿下が、だが。
今回私にできるのは、聖女の力を扱えるようになる事と体力をつけること。
目を瞑りながらそんな事を考えていると、ドアの開く音がした。
美味しそうな料理の匂いがする。
タオルを取って起き上がると、グレンが両手にトレーを持っていた。
魔力でテーブルの上にあるものを移動させ、そこに食事の乗ったトレーを置く。
トレーいっぱいに様々な種類の料理が置いてある。パンの種類も豊富だ。
「す、すごいね。」
「バイキング形式なんだ。
フィーが好きそうなものを沢山取ってきたよ。
一緒に食べよう。」
そう言うと、私に取皿を渡してくれた。
「ありがとう。いただきます。
──っ!おいしい!!何これ!
すっごい美味しいんだけど!」
公爵家の食事もとても美味しいが、これはなんというか別次元だ。
「口に合ったみたいで良かった。
ほら、これも美味しいんだよ。」
そう言ってニコニコと私に勧めてくるグレンに
「グレンも一緒に食べよう?」
と言うと、はははっと、笑い
「そうだね。
……フィーはなんだか、リスみたいで可愛いねぇ。」
(リス……言うにに事欠いて、リス……)
口の中に入っているので話せない。
「むぅ……。」
私は、まだクスクスと笑っているグレンをむすっと睨みながら、目の前の美味しい食事を堪能した。
お腹もいっぱいになり、食後の紅茶を飲みながら一息つく。
「うぅ、美味しかった。
やっぱり魔塔で幽閉コースもアリだったかも。」
なんて言っていると、グレンは
「それはアリスが悲しみそうな台詞だねぇ。」
そう何かの本を凄い速さで捲りながら言った。
「何か探してるの?」
「うん。……あった。」
グレンはその本をこちらに見せながら、これはあくまでも僕の仮説だけど、と前置きをして私の状態について説明し始めた。
「さっき魔道具を使った際、フィーの身体にはちゃんと魔力が流れていた。
その流れは放出する前で滞っていたよ。
だからフィーが無意識に留めているのは間違いない。
そこはもしかしたらもう解決するかもしれないね。」
「うん。私が魔力を使えなかったのは、血と死の記憶のせいだと思ってたけどそれだけじゃなかった。
死を望んでたから。
もし力が使えなかったら無能だと言われてきっと殺される。
心の奥底でそれを望んでたから、魔力を拒否してた。」
グレンはそっと私の頬を指で撫でながら、不安そうに言った。
「もう、そんなこと、思ってないかい?」
私はぱちりと瞬きをして、破顔した。
「当たり前でしょ?
皆がいるもの。
──それに、ずっと側にいてくれるんでしょ?」
グレンは目を見開いた後嬉しそうに笑ったが、
「ってことは、アリスに引き続き、二人目の親友ね!」
と続けると、何故か固まり頭を抱えた。
「あれ?グレン?」
暫くそうしていたグレンだったが、深い深い溜息をつきつつ
「ははっ。これは長期戦だなぁ。」
と苦笑いしている。
「ん?なんの戦い?」
「いや。こっちの話。
それで仮説の続きだけど、フィーが今現在魔力を使えないと結論づけるのにはおかしいと思う点があるんだ。」
「おかしな点…?」
なんだろうかと首を捻る私に、グレンは丁寧に説明を始めた。
「この国に張られている守護結界だよ。
あの結界はを維持するのにはかなりの魔力量が必要になってくる。
聖女は日に何回か祈りを捧げ魔力を放出するとあるけれど、フィー、君が最後に祈ったのはいつ?」
「あー。男爵に初めて神殿に連れて行かれた際に、祈れって言われやったんだけど、本当なら、金色の魔力が空に放出されるはずが何も起きなくて。
それ以来無駄だからやらなくていいって言われてやってないの。」
「だとしたら先代の聖女が亡くなってから長い間、魔力が注がれてなかった事になるけど、今現在結界に異常はない。
聖女の魔力なしで結界が維持されるなんて事は理論上あり得ないんだ。
しかも、今までの聖女の結界は薄くて綻びも目立っていて、年々その綻びも大きくなってきていてね。魔獣の出現も増えてきたから、魔塔でも結界を強化する為の魔術の構築を研究していたんだよ。
だけど、フィーに聖女の力が発現してから、急激に結界が強固になっていったんだ。
今じゃ綻びなんてどこにも無い。
完全な守護結界だ。
だとすると結論は一つ。
フィーは無意識に大量の魔力を常に放出しているんだ。」
その仮説を聞き、私は驚きで目を丸くした。
「……は?いやいや、そんな感覚全然ないし。
グレンにも私から出てる魔力、見えないでしょ?」
魔力を持つものには魔力を色で感知することが出来る。
それぞれ使える魔術によって色が変わるのだ。
グレンは全属性で銀色。
アリスは火属性の赤。
クリスは水属性の青。
ラウール様は土属性の緑。
リオは闇属性の黒だ。
「そう。フィーから出てる魔力は見えない。
だから、これを使ってみよう。」
机の上のトレーを片付けたグレンは、魔力測定器を置いた。
フィーネちゃんはまた何か企んでるみたいです。
うう、甘さが欲しい…!グレン!頑張って!
続きがよみたい!面白い!と思って頂けたら高評価、ブックマークよろしくお願いします!作者大歓喜します!




